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今更ですがゼットじゃなくてズィーです

台風のせいで遅れました。

あと長くなったので途中で無理矢理切っています、申し訳ありません。




 その後、ミサキが頑張って宥めた結果ようやくリオネーラは剣を収めて少女を解放したのだが、肝心の少女はずっと平伏したまま頭を上げようとしない。


「まことに申し訳ありません……許して頂けるとは思っていませんがどうか償いの機会をください、何でもしますので……」


 さっきまでの老人言葉も何処へやら、反省の様子が痛々しいほどに伝わってくる低姿勢っぷりである。

 まぁ酔っ払って勘違いして人の命を奪いかけたのだから頭を下げるのは当然だ。同時にいくら反省して頭を下げても足りないのも事実だが。ミサキ側も(ズルをして(スキルを使って)回避したとはいえ)死にかけた以上はタダで済ませるつもりは流石に無かった。


(とはいえ、命まで奪うつもりは無いけれど)


 悪には罰を、痛みには報復を。人の行いには相応の報いがあるべきだとミサキは考えている。が、だからこそ相応以上の報いがあってはいけないとも考えるし、悪人かどうかの判断も慎重に行う。

 今回は結果論とはいえミサキ自身は無傷だった。そして攻撃してきた少女が意味深な事を口走ったり、近くに居た二人を庇おうと動いた事も彼女は知っている。もっと言えば二人が居たからこそ攻撃を急いだ可能性すらある。所詮は可能性に過ぎないのだが、ミサキはそこまで想像できる人間だ。

 よって、それらの行動の報いが命というのは少々筋が通らないし、少女を悪人だと断定するのも早計。それがミサキの出した結論だった。リオネーラを宥めたところからもそれは窺える。


 だが、それは事を荒げたがらない現代人(異世界人)故の甘さと言えるのだろう。現に現地人の親友二人は未だにピリピリしておられる。


「何でもするって言うんならねぇ、相当な事をしてもらわないとねぇ……?」

「とりあえず命とお金と身体と心と魂とこのお店くらいは差し出してもらいましょうか」

「なーに言ってんのよそんなの最低条件でしょウフフ」

「そうですねぇこんなんじゃ全然足りませんよねぇアハハ」


 ピリピリどころじゃない。殺る気だ。怖い。


「……二人とも、少し落ち着いて――」


「は?」

「は?」


「…………どうか落ち着いてください」



「「ハァ?」」



 怖すぎる。


「センパイ、まさか許すおつもりですか? 確かにセンパイの優しさは素敵ですけど、それは行き過ぎですよ?」

「そうね、心情的には最低でもZランク落ちはして貰わないと気が済まないわ。ミサキ、あなたは一歩間違えば死んでたのよ? わかってる?」


「……わかってる。許すつもりは流石に無い。償いはしてもらう」


 視界の隅で少女が震えた気がしたがそちらは後回しだ。

 親友二人が恐ろしいくらい怒ってくれているのはミサキにとってありがたい事であり、故にミサキには彼女らの気持ちに報いる義務がある。少なくともミサキ本人はそう考えている。

 しかし同時に先述の通り命を差し出させるのはやり過ぎだとも思っているし、万が一命で(あがな)ってもらうとしても親友の手を汚させるのは嫌だ。やる時は自分でやる。いや、やるつもりはないんだけど。

 という訳で、ミサキは心配し怒ってくれている親友二人が溜飲を下げつつも命までは取らないで済むような、そんな都合の良い落とし所を提示しなくてはならない。

 勿論それが叶わなければ親友の感情を優先するが、叶うならそれに越した事は無い筈だ。そう考えたミサキはまずその為のパーツ集めを開始する。具体的には三つほど。


「……ところでリオネーラ、先にそのZランクっていうシステムについて聞いてもいい?」


 一つ目はこれだ。今までの話の流れから罪を犯した人に適用されるシステムっぽいのは予想出来ている。よって今回の落とし所を作るのにも一役買ってくれる可能性があるのだ。


「あー、そっか、ミサキは知らないわよね……うん、勿論説明はしてあげるけど……なんか調子狂うわねぇ……」

「……ごめん」


 話の腰を折っている自覚はあったのでミサキは素直に謝った。その質問と態度がリオネーラの怒りを微妙に霧散させた自覚までは無かったが。


「大丈夫よ。んーとね、まず前知識としてだけど、この大陸にある大半の国々の治安維持を担っているのはギルドなの。これはギルドが元々唯一の種族の垣根を越えた共同運営組織で、同様に種族の垣根を越えてハンターを雇っていて、更にハンターとは別に動かしやすい私兵まで持っていた事が理由ね。ギルドナイトって言うんだけど」

「ふむ」

「元々彼らはギルドに仇なす者やギルドのルールに背いたハンター達を取り締まるのが仕事なんだけどね、多種族を擁するギルドの動かしやすい私兵という事で種族間のトラブル解決にも派遣され、上手く解決してきてたのよ。じゃあいっそのこと治安維持も全部ギルドに任せた方がいいのでは? ってどこの国も言い出してね」


 割と投げやりに聞こえるが、実はこれも大戦後間もない時期の出来事。どの種族も自国を立て直す事に注力していたい反面、一度手を取り合った他種族との交流も欠かすわけにはいかない……そんな時期であり、種族間のトラブルはどこの国においても頭痛の種だったのだ。

 そんな中で他種族同士のトラブルも上手く解決する多種族組織があるとなればそれに頼るのは自然な流れと言える。もっとも、それでも国が一つの独立した組織に治安維持の全権を委ねるというのは相当な信頼が無いと成り立たない事ではあるが。しかも多くの国がそう判断したというのだから尚更。

 要するに信用第一のギルドはどこの国からもちゃんと信頼されているスバラシイ組織という事である。長々と種族の垣根を越えて活動してきた結果だ。ギルド万歳。


(つまり、そのギルドナイトとやらが警察のような役割を果たしているのか……)

「まぁ実際はハンターズギルドとしての仕事もあるからその地の憲兵隊に手伝ってもらう事も多いらしいけど。取り押さえた悪人をどう裁くか、事件にどう始末をつけるかは全てギルドに委ねられるようになったってワケ」

「……それで?」

「そう、ここからが本題ね。ギルドは本来ハンターを管理する組織。ハンターにはランクっていう物があって仕事をしていれば上がっていくんだけど、悪い事をしたハンターはランクを落とされたりそもそもランクを剥奪されたりしていたの、昔はね」

(……成程、見えてきた)

「治安維持を任されたギルドは、その仕組みの一部をハンター以外、っていうか悪人に流用し、適用した。落ちていく方だけを適用した。つまり、犯した罪次第では人としてドン底のランク――Zランクに落とす、ってね」

「……一番下だからZランク、ね」


 最初は罪人(Zainin)のZだと思っていたというのは内緒だ。


「……それで、そのZランクの烙印を押される事はどのくらい恐ろしい事なの? ボッツ先生は犯罪抑制に繋がっていると言っていたけど」

「Zランクは人として扱われず、そしてZランクに落ちて帰ってきた者は居ない。……ま、そういう事よ」

「……それは怖い」

「そのぶんギルドも落とすかどうかは慎重に決めているらしいけどね。犯した罪の程度によっては罰金や奉仕作業で済ませる事もあるわ。……理由なく人を殺めたらZランク落ちは間違いないと思うけど」

「………」


 もしもZランクに落とす事で全てが丸く収まるなら、と期待していたミサキだったが、いざ聞いてみればフツーに怖い話だったので残念ながら落とし所を作るのには役立ちそうも無かった。っていうか命を取るのと何も変わらん。

 ミサキ自身が無傷である事を理由に減刑してもらえる可能性も当然あるが、そもそも可能性に賭ける訳にもいかない。命は取らないと決めたのだから。


(もしかしたらZランクの人もどこかで生きてはいるのかもしれないけど、帰って来れないならこちらから見れば同じ事。……前世で言うなら絶対に帰って来れないマグロ漁船やタコ部屋みたいなものか、Zランクは)


 漁船なのに帰って来ないとはこれイカに。



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