簡単であるが故の悲劇
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『――次のエリアは謎解きエリアだ。あー、謎解きと言っても大きく二つのパターンがある。頭を使って仕掛けを解くタイプと頭を使って謎掛けの答えを導き出すタイプだな』
簡単に言えばパズルとクイズ、という事である。確かにどちらもダンジョンにつきものだ。
『お前達が今いる部屋は前者だ。次の部屋は後者になっている。時間の都合上それぞれ一部屋ずつしか準備できなかったからなるべく全員で答えを導き出せ、いいな?』
「わかりました」と全員が頷き、室内を見渡す。そこにあるのは来た時に入った扉と次の部屋へ続くであろう扉、そして部屋の中央に露骨に設置してある二つの凸型スイッチと部屋の隅にそれとなく積まれている持ち運べそうなサイズの石。現代人のミサキはそれだけでこの部屋のギミックに見当をつけてしまった。
(スイッチを押している間だけ先に進めるようになるやつかな……。それならスイッチの上に石を置くのが正解だろうけど)
だがこれはセオリー(テンプレとも言える)を知っているからこその視点。言わばちょっとだけズルいやつ。他の三人はまだ首を捻っている事からもそれは明らかだ。
なのでミサキは早々にその答えを言う事はせず、むしろ『他の答えを探す』事を優先した。他に答えがあると確信しているから、ではない。他の可能性を潰していけば自分の考えの裏づけが取れる上に、三人の背中を押す事にも繋がると考えての事である。「全員で答えを導き出せ」と言われての、それが彼女なりの答えだった。
そして――
「……なるほどね、これは……」
「両方のスイッチが押されている間だけ先に進める仕組み、だね〜」
少しして比較的頭の回るレンとルビアが仕掛けに気付く。リンデも何もしなかった訳ではなく真っ先にスイッチを押すという勇気ある行動に出ていた。まぁ、考えるのに飽きたのか今はゴロゴロしているが。
何はともあれ、ギミックに気づけば後は少し。……なのだが、
『よーし、気付いたな。スイッチを二つ押し続ける必要があり、お前らは四人。となれば後は簡単だ。殴り合って負けた二人にスイッチを押させ、見捨てて進めばいい。簡単だよなァ?』
隙あらば戦わせたいボッツが雑すぎる揺さぶりをかける。もっとも流石にこんなものに引っかかる四人ではないが……暇を持て余していたリンデはあくまで冗談として乗っかった。
「よーし、そういうことならミサキさん覚悟ー!」
一見暇そうに見えるミサキを相手に選び、構えを取る。無論ミサキも冗談だという事はわかっており、
「……上等。私に逆らった事を永劫の闇の中で悔いるがいい」
ノリノリで乗っかった。
結果、恐怖に震えうずくまる物体が三つ出来上がった。
「……いや、あの、冗談なんだけど……」
「ま、真顔で言われるとわかんないよぉー!」
「仮にわかっててももしかしたらって思っちゃうよぉ〜!」
「ぶるぶるぶるぶるぶるぶる」
確かに冗談がわかりにくいとリオネーラに言われた事もあり、ミサキにも自覚は少しある。しかし今回はどう見ても冗談の流れだったので(恐怖支配が効いてるはいえ)彼女を責めるのはちょっと酷というもの。
「……この状況でもダメならどうしろと……」
落ち込むミサキは気づかない、地味に最近格好つけた言葉が頭に浮かびやすくなってきている事に。徐々にこの世界に染まりつつある事に……。
――結局、三人が落ち着きを取り戻すまで無駄に時間が掛かり、仕掛けを解くのが遅くなってしまった。
『ったく何モタモタやってやがんだ、途中まで良いペースだったろうが。あまり時間が無いってのによ』
「「「………」」」
ボッツがめっちゃ愚痴ってるが今回の発端は彼の言葉である。もっともそう言い返したところでリンデかミサキのせいにするのは目に見えているので誰も何も言わなかったが。
『仕方ねぇ、時間もねぇ事だし次の部屋の謎掛け問題は簡単なものにしてやろう』
「……いいんですか、そんな気まぐれで」
『仕掛けならまだしも謎掛けにはセオリーは無ぇ。どんな問題が出るかはダンジョン次第、マスター次第、その日の気分次第だ。こればかりは予想も対処のしようも無ぇんだよ』
なのでむしろ問題自体は簡単なものにして出題から回答までの一連の流れをさっさと練習した方が良い、とのこと。現地の人にそう言われると頷くしかないのでミサキは大人しく歩を進めた。
そして――
『つーわけでここは謎掛けの部屋だ。大抵閉ざされた扉のすぐ側に問題が書かれている。難しい問題の場合はどこかにヒントもあったりするな。で、問題の近くで答えを自由に書かされるか、いくつかの選択肢の中から選ばされるかする。書かされる場合はミスしてもデメリットが少ない場合が多く、選ぶ場合は逆の傾向が強い。何故かは知らんが――』
『運任せで突破しようとする輩を少しでも減らす為ですよ。此処はちゃんと頭を使えば解けるのですから。勿論書く方も当てずっぽうに書く人が居ない訳では無いのですが、選択式と比べると不思議と少なくなる傾向があります。世界中どこのダンジョンでも』
『――だそうだ、勉強になったな。さァさっさと問題を解きに行け、簡単な二択にしてやったんだからよ』
ボッツとおじさん、二人の説明を聞き届けた後、言われるままに四人は問題の下へと向かう。そしてそこにある『簡単な問題』とやらを全員同時に読み――
「「「「うわぁ……」」」」
全員同時にげんなりした。
勿論その理由は問題文にある。問題に問題があるということだ。
なんといっても、
『 ~問題~
カレント国際学院でより優秀な教師はどちらか選べ
A、ボッツ B、クソ鳥ゲイル 』
こんなアホ問なのだから。
『えぇと、正直私から見てもこの問題はどうかと思いますが、とりあえず答えがAなら左のボタンを、Bなら右のボタンを押してください。……先程「頭を使えば解ける」と言いましたが、中にはこんな頭を使う価値すらない問題もたまにあります。お気をつけて』
『おいオッサン、そりゃどういう意味だ価値がないとか気をつけろとか』
『……というか教官達は未だにいがみ合ってるんですか? 何年目なんですか? 生徒達も苦労してるのでしょうね』
元教え子にも問い掛けガン無視でボロクソに言われている。いいぞもっとやれ。
まぁ、この世界の人達の傾向として仕事に私情を持ち込みがちというのはあったりするのだが……持ち込み「すぎる」のはやっぱり問題なのだ。ボッツも自覚がない訳ではないのか露骨に話を逸らしにかかった。
『……簡単な問題でいいだろうが。おらお前ら、さっさと答えろ』
しかしその逸らした先、ミサキ達四人も絶賛げんなり中で。
「……答えはわかる。事実かどうかは別として、どう答えて欲しいかはわかる。でも――」
「答えたくない」
「選びたくない」
「押したくない」
答えたら負けかなと思っている。満場一致で。
『……お前ら……』
ボッツはちょっと落ち込んだ。
ブクマが増えてきました、いつもありがとうございます




