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円盤では光が消えてよく見えます(数値が)




 ――結局リオネーラは二人の間に何があったのかは尋ねなかった。二人からケンカしたとかそういった類の空気は感じなかったし、むしろお互いを労わるような優しさを感じていたからだ。

 二人の側からも説明はしなかった。聞かれれば誠心誠意答えるが、どのみち明日には解決して説明する事になるのだから聞かれないならわざわざ言う必要はない。半端に相談してリオネーラにこれ以上気苦労をかける方が嫌だった。


 とまぁ、そんな具合に微妙にシリアスになりつつもすれ違いなどは起こらず、三人はいつものノリのままで職員室を訪ねた。


「「「失礼します」」」


「来ましたか。では三人とも、こちらへ」


 入り口近くの席でゲイルと雑談していた教頭がミサキ達の姿を認め、立ち上がって案内する。


(……確か教頭先生の席はもう少し奥の方だったはずだけど)


 一昨日に職員室を訪れた時はそうだったはずだ。まぁ席替えしたのかもしれないが、もしかしたら自分達を待っていてくれたのかもしれない。というかその可能性が高い気がする。

 だが何でもかんでも明らかにするのも良くないと叱られたばかりのミサキは今回は口を噤んだ。


 そうして案内された先にあったのは、光り輝く円錐台。石のような色だが表面は光沢が出ており、台の部分には人が一人乗れる程度の広さがある。主に光り輝いているのはその台になっている部分だ。

 どうやらこれがお待ちかねの『パラメータを数値化するレベル測定器』らしい。


「ではどうぞ、乗ってください」


「……リオネーラ、お先にどうぞ」

「え、あたしから? まぁいいけど」


 別に怖気づいた訳ではない。乗れとは言われたものの、乗ってどうするのか。どれくらいの間乗っておくのか。そのあたりの細かいところを知りたかったのだ。

 建前上は入試の時に一度乗っているという事になっているため、どうすればいいのかわからないなどと口にするわけにもいかない状況なのである。

 が、そんな事情など知らない周囲の人達からは怖気づいた、あるいは緊張していると思われている。だからこそ面倒見のいいリオネーラは全く躊躇せず円錐台に乗ってくれた。


 そのまま待つこと30秒ほど。


「出ましたね」


 どうやら乗ってるだけでいいらしい。気づけば円錐台の側面――斜面の部分に、ズラッと文字と数字が浮き出ていた。一体どういう仕組みになっているのやら。

 項目は攻撃力、防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、素早さ、そして少し間を空けて体力と魔力とレベルが書かれている。


(思ってたより少ないな)


 それは項目数の話であり、出てきた数値の話ではない。

 リオネーラのパラメータは全てが200を上回っていた。中でも攻撃力と素早さが高い。体力と魔力は500近くあったが、わざわざ少し間を空けて書いてあるという事は上限も算出の仕方も違うのだろう。

 ちなみにレベルは当然50だ。


「ほへー、すごい数値ですねぇ……」

「……エミュリトスさん、これ、数値の上限は255なの?」


 不審がられてしまうかもしれないが、そう尋ねずにはいられなかった。

 リオネーラのレベルは高く、パラメータもこうしてエミュリトスが呆然とする程度には高い。となれば上限はこのあたりだろう、と『前世の知識を基にして』予測した。

 それはミサキにとってあまり当たって欲しくない予測だった。前世の、しかもコンピュータ関連の知識など、このファンタジー世界に適用されて欲しくなかったのだ。

 しかし、エミュリトスはあっさり嬉しくない答えを返す。


「あ、はい、そうらしいですね。例外として体力と魔力は999で、レベルは99だったはずです」


「正確にはレベルは99の上に『測定不能』があります。測れるのは99までで間違いでは無いですが」

「……そうですか」

「……まあ、この装置はどこにでもあるものという訳でもないので、ド忘れしても仕方ないですかね」

「すみません」


 前世の知識による予測が当たってしまった以上、この装置の出所も知りたくなったが……危惧した通りの若干怪訝な視線を教頭に向けられ、ミサキはこれ以上踏み込めなかった。


「よいしょ。さて、次はミサキが測るのよね?」

「……うん」


 丁度いいタイミングでリオネーラが円錐台から降りて話しかけてくれたのでミサキは乗った。二つの意味で乗った。

 そして待つこと……10秒くらい。


「出たわね」

「早っ」

「あはは、まぁミサキはまだレベル低いからねー」


 レベルが上がるほど読み取りに時間がかかるようだ。量が多くなれば多くなるほど動作が重くなるのはどこも一緒らしい。

 さて、肝心のミサキのパラメータだが……まぁ、先に測ったリオネーラと比べれば悲惨の一言である。わかりきっていた事とはいえ、見ててツラいくらいに。

 三桁いっている数値などひとつもなく、特に素早さの低さはエミュリトスをして意識的に目を背けないとやってられないほどであった。


「……走り込みしないと」

「そうね、素早さの数値は日頃の身体作りがモノを言うからね」

「……日頃って……それは攻撃力や防御力も同じなんじゃ?」


 身体を鍛えて上がる数値、と言われればむしろ素早さよりもそれらが先に浮かぶくらいだ。だがリオネーラの言い回しにはいつもちゃんと意味があるもので。


「そのあたりは最悪装備で簡単にカバーできるし、知識でも上げられるから」

「知識?」

「そ。例えば敵の急所を知ってるのと知らないのでは実質的に攻撃力が違ってくるでしょ? 同様にどんな攻撃でも防げるだけの知識を持ち合わせていれば防御力が高いと言える」

「……知識があっても、実戦で活かせるかは別問題じゃ?」


 頭でっかち、そんな言葉がミサキの脳裏をよぎる。そういう人を揶揄するつもりで言ったわけではない。むしろそちら側に立っての質問である。

 実際、知識があっても何かしらの理由で行動に移せない状態にならないとも限らないし、あるいは焦りや緊張から本当に必要な時に限って知識が出てこないなんて状況に陥らないとも言い切れない。

 他ならぬミサキも、いくら勉強好きといえど幼い頃は漢字テストでうろ覚えの漢字を書いて提出した事もある。その時は一丁前に不安を覚えたものだ。

 うろ覚えで書くくらいならいっそ堂々と空白にした方がいいんじゃないか、いやいや何でもいいから書いて埋めておくのは高得点を狙う上で自然な事だ――とかの葛藤もあったがまぁそれは別の話。

 とにかく、肝心の知識がうろ覚えだったり、緊張などから身体が知識についてこない、という可能性についてミサキは言いたいのだ。が、リオネーラはそれらをバッサリ切り捨てる。


「知識は活かしてこそでしょ。逆に言えば活かせるように身についてないなら知識とは呼べない。必要な時に思い出せないならそれはただのうろ覚えな記憶よ」

「……なるほど」


 必要な時に思い出し、胸を張って活用出来て初めて知識と呼べるという事だろう。もっと広義の、知っているだけの事柄も知識に含めて会話をしていたミサキはここでようやく食い違いに気づいた。

 つまるところ、実戦で使えるくらいしっかり覚え、深く身に付けて初めて『知識』と呼べる、とリオネーラは言いたいわけだ。知っているだけでは意味が無いという事。知った上で識らないといけないという事。


(『知って行わざるは知らざるに同じ』という事か。知行合一。私とリオネーラで言葉の意味の認識に齟齬があったみたいだ。いや、この世界と、かもしれないけど)


 知識という言葉の前提からして違っていた。それによってハードルは上がったが、覚え甲斐も出てきたと言える。


「……そのくらいしっかり身に付いた『知識』なら、確かにパラメータに反映されてもおかしくない、か」

「そういうこと。ミサキのパラメータもいくらかは知識が反映されてるはずよ。そしてだからこそ知識を反映しにくく日頃の身体作りがモノを言う素早さは低い、ってコト」


 それを踏まえて見てみると、ミサキのパラメータの傾向はちゃんと納得できるものになっていたりする。

 リオネーラに最初にミッチリ叩きこまれた防御力、顔面で受けて理解した魔法防御力、そしてそれらと一緒に理解した魔法攻撃力、攻撃力……この順で高いのだ。

 攻撃系のパラメータより防御系の方が高いのは、『身をもって学ぶ』事が出来るから。そのぶん伸びがいいのだ。学ぶ事が好きなミサキらしいと言える。

 そして攻撃力より魔法攻撃力の方が高いのはミサキが昨日ほとんど魔法攻撃ばかりしていたせいでもあり、覚えた攻撃手段の数の差の表れでもある。

 あと、別枠の話ではあるが魔力の値は高めらしい。魔法との相性は良いかもしれないとリオネーラが推測した通りだ。


 そんなパラメータの傾向と仲のいいやり取りを見つつ、教頭が締めくくった。


「ふむ。まだ成長途中なのでなんとも言えませんが、このままの傾向で育った場合、『前衛で味方の盾となれる防御力を備えた魔法職(ただし前に出るだけの早さは無い)』になれますね」

「さすがセンパイ、なんか変な――オホン、なんとなくチグハグな――ゴホゴホ、えっと、珍しいスタイルの職ですね!」


(二回も言い直された……)


「まぁ、素早ささえもう少し上がれば普通に前衛やれるでしょ。人並み以上に上がれば」

「……脚の速さには自信ない」

「最初からミサキを先頭に置いて行進するのがいいわね」


(あっさり諦められた……)


 ちなみにレベルは10に上がっていた。


スリーサイズは数値化されません

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