ゴーレムっていうのはね 硬そうで強そうで岩みたいで なんというか格好良くなきゃあダメなんだ
『 ゴ 』
「「「「………………もしかして、ゴーレム、か?」」」」
喋った『ソレ』――雑な泥だるまに丸太のごとき手足が生えただけのナニカ――を見た感想が満場一致で疑問系になったのは本来ゴーレムというやつがもうちょっとカッコいいからである。茶色いヤツが居ない訳ではなく、「ゴ」と喋るヤツが居ない訳でもない。ただ、こんなマヌケな顔をしたブサイク体型のクソダサゴーレムは誰も知らなかった。ボッツでさえも。
「……いやァ、初めて見るモンばかりでなんとも楽しいなァ、此処は」
「ほほう、教官にも楽しんでいただけているとは教え子冥利に尽きますな」
「皮肉だよ馬鹿。んで、あのデブゴーレムをどう使ってエネルギーを回収するんだ?」
「彼に攻撃を加えてください。物理でも魔法でもどちらでも。彼が壊れない限りはダメージをエネルギー……正式にはDPと呼ばれているのですけどね、ともかくそれに変換し回収し続けますので」
「……だとよ。お前ら聞いてたか?」
確認の言葉と視線を向けられた生徒一同だが、反応は大きく二分された。当然、戦う事に乗り気か否かで。
ここに居るのは戦闘経験のある者がほとんどだが、だからといってこんなワケのわからない物……じゃなくて者と戦えと言われて全員が乗り気になるかと言われれば別なのだ。先輩不在により頑張る事に理由を見出せないエミュリトスなどがわかりやすい例だろう。
「……彼、って事はこのゴーレムは雄なんですねぇ」
「んな事ァどうでもいいだろうが。お前魔人に似てきたんじゃないか」
「本当ですか!? えへへへ~~」
「心の底から喜ぶんじゃねぇよ……」
天にも昇るかのような笑顔をされ、ボッツはドン引きした。
まぁそれはさておき。反応が二分されたという事は当然、エミュリトスのようなやる気の無い生徒達とは逆に目をギラつかせている生徒も居るという事になる。というかぶっちゃけこっちの方が割合としては多い。
「要するに好きに殴ればいいんだろ? そういう事ならオレの筋肉が唸って火を噴いて爆ぜるぜ!」
「爆発するなら他所でやれアホ。コイツは俺が壊す、邪魔だけはするなよ」
筋肉の見せ場となれば黙っていられないトリーズや強さを求めて力を振るうユーギルに代表される、良く言えば体を動かすことが好きな、悪く言えば血の気が多すぎる連中だ。
ダンジョンに潜れず退屈な授業になる事を覚悟していた彼らにとってそれはまさに降って湧いた幸運。乗り気にならない筈が無かった。
「ほほぅ、教官の教育が行き届いているのか活きのいい生徒が多いようですね。目的はエネルギーの回収なのですが……せっかくです、壊せるものなら壊してごらんなさい。まぁ貴方達程度では無理でしょうが」
「「「……その言葉、後悔するなよッ!!!」」」
血の気の多い彼らはおじさんのシンプルな挑発に容易く乗せられ、クソダサゴーレムへと突撃していく。
そのまま彼らの一斉攻撃は何にも阻まれることなくクソダサゴーレムの腹に炸裂し、マスタールーム内に轟音が響いた……ものの、おじさんの言う通りゴーレムが壊れる様子は無かった。もっとも、頭に血が上りきった連中のやる気が一度攻撃に耐えられた程度で削がれる訳もなく、彼らはむしろボルテージを上げて何度も何度も突撃を繰り返す。
そこには一対多の構図が出来上がっており、見る者が見ればこのクソダサゴーレムとの戦いは『レイドボス戦』と呼べるものになっていた。
……まぁ、ボス側は一切の回避も反撃もしてこないのだが。
「えーと、何でしたっけ、でぃーぴー? を溜める為だけのゴーレムだから反撃してこないんですかね、あれは」
戦いを傍観していたエミュリトスがおじさんに問いかける。彼女に限らず戦いに乗り気じゃなかった生徒達はレイドボス戦に混ざるタイミングを完全に逸しており傍観せざるを得なくなっていた。
「そうですね、一応腕や脚はあるので反撃しようと思えば出来ますが、殴られてDPを溜めるのが仕事なので反撃するのは非効率的ですから」
「ふぅん……大丈夫なんですかあれ、本当に壊れないんですか? 色と丸っこさが合わさってあまり硬そうには見えませんけど」
「ふふふ、問題ありません。あの美しい球体ボデーはエネルギーの吸収効率と強度を両立させようとした結果ああなったのです、防御面に限れば圧倒的なのですよ。国王様クラスの戦士でないと壊せないでしょう」
ここの国王様はメチャクチャ強いお人なので、つまりあのゴーレムもメチャクチャ硬いという事になる。あとどうでもいいがボディーをボデーと言うあたりにおじさんのこだわりが垣間見える。
ともあれ、そういう訳であっちの生徒達は当分ゴーレムと遊び続ける事になるのだろう。エミュリトス達もタダでここに入れてもらっている手前何か援護くらいはするべきなのだが、向こうの連中がドン引きレベルで血気盛んになっているため今は迂闊には近寄れない。流石のボッツもこの状況で無茶は言えず、傍観組を責めはしなかった。
「まァ、それだけ硬いのならそのうち殴り疲れてバテる奴が出てくるだろう。そうなったら次はお前等が戦えよ。それまでは……そうだな、ひとまずダンジョンの様子でも見ておくか」
「え!? センパイの様子が見れるんですか!?」
「マスタールームだからな、ここからならダンジョン内の様子は手に取るようにわかると聞いている。そうなんだろう、オッサン?」
「ええ、そうですね、こちらから見れますよ。……おや、丁度彼女達は扉を開いたところのようですね」
おじさんが玉座に身体を預け、周囲にある水晶のうち一つに手をかざせばそこにダンジョン内の様子が映し出される。やや斜め上からの俯瞰視点になっており、どうやら最初の部屋の天井中央あたりから二つのパーティーを映しているようだ。
「ちょっと遠いですね」とおじさんが言えばすぐに水晶の中の映像はズームし、ミサキ達のパーティー(の後頭部)が画面内に収まる。もう片方のパーティーはいつの間にか起動していた別の水晶で捉えられていた。
「うわああああセンパイ頑張ってえええええ!!!!」
「……いや、いくら叫んでもこのままでは声は届きませんよ」
急に興奮し始めたエミュリトスにヤベーものを見る目を向けながらも丁寧におじさんは説明してくれる。そして興奮していてもなおミサキに関連しそうな事なら耳聡いのがエミュリトスという少女であって。
「このままでは、という事は届ける方法があるんですね!?」
「え、ええ、勿論。簡単です、水晶に触れながら喋るだけで映っている場所に声は飛びます。……念の為言っておきますが勢い余って壊さないでくださいね? これの硬さは普通の水晶と変わらないんですから」
「大丈夫ですよ、センパイと喋る為の道具をわたしが壊すなどありえません」
フラグにしか聞こえない会話をするおじさんとエミュリトスだったが、結論を言えば期待に反して(?)エミュリトスは水晶を壊す事なくミサキに声を届ける事に成功した。
「センパイ頑張ってくださあぁぁぁぁい!!」
『うわっ、びっくりした……エミュリトスさんの声?』
「あっセンパイの声が聞こえる! そうですわたしです、マスタールームから見てますよー! 何か気付いた事があったら教えますねー!」
「――ってアホか!こっちからのアドバイスなんか許す訳がねぇだろうが! どけ、お前に喋らせると嫌な予感しかしねぇ」
ごもっともな事を言いながらボッツはエミュリトスの頭にゲンコツを振り下ろし、彼女を水晶の前から引き剥がす。「いたーい!」とは言いつつもアドバイスはやり過ぎだという自覚もあったのか彼女は特に抵抗する様子もなく、大人しくボッツと場所を交代した。
そして彼は水晶に手を伸ばし、ミサキ達に指示を出そうとして――
「あっ」
ガシャン。
「………」
「………」
「………」
――無事、フラグを回収した。
「…………す、すまん」
「……教官」
「お、おう……」
「学院に報告されるのと週末に丸一日ゴーレムを叩き続けるの、どちらがいいですか?」
「……これ以上教頭に減給喰らったら生きていけねぇ」
「ではゴーレム叩きの刑で。……あとは生徒達への口止め、頑張ってくださいね」
「なッ――」
ボッツが後ろを振り返れば、気まずそうな顔をしている傍観組の生徒達(とニヤニヤしているエミュリトス)がおり……彼はこの後しばらく彼女達に差し出す対価について頭を悩ませるのであった。
なんかすげぇ伸びてました。
ありがとうございます




