立場チートっていうのもあると思います
今回の話との繋がりの為に115話を少し加筆修正しました。大きな変更ではないですがご迷惑をおかけします。
あと次回に続きます。
◆◆
三人で迎える初めての夜に備え、彼女達は準備を進めていく。この時ばかりは特別ハプニングも起きず全てが順調だった。
ミサキの予想通りスペースにもさほど困らず――ここから更に私物が増えると困る事になるだろうが――、既に仲良しである彼女達はお泊まり会のような軽いノリで三人の空間を作り上げる事に成功。ただし部屋に備え付けられていたベッドだけは移動出来なかった為、三人に対しベッドは二つのまま。よって誰か一人が床で寝る事になる訳だが……
「勿論あたしが床でいいわよ、無理言ってるのはこっちだし」
と、リオネーラが常識的な謙虚さを発揮する一方で、
「……私の居た所は元々床で寝る文化だった。私もたまには床で寝たい」
とミサキがこんな時に限って無駄にワガママを言い出し、
「じ、じゃあわたしも一度は寝てみたいなー、いやむしろたまには床で寝ようかなー、なんて……」
ミサキの意見に流される傾向のある(むしろそれしかない)エミュリトスまでも同調した為、最終的に日替わりで一人ずつ床に寝る事になった。
気を遣わせてしまったかな、とリオネーラは思ったがそれも最初の一瞬だけ。二人とも本気で言っているっぽかったので結局結論が出る頃には曖昧に苦笑するしかなくなってしまう。気を遣われない間柄というものは時に優しい気遣い以上の安心感を与えてくれるのだ。
他に特筆すべき事といえば、寝る直前になってミサキが、
「……実は私は女神と会話が出来る」
と胡散臭い宗教家みたいな事を言い出したくらいか。
もっともこのファンタジー世界では女神は実在するものとされており、しかもその女神によって転生させられたミサキが目の前にいるので同室の二人は普通に受け入れ、頷いたのだが。
「……と言っても私の意識が無い間だけで、呼び掛けに向こうが応えてくれれば、だけど」
「…………条件があるとはいえ、それ、凄い事じゃない? そのへんの神官が霞んで見えるわよ?」
「……神官さんごめんなさい」
向こうから友達になってくれと頭を下げてきた事を神官が知ればどうなる事やら。考えたくないものである。
「流石はセンパイ、女神様とも友達だったとは……これは実質センパイも神なのでは?」
「……何が「実質」なのかわからない……」
向こうから友達になってくれと頭を下げてきた事をこの子が知ればどうなる事やら。考えたくないものである。
「ま、まあそんな事は実質置いておいて。ミサキがそう切り出すって事は何か理由があるのかしら? それとも単にあたし達に言っておきたかっただけ?」
「……女神に聞いてみたい事がある。そしてその前提となるパラメータに関する仮説を今日立てた。それが合ってるか、二人に聞いておきたくて」
今日立てた『精神的な慣れがパラメータに加算されているのではないか』という仮説。それを前提としてミサキは女神に『異世界人である自分は皆より余計にこの世界に慣れる必要があり、その分パラメータが多く上がるのではないか?』という疑問をぶつける予定だ。よって先にこの前提の仮説が正しいかどうかを明らかにしておかないといけない。
本当はもっと早く尋ねるつもりだったが、リオネーラが同室になってくれたおかげで好きなタイミングでこういう内緒話が出来るようになり、今に至ったという裏事情がある。……裏ってほどでもないが。
ともかくそんなこんなで、ミサキは仮説を二人に披露した。
「――なるほどね。あたしと大体同じ考えだわ」
説明を終えてすぐ、リオネーラは大きく首肯する。エミュリトスも小さくしきりに頷く。
「わたしはレベルが全ての今の世の中は嫌いですけど、嫌いだからこそいろいろ考えました。わたしも同じ考えです。別の所から来たのにこんなに早く同じ結論に至るなんて流石はセンパイですね!」
「……言われてみれば私自身しかサンプルがないのに仮説を立てるなんて早計だった気がする。反省しよう」
「あれぇ逆効果!?」
「……気づかせてくれてありがとう、エミュリトスさん」
「うわーんそんなつもりじゃなかったのにー!」
好奇心に振り回されすぎると視野が狭くなってしまい危険だ、とミサキが(ようやく)意識し始めた。良い事である。……その後の無神経な追撃は良い事とは言えないが、本心なので撤回する事も無いだろう。
「えーっと……補足があるんだけど、いいかしら?」
「あ、うん」
「あのね、ミサキのその仮説だけど、こうしてあたし達と考えは一致してるし、ボッツ先生達みたいな強い人も己の経験から大体そう考えてるらしいわ。だから模擬戦や反復練習に力を入れてるし、強くなるにはそれが一番と世間的にも言われてる」
「……うん」
「でも断定までは出来ないのが現状よ。『どのくらい慣れたか』なんていう感覚的なものを他人と共有するのは難しいから検証があまり進まないの。もっと言えばたまたま慣れる頃に他の何かの効果が出ている可能性もある訳で。そう考えてる人達が今でも研究を続けてる状態なのよ」
「あ……そうか。じゃあ、現時点では私が今言ったような考え方が主流だけど、あくまで主流というだけでそれ以上でもそれ以下でもない、と」
「そういうことね。最近は種族間の交流も盛んになってきて、種族を跨いでの共同研究も盛り上がってきてると聞くわ。種族が違えばパラメータの偏りも違ってくるから、何か新発見がある……かもしれない。いつかは正解を導き出せるかもしれないわ、それがどんなカタチの正解かはわからないけどね」
現代においても昔からの定説が最近になって覆るなんて事は多々あった。それらと同じ事が起こらないとも言い切れない案件という事になる。どこの世界でも研究というものに終わりは無いのだ。
(予定が狂ったな……答えが既に出てると思い込んで決め付けてた私のミスだけど)
よく考えれば気づく事だ、神の作ったシステムの全ての答えなど普通の人の身では知る方法が無いと。これもまた好奇心から視野が狭くなっていたが故のミスか、あるいは――
「……あっ、でも女神様と話せるミサキなら正解もわかるんじゃ……?」
あるいはそんな普通じゃない――大抵の事に答えを貰える――立場に居るが故のミス、だ。
そんな普通じゃない立場に居るミサキだが、彼女がその問いにどう返すかはその性格を考えればある程度は予想がつく。
「……わかるかもしれないけど……やりたくない」
「……どうして?」
「……今も頑張って研究している人がいるのなら、正解を導き出したという栄誉はその人達に与えられるべき。ロクに頑張ってない私が横から掻っ攫っていいものじゃない」
悪事に相応の罰を求めるならば、善行にも相応の褒賞が必要だ。頑張りは正しく評価され、報われないといけない。『報い』を大事にするミサキは常にそう考える。
とはいえ、正解を導き出した人を評価するのは世間である。逆に言えばこの場合は世間に出さえしなければミサキの理屈は通らない。つまりミサキ達がこっそり正解を知るだけなら頑張っている人達の努力を水の泡とする事は無い。一応無い。
しかし、一度自分が否定した行動をそんなズルくセコい考え方で正当化しても自分に嘘はつけないのだ。いずれ後悔する事は目に見えている。だからミサキはその選択肢は選ばないし……
「……まあ、一応、聞いた正解を私達の胸の内だけに留めておくというやり方もない事はないけれど……」
そこで言葉を切り、二人に問いかけるような視線を送ってみれば、
「「それはそれでなんか後ろめたい」」
信じた通りの言葉が、声を揃えて返ってくるのだ。
「……うん。私もそう思う」
考え方の一致する親友と出会えた、その事が嬉しくて、ミサキは無意識のうちに微笑んでいた。
基本的に表情の死んでいるミサキの微笑みだ、それはそれはとても小さいものでしかないのだが……二人をたっぷり一分間フリーズさせるには充分なものだったようだ。
……そして一分後。
「わたしはこのまま目を閉じて、まぶたの裏で一生この光景だけを見て生きていきます……」
「気持ちはわかるけどアホなこと言わないでよ」
「……? どうしたの?」
「な、なんでもないわ! あー、それで、ミサキが女神様に聞いてみたかった事って何なの?」
「それは……さっきの仮説が正しければ、平和な他所から来た私は他の人より多く精神的に慣れる必要がある。だからその分レベルが上がるのかな、と考えてたんだけど」
「なるほど、その可能性はあるかもしれない……けど、仮説が仮説のままだからねー」
「……うん。だからまだ聞かない」
前提となる仮説の裏づけが取れてから聞こう。急ぐ事ではない、理由はわからずとも充分な速度でレベルは上がっているのだから……という事で、女神への質問も延期する方向でミサキは結論を出した。そして三人はそれぞれ(エミュリトスはリオネーラに手を引かれて)寝床に入ったのだが――
★★
『はぁーい』
「……………」
『あの、ちょっと、その露骨に失望したかのような睨むような据わった視線のようなそれは本気で怖いのでやめてくれませんか……」
「……そこまではしてないけど……」
そこまではしていないが、延期すると決めた直後にこれだとちょっと嫌な予感がするというか、マイナスなイメージが先に来るのは仕方ないのではなかろうか。
修正前:(全部)女神に聞こう
修正後:まず親友に聞いてから女神に聞こう
という変更でした。再びになりますがご迷惑をおかけします。
そしてブックマーク数がジワジワと増えております、本当にいつもありがとうございます。




