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方向音痴は萌え要素と言われるけど当人は気にしてる事も稀によくあるからリアルではあまりイジらない方が良い


◆◆



(――ええと、クエストの受け方は……掲示板を見て、受けたいクエストの番号をカウンターに座る受付係の人に告げる、だっけ)


 午後のボッツの授業で教わった内容を振り返りながら、放課後、ミサキは学院公認クエスト受付エリアに足を運んでいた。

 後ろを振り返ればいつも通りリオネーラとエミュリトスもいる。彼女らにもそれぞれ目的があるのだろう。クエストの目的と言われて真っ先に浮かぶのは金だが……


「……二人もお金に困ってるの?」


「「全然?」」


「……そう」


 全然困っていないらしい。

 教頭が憂慮する程度には生活費に困っている生徒はいるはずであり、実際ここ受付エリアに生徒の姿は結構見えるのだが二人は例外のようだ。

 まぁ、大口の借金までしているミサキも例外といえば例外だが。悪い意味で。


「あたしはクエストの受け方とか知らなかったからね、ここでしっかり慣れておきたくて」

「……リオネーラは物知りなイメージあったからちょっと意外」

「一応話には聞いてたんだけどね。あたしの村は田舎で、ギルド支部がちょっと遠くてさ……」

「……?」


 田舎だと支部が遠くて問題らしい。……そもそも支部とはどんな所なのだろうか。そして支部が遠いと何がどう問題なのだろうか。

 何もわからず首を傾げるミサキに、エミュリトスが横に並びながら説明する。


「ハンター登録はギルド本部か支部でしか出来ないんです。都や街には必ず支部がありますが、村になると簡易な出張所しかない所がほとんどなんですよ」

「へぇ……」


 簡易な出張所と聞いてミサキはなんとなく駐在所を思い浮かべたが、実際だいたいそんな感じである。

 クエストを受けたり報告したりはそこでも出来るが、それもハンター登録を済ませている人に限る、という訳だ。


「さすがエミュリトスさん、現役ハンターだけあって詳しい」

「えへへ、センパイと共に歩む為にハンターになった日の事は今でも色鮮やかに思い出せます!」


「真っ赤なウソもここまでくるといっそ清々しいわね……」


 ツッコんだら負けである。


「……本当はなんでハンターになったの?」

「え? ええと……あれ、っていうかそもそもわたし、センパイ達にハンターだって言いましたっけ?」

「……聞いてないけど、今日一日見てればわかる」


 確かな観察眼を持つリオネーラも横で頷いている。

 ミサキは朝の時点でハンターの話題に頷くエミュリトスを見ていたが、ボッツの授業の最中も似たような振る舞いを何度かしていた為、リオネーラも気づいたのだ。

 ちなみに当のエミュリトスは「一日中見られていたなんて…!」と顔を赤くしているが、そんな事をされても首を傾げるしか出来ないのがミサキという少女である。リオネーラがエミュリトスに軽くチョップをかました事によりようやく何かの冗談かボケだったのだと辛うじて勘付く程度である。


「……それで、何の為に? 言い難いなら言わなくていいけど……」

「あー、いえ、えっと、そのぉ………」

「………」

「………わたし、方向音痴なんですよ」

「…………へえ」

「ホントなんです、そのせいで入学式にも丸一日遅れちゃうくらいに……」


((あれはそんな理由だったのか……))


 戦慄する二人であった。


「それでですね、例えば遠出する時に道に迷うという事は時間が余計にかかるわけで、食料とかも余計に消費するわけで、つまり余計にお金が飛んでいくわけで」


「「……もしかして」」


「………路銀を稼ぐ為に、やむなくハンターに……」


「「…………………」」


 絶句する二人であった。




「さ、さーてミサキ、どのクエストにするの?」

「ん……」


 掲示板の前に立ち、眺めてみる。依頼(クエスト)の数自体はそこそこ多い……のだが……


「……トイレ掃除、購買部で商品陳列、倉庫の整理、中庭の草むしり……なにこれ」


 どれもこれも『クエスト』という言葉のイメージからはかけ離れた雑用、バイトのようなものばかりであった。教頭が安全な依頼しかないと言っていたのも頷ける。


「まぁ、人手不足って話だしこういう雑用に回す人手から真っ先に削られるわよね……そしてそれがあたし達に回ってくる、と」

「あ、でも一応ギルドでもこういうクエストは意外とありますよ。もちろん多くはないですが。わたしはそういう安全なのを狙って受けてましたし」

「あら、そうなんだ。じゃあ予定に変更は無しね、予行練習だと思って何か受けましょうか」


「……私はこれがいい」


 ミサキの視線の先には『図書館の整理整頓・蔵書チェック』と書かれた紙があった。

 読書好きで知識欲の塊であるミサキが図書館というワードに惹かれるのは必然とも言える。というか必然としか言えない。


(……ただ、依頼主がディアン先生になってるのが不安だけど。私がクエストを受けると知ったら取り下げられたりしないだろうか……)


 ディアンはミサキを警戒している為、有り得ない話ではない。が、今回に限ってはそれが杞憂で、そしてそれ以上の問題があるという事をミサキは後程知る事となる。


「なるほど、ミサキ向きっぽいわね。じゃあ三人でこれ受けるってコトで」

「……一緒でいいの?」

「まぁ、あたしは受注の手順さえわかれば何でもいいし」


「……エミュリトスさんは?」

「わたしはセンパイに付き従うだけです。センパイの行く所がわたしの行く所です」

「……エミュリトスさん、先輩後輩の関係ってそんな重いやつじゃないから」

「センパイが望んだから今の関係に甘んじてるだけであって、わたし自身は主従関係でも構わないと思ってるんですよ?」

「……そういうのは平民の私にはまだ早いかな……」


(……エミュリトスも変な子になってきたわねー、しかも僅か一日で……)


 自身の感情的な面が嫌いなリオネーラだが、二人の変人っぷりを間近で見ているとなんかだんだんそれが些細な悩みに思えてくるのだった。


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