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フルボッコだドン

次回へ若干続きます




「な、なんで魔物が学院に……!?」


 真っ先に声を上げたのはリオネーラだった。三人とも頭の中でいろいろな可能性を想像はしたのだが当然答えは出ず、答えを欲していち早く痺れを切らしたのがわかりやすい性格の彼女だったのだ。

 しかし、そんな彼女の反応を楽しんでいる――訳ではないがそれと大差ない程度に性格の悪いボッツは答えをすぐに口にはしない。してくれない。


「さァて、何でだと思う?」


 口角を吊り上げながら質問に質問で返す。ひとまず生徒に考えさせるというのは決して悪い教育法ではないのだが性格の悪いボッツはそれを純粋に意地悪でやっているし、仮にそうでなくとも彼の場合は日頃の行いが悪いのでやっぱりただの純粋な意地悪にしか思われないだろう。


「う、うーんと……魔物との戦闘訓練のためですか?」

「ハズレだ。俺は前に言っただろう、魔物と訓練できればそれが最適ではあるがそうはいかん、と」

「あ、そういえばそうでしたっけ……」


 意地悪されつつも優等生らしくボッツの性格を踏まえてリオネーラは答えたが、残念ながら魔物を目の前にして若干冷静さを欠いていたようだ。いつもの彼女であればこんなうっかりミスはしない。

 次にボッツに視線を向けられたのはエミュリトスだ。彼女はシリアスな表情で確信の持てない答えを返す。


「人類に利益をもたらすよう、魔物を何かしらの形で利用する方法を研究している……?」

「それはあれだな、思い上がったバカな研究者がアホな事やって暴走するパターンだな。まァ将来的な可能性としてなら想定されてはいるが断じて現在のメインの目的ではない」

「なーんだ、残念」

「残念ってなんだよ破滅願望でもあるのかよお前、怖ぇな」

「えへへ」


 そこは否定しろ、と誰もが思いつつも声には出さず、次第に皆の視線は残る一人へと集まる。

 それなりに頭の回る彼女(残る一人)は二人の言ったような可能性も勿論想定していた。それらはハズレだったが、それ以外のいくつかの可能性も勿論頭の中にある。その中で最有力と思われるものは――


「――食べる為?」


「………」

「………」


「…………」

「…………」


「……お前腹減ってんのか? ほら、パンやるよ」

「……ありがとうございます」


 一応ミサキは大真面目に答えたのだがすっごい間が空いた後にパンを恵まれてしまうという結果に終わった。

 もっとも、これに関してはボケと勘違いされても仕方ないだけの理由――というかこの世界での常識が存在するので、誰もが同様に真に受けない可能性が高いのだが。


「ハァ……。お前もゲイルの野郎の授業で習っただろ? 魔物は死ねば塵へと還り、核のみを残して消え去ると」


 そう、ボッツの言う通り前日のゲイルの授業で魔物に共通する特徴については説明されており、その中のひとつに『生命活動を停止した魔物は霧散する』というものがあった。つまり仕留めても核 (とてもかたい)以外は何も残らず、よって魔物を食べるという発想は普通ならば出てこない。

 しかしミサキとて当然それは覚えている。彼女は授業を絶対に聞き逃さない。その上でそう答えたのだ。

 理由は二つある。貰ったパン(リオネーラがくれた物より堅くて味気ない)をもぐもぐしながら彼女は順に説明に入った。


「もぐ……しかしあの魔物、どう見ても……ベースが家畜じゃないですか。もぐ」


 上述の霧散と同じく、『魔物は他の動物の姿形をベースにしている』という特徴がある事も授業で習っている。理由は不明だが、狼だったり馬だったり鳥だったり蛇だったりトカゲだったり、そういったこの世界の生き物と同じ姿をしつつも体色は真っ黒……それが魔物の基本的な姿なのだ。

 そして、今ミサキ達の視線の先にいる魔物の姿は家畜――っていうか、ブタなのだ。真っ黒なブタ。おいしく食べられる家畜代表と言っても過言ではないブタ。牛とその地位を争っている絶対強者。ミサキが食用という発想に傾いてしまうのも仕方ないと言える。


「それに、魔物は死ねば消えると習いはしましたが、裏を返せばそれは消えるような物質で出来ているにもかかわらず生きている間は常にその姿を形作れているという事ですよね。もぐ」

「はよ食え」

「むぐ……ごちそうさまでした。……つまり、魔物が生きている間ならその身体も食べられるという事。であれば異文化交流を目的としたこの学院の事です、魔物を主食とする人達の為に飼っている可能性もあるかと」


 もう一つの理由は彼女が昼食時に異文化に少し触れたからである。彼女は視野が比較的広い。魔物を食べる文化もあるかも、と想像出来る適度には。同時にそういった『普通では有り得なさそうな事』を受け入れるだけの器も持っている。異世界人であるが故に見知らぬ全てをありのままに受け入れる覚悟が出来ているのだ。

 という訳で、そんな彼女の思考はボッツの問いに対する回答の最有力候補が『食用』だという結論を弾き出した。弾き出してしまった。ぶっちゃけそうだったら面白いなーという願望が無意識レベルで存在していたと思われる。


 ……まぁ、最初のボッツの反応からわかる通りその回答はハズレなんですけどね。長々と説明してきたけどやっぱり大ハズレなんすよねこれ。


「無ぇよアホか。魔物を食うってだけでも馬鹿げてるのに生きたままだと? 頭狂ってるんじゃねぇのか」


「さ、さすがはミサキね……」

「ワイルドなセンパイもアリだと思いますよ!たぶん!」


「………あれ?」


 ガチで薄気味悪いものを見る目で見られて少し落ち込む。魔物を食べるという発想も何かを生きたまま食べるという発想もドン引きされるレベルで存在しなかったらしい。

 前者は上述の通り彼女の視野の広さから来る発想だったが、後者は踊り食いや活け造りという文化のある日本人故の発想と言えない事もない。いやミサキ自身も実際にそれらを食した事がある訳ではないのだが、何にせよまたしても日本人らしさに原因があったという事になりそうで地味にショックだった。


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