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かくかくしかじかってあまり漢字で書く機会が無い

前回のあらすじ:ミサキ は レベルが 上がった!



 その後、ミサキに触発されて時間の許す範囲で生徒達がレベルを測り始めたのだが……誰にも目を引くような変化は見られなかった。リンデが多少成長していたくらいである。

 ……だなんて、そんな筈は無い。まだ彼が残っている。自主的に測定器に乗る者ばかりの中でただ一人、周囲に押されて仕方なく測定器に乗った彼が。


「うわああああレベルが2上がって9になってるぅぅぅぅんゲフゥ」


 彼はそのままショックでブッ倒れた。……まぁ予期していたリオネーラがナイスキャッチしたけど。

 そしてそれを見た周囲の皆はそんなレンの容体――には目もくれず弾き出された結果の方で騒ぎ出す。2のレベルアップくらいなら前例が無い訳でもないのだが、ただのごっこ遊びで上がったと考えると羨ましかったり恐ろしかったりする上昇値なのは確かだからだ。

 とはいえレンのように暴走したり記憶を失ったりしたいと願う者など居るはずもなく、逆に言えばそれらを代償としてのレベルアップとも言えるので結果に思うところはあれどレン個人に対して同情的な空気は変わらない。

 どちらかと言えばレンがああなった原因である舞台背景を整えたミサキに後々畏怖の視線は向く事になり、更にリンデを心変わりさせた事もあって来週あたりには魔人は洗脳魔法が使えるだとかいやいや闇に堕とす魔法だとか囁かれ始めるのだがそれは今は置いておく。


(今まで戦いを嫌っていた人が、積極的に自分のスペックをフル活用して格上の相手に戦いを挑んだ。私の時と同様に多少は戦いにも慣れたと思うし、その結果としてなら妥当だと思うけど)


 そのミサキは独自の理論と基準を持っているのでレンのレベルアップは必然と見ていた。あとリオネーラやサーナスもミサキで慣れたのか特にマイナスイメージは抱かず素直に祝福(本人気絶してるけど)していたりもする。勿論、騒ぐ人達の気持ちも理解はした上で。


 と、このようにそれぞれの価値観が交錯する喧騒の中で、唯一そもそもの事情を知らない教頭は唯一レンの容体を多少気にしながら詳細をリオネーラに尋ねた。人選に学習の跡が窺える。


「レン君まで2もレベルが上がるとは。素晴らしいですが……何故本人が一番驚いているのですか? 本当に何一つ覚えていないと?」

「ええと……サーナスの説明に補足しますけど、色々あってレンとミサキとエミュリトスは役になりきって特訓していたんです。そしてレンは――かくかくしかじか――」

「ふむ、なるほど。ミサキさんのストーリーを聞いた彼は自分や周囲が見えなくなるほど役にのめり込み、挙句の果てに暴走し始めたのでミサキさんの指示で殴って止めた、と」


「……ん? もしかして終始私のせい……?」


 残念ながらレンに関する事だけピックアップして語るとそういう事になる。それもミサキのせいで暗黒騎士は生まれ、暴走したからという理由でミサキの指示で処分された、という、さながらフィクションの中の人体実験や動物実験につきものの後ろ暗いエピソードみたいな感じに。

 聞き手が冷静で博識な教頭でなければいろいろ責任を追及されていたかもしれない。ボッツあたりだったら全責任を負わされて殴られていたかもしれない。


「いえ、話を聞く限りではその時その時のミサキさんの行動は理解できるものなので責めはしません。記憶が無いという症状にも思い当たる節はあります」

「……ありがとうございます。思い当たる節というのは?」

「ええ、まず不定形族の特徴は言うまでもなくその変身能力ですが、慣れていない姿に変身するのは結構な集中力を要すると言われています。実在する人物等のようにモチーフがある場合だと尚更に」

(……そういえば前回私に変身してもらった時も驚いたら変身が解けてたな)

「その上で性格まで偽らなくてはいけない、そちらにも集中力を回さないといけない状況に陥った時、初心者は大抵無意識のうちに無茶をするそうです。『我を忘れて』その人になりきろうとする。なりきりすぎて演じている自分を見失ってしまうんですね。そうなると元に戻った時に記憶がとんでいる事がほとんどだ、と不定形族の知人から聞きました」

「………」


 なりきろうとして無意識のうちに無茶をする、という話だが、今回に限ってはもしかしたら逆かもしれないとミサキは考える。むしろすんなりとなりきれすぎて帰って来れなくなったのではないか、と。

 理由は勿論、他ならぬミサキがレンが入り込みやすいようにと彼の性格を意識した設定を作ったからだ。もっともその説が正しかった場合、レンの為にと物語の中に彼を反映した結果現実のレンが自分を見失ってしまったという皮肉な結果になってしまう訳だが。

 まぁ真相は誰にもわからない。レン自身にさえもわからない筈なので考えるだけ無駄というもの。ミサキは思考を素早く切り替え、引き続き教頭の話に耳を傾ける。


「レン君は変身技術を評価されてここに入学した身ですが、苦手意識故に性格まで真似た経験は無かったと聞いています。周囲の人もそんなレン君を気遣い、この件――初心者特有の記憶喪失については教えなかったそうです。余計に苦手意識が増すだろうからと」

「……その知り合いの方は随分とレン君の事情に詳しいようですけど、不定形族のコミュニティとはそういうものなのですか?」

「ああ、彼女はレン君の保護者という立場でもありまして。だからと贔屓する訳ではありませんが、今回の件は私からレン君に説明しようと考えています。どうでしょうか?」

「……そうですね、レン君もその方が安心すると思います」


 それは皆にとっては棚から牡丹餅(たなぼた)的な実にありがたい申し出だった。レン視点では保護者の知り合いにあたり、『エルフの若き賢者』と称される優秀な人で、立派に職務を果たしている教師である教頭の言葉には間違いなく説得力がある。

 しかしそれだけで全てが解決する訳ではない。レンの不安を全て埋められる訳ではない。その場に居なかった教頭ではカバーしきれない箇所があるのだ。ミサキは少し考え、その部分についてもやはり説得力のある教頭の口から告げてもらった方が良いと判断し頼み込む事にした。


「……ただ、そういう事でしたら一つだけお願いがあるのですが……」

「何でしょうか?」

「……記憶のない間のレン君もいつもと変わらぬ良い子だった、と、教頭先生から伝えて貰えませんか」


 言って、確認のように皆を見渡すミサキ。

 彼女を恐れている者も認めている者も、レンへの対応については意見が一致している。反応の仕方こそ様々だったが、皆一様にミサキの提案に同意を示して見せた。

 それを見て、教頭は満足気に頷く。


「……それが『真実』なのですね。わかりました、必ず伝えましょう」

「ありがとうございます、お願いします」

「礼には及びません。今回の経験はレン君にとって糧となる事でしょう。本来ならばそんな経験を積ませる事は我々の仕事なのですから、このくらいはさせてください」

「…………わかりました」


 確かに、レベルが2も上がるような経験というものには大きな意味、あるいは価値があるのだろう。

 だが、その内容はちょっと恥ずかしいごっこ遊びである。それもサーナスのワガママ(趣味嗜好)やらミサキの個人的事情(中二病特訓)やらのしょーもないモノが重なったヤツである。もっと言うならレンがああなる事も完全に想定外だった訳で、教師の仕事と同列になど到底語れはしない。

 よってミサキは素直に頷く事に抵抗があったのだが……自分の事情はともかくサーナスの好みを赤裸々に暴露する訳にもいかず、若干斜め向きに頷いたのだった。



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