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k●n●zama

前回のあらすじ:校長仕事中...



「あーそうじゃ少女らよ、街に行くのであれば頼みたい事があるんじゃが……何ならクエスト扱いでもいいぞ? 相応の報酬は約束しよう。前払いでの」

 

 まるで盗み聞きしていたかのようなタイミングで口を開く(校長)

 そして勿論、その骨が口を開くという事はもれなく教頭のお小言もセットでついてくる。


「貴方は黙って仕事をしろ。気を散らしているようでは今日中に終わりませんよ」

「わかっとるわい! 仕事をしていて手が離せんからこその頼みじゃ! どうか聞いてはくれんか?」

「どうせロクな事ではない癖に……断ってくれて構いませんからね、三人とも」


 声をかけられた三人は少しの間だけ顔を見合わせたが、クエスト扱いという事なのでひとまず判断はミサキに一任する事にしたようだ。二人に促され、ミサキは一歩前に出る。


「……何でしょう」

「うむ、ミサキ君が一番適任じゃからな、君が判断してくれると話が早くて助かる」

「……というと?」

「今日届く予定の酒が届かんのじゃよ。今までも何度かあった事じゃが馴染みの店なんでな、その度に仕方なく自分で取りに行っておった。今日もそうしようとしたところで教頭に捕まってなぁ。どうじゃ、その外見を活かして店主をちょいと脅して、酒を差し出すよう仕向けてくれんかのう? 今後こういう事の無い様にキッチリと、な」

「………」


「……このバカ骨、仮にも少女に向かってそんな無神経な言い方は――」


 無条件で恐れられる外見、それによって他者から向けられる畏怖の視線、それらを幼い女の子が気にしていない筈は無い。教師たるもの、そこにはもっと気を遣って触れるべきだ――と立派な大人である教頭は考えていた。

 っていうか触れるどころかそれを理由に仕事を頼むとはどういうつもりだ、とキレかけていた。マジでキレる5秒前だった。……のだが。


「――なるほど、この外見を活かせるクエストですか……いいですね、やる気が出てきました。是非とも受けさせてください」

「あ、いいんですか、そういう扱いでいいんですか貴女」

「……? 何がでしょうか」

「いえ……何でもありません」


 言われた本人がノリノリならキレる訳にもいかない。教頭は大人しく(MK5)を引っ込めた。

 ミサキは自身の外見が恐れられる事については仕方ないとスッパリ諦めて受け入れており、そして受け入れたが故にそれ以上のマイナス感情は持っていない。嫌われっぷりがトラウマになるとか自身の外見まで嫌いになるとかそんな事は無いのだ。

 まぁ、人助けの妨げになりそうな外見、と考えると憂鬱にはなるし、友人二人の洋風美少女っぷりを羨ましく思ってもいるが……だからといって自分の日本人らしさを捨てるつもりもない。女神に望んだ時からずっと彼女の気持ちは変わっていなかった。

 そして今、そんな外見が役に立つと言われたのだ。洋風美少女の友人二人には出来ない事。赤鼻のトナカイだと言われればやる気も出ようというもの。


 ちなみに洋風美少女の友人二人の方はミサキの反応を見ても、やっぱそうなるかー、みたいな感じである。

 変人(二人から見れば)たるミサキの行動と思考を読み切った訳ではない。変人(二人から見れば)だからこそこんな反応をする可能性もある、と想定出来ていただけの事だ。ミサキは徐々にその変人(二人から以下略)っぷりを信頼されつつある。それでいいのかはわからないが本人が気づいていないのでどうしようもない。


「で、どうじゃ? 受けてくれるのかのう?」


 校長からの最終確認の言葉を受け、ミサキは振り返る。そしてそこにあった苦笑する顔と勢いよく頷く顔を見届けて前を向く。

 同意は得た。後は……個人的に譲れない、最後の質問だ。


「……相手側に落ち度があるのはわかりましたが、どの程度脅すかは相手の話を聞いてから私達で判断してもいいでしょうか?」


 ミサキは悪を懲らしめる事に抵抗は無いが、やりすぎは良くない事も知っている。「脅す」という強い言葉を使った校長はそれなりに()()なのだろうが、それでもミサキ(現代人)の感覚からすればこの件は口頭での厳重注意(と自身の外見による威圧)くらいが関の山だろうと考えていた。仮に指詰めをさせて脅せとか言われたら流石に少し抵抗がある。それが異世界のケジメだと言われれば従うつもりではあるが。

 それに加え、そもそも片方の言い分だけを聞いて悪だと断じるのが危険な事も彼女はちゃんと知っているのだ。まずは相手の事情を聞き、その上で全てを判断したい。これはそういった確認の問いである。


「ほほっ、案外甘い娘なんじゃのう、ミサキ君は。なぁ教頭よ?」

「校長が嘘を言っている可能性がありますからね、当然の判断かと思いますよ。自分に信用があるという前提で語る貴方の考え方こそ甘い」

「ぐっ……そ、そうじゃな、ワシに限らず依頼主が嘘を言っている可能性はあるからな、将来ギルドで受ける時にもそうやって気をつけると良いぞ。ワシに限らずな! ちゃんと他の奴も疑うんじゃぞ!?」


 必死である。もう死んでいる骨の癖に必死である。もしかしたらそういう身体を張ったネタなのかもしれないがツッコむ人も居ない。

 もっとも、日頃から仕事もせず教頭に迷惑ばかりかけている校長に信用がないのは仕方のない事なのだが……しかし今回ミサキは校長の言葉を信用していない訳ではない。そこは訂正しておかないといけない。ツッコミ不在でちょっと空気も痛々しいし。


「……依頼主の言葉は信じていますが、それが全てとも限りません。相手にも何かしらの事情があったのかもしれない。それを聞いてから判断したい、という意味です」

「……ワシ個人が信用されているかいないかは関係なく?」

「関係なく。誰が相手でも私は同じ事をするつもりです」

「そうか……ふむ、やはりなかなかに甘い娘ではないか。よしわかった、判断は全て君達に任せるし、ワシからはこれ以上情報を吹き込む事もせん。酒さえ届くなら後は好きにして構わん、全ては自分の目で確かめてから決めてくれ」

「ありがとうございます。謹んでお受けいたします」

「無駄に腰が低いのぅ……。まぁよい、教頭、依頼書を書いて前金を渡しといてくれ。ワシは仕事で忙しいんでな! とっても忙しいんでな! 任せるぞ!」

「……あてつけがましい……ですが仕方ないですね。わかりました、少々お待ちを」


 そう言い、依頼書を取り出した教頭は時に校長と相談しながらもサラサラと綺麗な字で流れるように記入していく。ボッツの汚い字とは雲泥の差である。


(……昨日ボッツ先生が職員室にわざわざ戻って記入してたのは、もしかして字が汚い事を気にしているからだったりするのだろうか)


 最初の時点では記入する気すら無かったようだし、その可能性は高いとミサキは考えた。まぁ、だから何だという話でもないが。ぶっちゃけすごくどうでもいい。

 そんなどうでもいい事を考えていると教頭から大きめの硬貨を3枚も渡された。この世界の金銭感覚にまだ馴染めていないミサキだが、これは結構な額のように思える。


「こちらが前払いの報酬です、が、酒の代金も含んでいるそうです。正確にはここから代金を差し引いた額が貴女達の報酬になるという事ですね」

「……道理で」

「店までの地図も描いておきました、どうぞ。……恐らくあの仕事量だと校長は夕方まではかかるでしょう。それまでに持ち帰って貰えれば大丈夫ですよ」

「わかりました。ありがとうございます」

「いえいえ、お気をつけて」


 と、そんなこんなで結局休日でも変わらずクエストを引き受けた三人であった。



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