好感度(もしくは二週目以降限定)でルートが分岐しそうなやつ
「……ところでリンデさんは?」
「まだ眠ってますわ。昨日頑張ってお疲れなのでしょうね。ミサキさん達は今日はどちらへ? お疲れではないんですの?」
「……私達は――」
少しだけ考え、連れ二人の顔色を窺った後、サーナスにも相談してみる事に決める。
「……疲れてはいるけど、お金を稼ぎたくて。サーナスさん、何かいい方法はない?」
「お金を稼ぐ方法、ですの? うーん、働く……のが良いのではないかと思いますが、わたくし働いた事は無いのでわかりませんわ。むしろ人を雇う側でしたので」
「……へえ。実は貴族、とか?」
お嬢様言葉はただのキャラ付けじゃなかったのかーとか失礼な事を思いつつも、そういえばボッツ先生から世間知らず仲間って纏めて呼ばれた事もあったなーと思い出すミサキ。そしてここは西洋風異世界。以上から貴族だろうかと連想するのはごく自然な事だと言えた。
「そうですわね、人間族などの言うところの貴族なのでしょうね。エルフの間では単に名家と呼びますが。家に帰れば専属メイドもいますのよ、わたくし」
「……可愛い子?」
「残念ながら同族なので……以前言った通り、エルフ族は美しくはあってもわたくしの求める可愛さとは少し違うのですわ……」
「そう……」
「…………ミサキさん、お仕事をお探しでしたらいっそわたくしのメイドになりません? お給金は弾みますわよ?」
「ん……仕事を紹介してくれるのは嬉しいけど――」
けど、から先の言葉は要らなかった。
「「絶対にダメ(です)」」
親友二人に両腕をがっちりホールドされていたので。
「……という訳なので」
「ぐぬぬ……さすがに三人まとめて雇うだけのお金は今はありませんわ……諦めますか……」
ダメと言われたのに雇うという方向性は変えないあたりが実に逞しい。
しかし実のところその方向性は悪くない……どころか正解だったりする。親友二人がNOを突き付けたのはミサキと離れ離れになる事が嫌なのとミサキを一人で行かせる事が不安だという理由からであり、故に最初から三人セットで話を進めていればもしかしたら色よい返事が聞けたかもしれないからだ。
まぁ、『クラスメイトのメイド』という複雑な立場になってしまう仕事を上手くこなせる自信があるかと言われるとまた別なのだが。親友二人も、もちろんミサキも。
「……そもそも友達のメイドというのは距離感が難しそう」
「ふぅむ……そう聞くとますますミサキさんを雇いたくなってきますわね。距離感に悩むミサキさんが見たい! 距離感に悩む女の子もまた可愛い!」
「…………名家のお嬢様の考える事はわかりませんね」
「ああっメイドっぽい敬語なのに心の距離を感じるっ! 冗談!冗談ですわ!」
「……まぁいいけど」
どう見ても冗談ではなく本気の願望だったが、ミサキもそろそろ慣れてきており本気で引いたわけではない。なので冗談という事にしておいてあげた。
なお、表情の死んでるミサキにメイドは無理があるのではないか?という根本的な問題に思い至ったのはこの場でリオネーラただ一人である。日本でなら無表情メイドも人権を得ている感じはあるのだが……さすがに本場の異世界で、偉い人にマジメに仕える身となるとそうもいかないだろう。接客用の笑顔、これ大事。
◆
その後、そのまま流れでルビアにも同じ事を聞いてみたものの「妖精族は身体が小さいから食べ物にも持ち物にもあまりお金がかからない、というかそもそも売ってる物の中に妖精サイズの物がほとんどない。よってお金を沢山稼いでまでして何かを買おうとした事がない(要約)」と言われたのでこれまた参考にはならず。
じゃあ本来の予定通りひとまず大人に聞いてみようか、という流れで三人は職員室、あるいはクエスト案内エリアへと向かって歩を進める事にした。この二ヶ所はどちらかのついでに行ける程度にはすぐ近くにあるのだ。
「あわよくばハンター登録の許可が貰えるかもしれませんしね!」
ミサキと一緒にハンターライフをエンジョイしたいエミュリトスが言う。
実はこの学校、既にハンター登録済みの生徒の入学は歓迎する一方、在学中に登録したいと生徒が言い出した場合は教師の誰かから許可を得る必要があったりするのだ。一見ケチで不便なようだが、生きる術を教える学校だからこそそれらをしっかり身に付けた生徒にしか許可を出さないという、それだけの話である。半端な生徒を送り出すのは学校の名折れ。せっかく学院クエストという『練習台』も用意してあるのだから。
これはまだまだ異世界の右も左も分からないミサキにとってはありがたい事この上ない制度だと言えた。もっとも、以前述べた通り外見でのトラブルも予想されるのでこの制度がなくとも誰かに相談する予定ではあったのだが。
「問題は誰に相談するかだけど……今日は休日だし教頭先生しかいないかもしれないわね。というか、今日に限ってはそうであってほしいというか……」
「そうですね……ここで校長先生が出てくるようだとちょっと警戒しないといけませんからね」
「………」
校長からの接触を(ほどほどに)警戒せよ、という女神からのお達し。それを三人で共有したのが今朝の話。
昨日の今日で校長が接触してきた場合、それはもう流石に警戒せざるを得ない、というのが親友二人の見解だ。今日は普段の彼なら遊び呆けているであろう休日なので尚更。
ミサキ本人は校長の人格は善性のそれだと思っているのでそこまで警戒はしていないが、それでも忠告は聞く性格である。二人に水を差すような事はせず、まずは己の目で見極めようと心がけていた。
さて、そんな感じで三人はまず職員室の前を通りがかったのだが……
「――ダメです。認められません」
「ほう? 何故だ、納得のいく説明をしてもらおうか」
初っ端から何やら男二人が静かに言い合う――というか今から言い合いに発展しそうな、片方が詰め寄っている感じの声が聞こえてきた。しかも三人ともその声のどちらにも聞き覚えがある。
こんな時、知らないフリなど到底出来ないのが良い子代表のリオネーラだ。何故か開け放たれたままになっていた扉に真っ先に近付き、こっそり中の様子を伺い始める。室内に居たのは声の持ち主として想像していた通りの二人だった。
「ユーギル君、貴方の場合実力は充分です。が、この学院に来たからには協調性や連帯意識というものも学んでいって貰いたいというのが我々教師の本音。ここは異文化交流の為、人と人との繋がりを築き上げる為に作られた施設なのですから」
「……ふん、お前達の持論に興味は無い。俺はただ他種族の強者と戦いたくて入学しただけだ」
戦闘バカのユーギルと休日出勤マスターの教頭。若干珍しい組み合わせである。
(相変わらず喧嘩腰ねぇ、ユーギルは。これ以上教頭先生に失礼を働くようなら止めないと……)
「一体何の話をしてるんでしょうかねー?」
覗き見継続中のリオネーラの下からエミュリトスがニュッと顔を出し、覗き見に加わった。ミサキはどうにも失礼な気がして参加できずにいるがそれでもしっかり聞き耳は立てている。
そんな風に三人がこっそり見守る(聞き守る?)中、教頭はユーギルのいかにも彼らしい物言いに溜息をひとつ吐こうとした――が、それよりも先にユーギルが続きの言葉を発した。
「――だが、強くなる為に手段を選ぶつもりもない。今以上に戦う為に戦い以外の事が必要だというのなら試すくらいはしてやるさ」
「ほう、どういう心変わりですか?」
「元よりくだらん座学の授業も大人しく受けてやっていただろうが。だがまぁ、そうだな……アイツだ、レベルの低いドワーフの女が居ただろう、ハンターの」
「わ、わたし???」
急に名前を出された(厳密にはアイツとしか言われてないが)エミュリトスは少し驚き、直後に不安を覚えた。何せ昨日ユーギルに強さを見抜かれかけたのだ、最悪の事態を想像してしまうのは無理もない。あの時は上手く誤魔化したつもりだったがそれだけで大丈夫と高を括れるほど彼女は能天気ではないのだ。
「エミュリトスさんですか? 彼女が何か?」
「アイツはレベルが低い割に罠への対処の仕方が上手かった。ハンターになればそういうものも身に付くのかもしれん。もしくはハンター共は低レベルでもそれなりに強いのかもしれん。そう考えるとハンターになってみるのも悪くないと感じた。それだけだ」
どうやらユーギルはハンターになりたいと申し出に来たらしい。それともうひとつ、どうやらエミュリトスの誤魔化しも成功しているようである。うまく誤魔化せているとわかり、エミュリトスはホッと一息ついた。
……まぁ、その「ホッ」はすぐにぶち壊されたのだが。
コンコン、と、既に開いている扉をあえてノックする音と――
「……すみません、私もハンターになりたいのですが」
なぜか堂々と話に割って入ったミサキの声によって。
「ちょ、センパイ!? このタイミングで入っていくんですかぁ!?」
「……ハンターの話は聞きたかったし、丁度いいと思って」
あとぶっちゃけそろそろ盗み聞きしている罪悪感に耐えられなくなってきたというのもある。変なところで真面目で誠実なミサキだった。
で、エミュリトスがツッコミを入れた事で二人だけでなく一緒に覗いていたリオネーラの存在まであっさりバレてしまい、盗み聞かれていたユーギルは不快さを露わにする――かと思いきや呆れた様子を見せた。
「ふん、盗み聞きか。暇な女共だな」
「……ごめん。別の用事で来たんだけど、声が漏れ聞こえていると入りづらくて」
「つまりユーギル君、貴方がちゃんと扉を閉めてれば良かったんですよ。ここはミサキさんを責めるよりも謝りに入ってきた律儀さを評価すべきです」
「……別に責めてなどいない。聞かれて困る話でもないからな。だから開け放していたんだ」
「……そうですか。でも次からは閉めてくださいね」
どう見ても後付けの理由だが頭の回る教頭はわざわざツッコミはしなかった。
ちなみにこうして後付けで言い訳する程度にはプライドの高いユーギルが盗み聞きに怒らず呆れるだけだったのはあくまで相手がこの三人だったからである。自分が倒す相手であるクラスの頂点・リオネーラには敬意を払っているし、今回ハンターという可能性の道を示してくれたエミュリトスは感謝もしている。あとついでにチーム戦の際に舞台を整えてくれたミサキの事もほんの少しだけ評価していたりも。
もっともそれでも具体的に彼の眼中にあるのは倒すべき相手、リオネーラの事だけなのだが。ぶっちゃけ他の生徒の名前なんてほとんど覚えていない、同室であるトリーズの事さえも。彼も彼で結構ひでぇ奴なのだ。教頭が協調性や連帯意識を身につけろと言うのもさもありなん、である。
「ええと、それで、ミサキさんもハンターになりたいと? ふむ、貴女の場合は……そうですね――」
「……一応、外見に問題がある自覚はあります」
「……そこは私からはノーコメントで。それよりも貴女がですね…………うぅむ、何と言えばいいのか…………」
オブラートに包まずに言ってしまえばミサキが世間知らずな発言と奇行の目立つ変人である事が一番の問題点なのだが、性格上それをそのまま言う訳にもいかず教頭は苦心する。
なおそれ以外の面では思ったよりもミサキに問題点はない。成長著しいミサキのレベルは既に非戦闘員以上だし、昨日実戦も経験した。知識に関してはほぼゼロからの学習であるため偏りこそあるが学んだ事はちゃんと全て覚えており、成果だけ見れば学校という教育システムの成功モデルと言っていいほどである。
性格もまぁ善人と言っていいだろう。他人を思い遣る心はちゃんと持っている。ただどうにもコミュ力に欠けるという欠点はあるが。とはいえ、それもこれからの学校生活の中で改善されるかもしれない。そう考えた教頭は結局……
「……もう少し色々な事を学んでからでもいいのでは? まだまだ知らない事も多いでしょう。充分だと判断すればちゃんと許可は出しますから」
こんな感じでふんわりと引き伸ばす方向で行くことにした。厳密な時間指定こそ無いが、いずれその時は必ず来ると含ませながら。
このやり方は功を奏したらしく、特に食い下がったりもせずミサキは静かに頷いた。異世界人であり知りたがりでもある彼女には思い当たる節が多かったのだ。あと、そもそもいくら金に困っているとはいえ彼女はダメと言われたならば駄々をこねたりはしない。自分の身を心配してくれての事だとちゃんとわかっているので。
そんな感じでミサキの方はアッサリ解決し――
「ユーギル君も同様です。『我々から見て』協調性が充分だと判断できればその時点で許可を出しましょう。つまり日頃からクラスメイトと仲良く過ごせという事ですね。誰かとパーティーを組んで学院公認クエストを受けてみてはどうでしょうか?」
「……ふん、考えておいてやる」
同じように(しかしミサキとはまた違う方向性で)引き伸ばされたユーギルも意外にも文句は言わず素直に聞き入れ、そのまま背を向けてアッサリ去っていった。誰かを誘いにでも行ったのだろうか。
ともあれ、この調子なら彼ら彼女らがハンターになる日はそう遠くは無いのかもしれない。今すぐの事ではないのは残念だが、ミサキがハンターになる日を首を長くして待っているエミュリトスにとっても悪くはない結果となったのであった。
次回に続きます(微ネタバレ)




