スラ○ムナ○トの設定は作品によって結構バラバラらしい
――さて。そんなこんなでミサキ達のパーティーの戦闘力については一応把握できた事になり、ボッツの最たる目標は達成された事になる。
が、ここで切り上げて撤収、とはいかない。少女達の歩くSルートはまだ道半ば。ここから先にも『ダンジョン初心者』を対象とした試練が多数設けられているからだ。もちろんガチでヤバい時などはリタイアも出来るようになってはいるが、基本的には最後まで歩かねばならない。
ダンジョンマスターのおじさんとしてはむしろここからが本番で、ボッツも隙あらば戦闘をねじ込もうと虎視眈々とチャンスを窺っている。まだしばらくはミサキ達に気の休まる時間は訪れないようだ……
『――そこから先はトラップエリアです。ダンジョンにありがちな罠が多数配置されているので気をつけてお進みください』
「……来た」
「やっぱり来たね」
「想定通り、だねー」
頭上から響くおじさんの声を耳にし、ミサキ達は目を合わせる。
ダンジョンといえばトラップ。初心者ダンジョンでそれを学べる場所が出てこない筈がない。そのくらいは誰もが想定していたのだ。
そして既に授業でトラップについての多少の知識も仕入れていた。初心者向けの罠なら見ればわかる程度には。よって既に対策も立ててある。
「……ボッツ先生。陣形を組んでもいいですか」
『あん? 既に組んでるだろうが』
「そうですけど……何と言えばいいのか……変形? 合体?」
『はァ?』
ちょっと何を言いたいのかわからない。
「……トラップ回避の為に私達が考えた……何と言うか、カタチがあるんです。発案者はリンデさんですが」
「ふっふっふー、せんせーと言えど見たら驚くよー?」
ミサキの説明が珍しくイマイチ要領を得ないのはどうやらリンデの意向らしい。何をするかは直前まで伏せておき、見る者を驚かせようという魂胆。そう理解したボッツは普通に常識的で安全な反応を返す。
『……よくわからんがやってみろ。良いか悪いかは見てから決める』
「やったー! いっくよーみんなー! 『エクスペディション・フォーメーション』!!」
リンデが音頭を取り、全員が動き出す。
……具体的にどう動いたかを言ってしまうとネタバレになるので、ひとまず完成後のその『エクスペディション・フォーメーション』とやらを見てみよう。
まず、そのフォーメーションは四人固まって行動こそしているが大きく分けると二つの組に分かれる。
ひとつは妖精を肩車するミサキ。もうひとつは妖精をその背に乗せるスライムだ。
……以上。
『……おい、なんだそれは』
「ふっふーん! どう? ミサキさんの肩に乗る事によりアタシが高所のトラップまで逃さず見抜く! 逆に低所のトラップは本来の姿に戻って身長の縮んだレンが主に見る! ミサキさんとルビアはその中間! かんぺき! いえーい!」
『…………』
無駄に自信満々に、尚且つ理屈っぽくリンデが解説する。確かにそれだけ聞けば低所高所共に隙のないフォーメーションに聞こえるのが厄介だ。
とはいえ当然欠点もある。まぁ冷静に見れば欠点なんていくらでも出て来そうだが……何よりもまずフツーに見た目に欠点がある。
『……魔人が妹二人とペットを連れて遊んであげてるようにしか見えねぇな……』
ごく普通の身長のミサキと比べて妖精族二人とスライム姿のレンがとにかく背が低いので微笑ましい休日の一コマのようにしか見えないのだ。
彼女達の後ろを歩くリオネーラも同意しつつ……
(もしかして……あたしも入れたら両親と子供二人とペットに見えたりして? ……~~っっ)
ふと思いついて微笑ましい休日に(想像の中で)紛れ込んでみた。なんか無性に恥ずかしくなった。
あとボッツに引っ張られてナチュラルに級友をペット扱いしてしまった事も恥じた。口に出した訳でもないのに反省するあたりがいい子である。口に出した本人は反省の「は」の字も無いから尚更に。
『くっ、なんというオイシイ場面……! わたしがあの場に居れば今頃は――』
『居たところで妹枠が一人増えるだけだろうが』
『それがいいんじゃないですか!!!』
こちらはマスタールームで口論している二人……の声。珍しく二人の声が間髪居れずにミサキ達の居るダンジョンに響いているのは、元々ボッツが触れていた水晶にエミュリトスが飛びつき、かぶり付くように見入っていたからである。彼女は元々妹志望だったので新たなる妹候補の出現に内心穏やかではないのだ。
無論、そんな事情はミサキ達の知るところではない。いやまぁ多少は察せるがそれでも反応に困るというもので、中でも発案者のリンデは無駄に自信満々なので結論のほうを早く聞きたがっていた。
「ねー、せんせー、どうなのー?」
『あ、あー、えーっとなんだ…………まずはレン、お前そんなあっさり本来の姿を見せていいのか?』
「あはは……ちょっと恥ずかしいですけど必要なら仕方ないです。本来の姿が役に立てるというのも珍しいですし」
不定形族は人型を模す事で様々な事をこなせるようになった一族なので基本的に元の姿に戻る理由など無く、またそんな理由から四六時中人の姿をしているのでいつの間にか本来の姿を見せる事を恥ずかしがるようになる者もいたりするのだ。
それを踏まえてのボッツの問いだったが、本人が納得済みならばそれ以上言う事は無い。
『……そうか。じゃあ次、魔人。お前の肩の上を二人が取り合ってた事について何かコメントはあるか』
「……取り合っていたというか、リンデさんが先に乗ってきてルビアさんを威嚇していただけの気がしますが」
「い、いーじゃーん! ルビアを運べるんならアタシも運んでくれてもいーじゃーん!」
「……それは別にいいけど……何もせずとも元々リンデさんが乗る予定じゃなかった?」
「しらなーい!」
「……?」
これに関してはミサキの言う通りで、更に言えばリンデも忘れていた訳ではない。まぁ、なんだ、要するにちょっとルビアが羨ましくなった彼女が万が一を避けようと必死になっていただけだ。
『あー、ちなみに二人とも、重くはないのか? そいつら妖精族には薄くもデケェ羽根が付いてやがるが』
「ぼくは全く」
「……私も特には。見た目よりかなり軽いです」
「妖精族は生まれが特殊だからね、身体のつくりもぼく達と全然違うし勿論体重も違うって言われてるね。あっ、まぁぼく達不定形族もミサキさん達から見れば違うけど!」
マナ溜まりから自然発生する不思議な一族、妖精族。彼女達が見た目通りの体重ではない事は結構知られている。当然ボッツも聞きかじってはいるのだが、むさ苦しく性格も悪いボッツは今まで妖精と一切接点がなく(というか避けられており)、確かめる機会に恵まれなかったのだ。
ちなみに見た目より体重が重い上に同じようにミサキに肩車してもらった経験のあるエミュリトスは微妙な表情をしていた。
そして――
「わーいミサキさんの髪の毛ふわふわーわしゃわしゃー」
(妖精族から見てもミサキの真っ黒い髪の毛は気になるのね……躊躇なく触れるあたりは羨ましいというかなんというか)
『くっ、あの景色は本来わたしだけのものだったはずなのに!』
「……またしてあげるから」
(いいなぁ……)
「余所見してると落ちるよー、ルビアさん」
わしゃわしゃとミサキの髪の触感を楽しむリンデと、未だに密かにミサキの髪に興味を持っているリオネーラ。
肩車第一人者としての魂の叫びを響かせるエミュリトスと、仕方なしにそれを慰めるミサキ。
リンデの危惧通りちょっとだけミサキの肩車に興味があったルビアと、何も気付かず善意からルビアを気遣うレン。
ボッツからの返事を待つ僅かな時間、皆は三者三様十人十色、自由奔放に待機していたのだが――
『あー、んで、なんだ、『エクスペディション・フォーメーション』だったか? まァ何でもいいが…………見た目がフザけてるからダメだ』
「「「ですよねー」」」
教師としてごく普通のツッコミがごく普通に入ったことで、皆は再びひとつになった。
「なんでー!?」
発案者だけは不服そうだったが。
台風の影響で次は遅れるかもしれません




