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先生達の次回作にご期待ください


 ――まぁ、そんなミサキ(魔王)の裏事情はさておき。勇者と魔王の最終決戦自体は刻々と決着の時が近づきつつあった。


「てやぁー!」

「ぎゃん!」


 エミュリトスのロッドによる打撃は相変わらず的確にサーナスを打ちのめし、


「喰らえ、暗黒飛燕斬(ダークネスブレイバー)!」

「ぶはぁー!」


 レンのいつの間に開発したのか名付けたのかもわからない必殺技みたいな何か(闇の剣を我が身のように扱い踊るように切り刻む技。実際我が身なのだから当然とはいえ結構スジのいい動きをしてる)はサーナスを結構マジな感じで吹き飛ばし、


「「アイスニードル!」」

「ううっ……!」


 そしてミサキ……とリンデのダブルアイスニードルはサーナスをチクチクといたぶる。

 そう、いつの間にやらダブルになっているのである。何故か戦いが嫌いな筈のリンデがミサキの肩の上から一緒に魔法で攻撃しているのだ。


「うーん、誰かと息を合わせて攻撃するのって楽しいかもー……! えーい!」

「うぐぐ……!」


 サーナスの時には戦いたくないと言っていたくせに今やノリノリである。まぁあの時のはチームワークもクソもないただの雑なフルボッコ大会だったので争いを嫌う者からすれば乗り気になれよう筈もなく、逆に今は『ミサキの攻撃に合わせて攻撃する』『その攻撃に合わせて味方が動いてくれる』という二つの『連携の楽しさ』があるのだ、受ける印象が変わってもおかしくはない。あとミサキの事も認めたし。

 ただ、その変わり身の早さはやはり先程拒絶されたサーナスにとっては面白いものではなく――なんて事も別になかった。二人がイチャつきながら(彼女からはそう見えるのだ)魔法を撃ってくる事の方がとても、本当にとても羨ましいので別にリンデの手のひら返しには特に思うところはないのだ。胸の中は羨ましさでいっぱいなのだ。

 しかし彼女はその気持ちを表には出せない立場にいる。一人の勇者が魔王軍に囲まれ叩かれるという構図を提案したのが他ならぬ彼女自身なのだから。目の前で当てつけのようにイチャついている二人(彼女からは以下略)も自分の為に協力してくれているのだから何も言えないのだ。

 そんなサーナスのそんな行き場のない気持ちは……アイスニードルを受けた時にだけ現れる、演技らしさのカケラも無いガチの呻き声となってミサキに届いていた。


(……なんだろう、見た目よりも効いている? だとしたら魔王を演じた甲斐もあるけど)


 どちらかといえば精神的に効いてます。


 と、そんな感じで――


「そこですっ!」

暗黒連刃剣(ダークスラッシャー)!」

「「アイスニードル!!」」


 そんな感じで四人がサーナスを肉体的にも精神的にも攻撃し続けた結果……時は来た。


「ぐふぅっ……くっ、もうこれ以上は耐えられない……! こうなったら最後の手段ですわ!」

(ん、これは……終わりの合図かな)


 サーナスが満足した合図だと察したミサキは一歩前に出る。打ち合わせ通り負ける為に。

 ……実際は満足ではなく我慢の限界だった訳だが些細な事である。何だろうと二人のやる事は同じだ。


「……最後、ね。やられっぱなしだった貴女に何が出来る?」


 ――この戦い(遊び)に、幕を降ろす。


「ふふ、侮らないでくださいまし……!」


 二人で終わらせる。打ち合わせ通りに。

 そう、決めたのだ。



 ……だから、結局この時の何が悪かったのかと言われれば『二人で決め、二人で終わらせようとした』事だったのだろう。

 そのせいで、こんな結果になってしまったのだろう。



「これで終わらせますわ! 神弓よ、わたくしに力を! 勇者の力、解放――」

「させるか」


 サーナスが叫び、掲げようとした愛用の弓を――暗黒騎士が剣で弾き飛ばした。



「………はい?」



 あくまで『打ち合わせ通り』に動いていたサーナスにとってそれは完全に不意討ちであり、彼女はあっさり弓を手放してしまっていた。

 ミサキも同様の理由で暗黒騎士の動きに一切反応出来ず。ミサキが前に出た時点でちゃんと何かを察し彼女の一挙手一投足を注視していたエミュリトスもまた同じく。


 そんな訳で、少しの間だけ誰もが状況を理解出来ずにいる時間が流れた。擬音をつけるならまさに「ぽかーん」がピッタリな時間が。

 否、正確には約一名、この事態を引き起こした者だけは当然正気を保っている。ある意味では一番正気じゃないとも言えるけど。


「魔王様、危険です。お下がりを」

「……え、いや、あの、レン君、待って」


 戸惑いながらも辛うじて正しい判断――何よりもとりあえずレンを止める――をしたミサキだったが、その声はレンには届かない。今の彼はレンではなく暗黒騎士であり、暗黒騎士には魔王ではないミサキの言葉は届かないのだ。ミサキの存在だけでビビりまくっていた頃の彼はどこに行ってしまったのだろうか。

 ともあれ、そんなトンでしまっているレンの視線は存在価値のないミサキをスルーしてその肩に留まるリンデへと滑り、そしてそこで止まった。


「な、なにー……?」

「魔王様の忠実なる(しもべ)ダークフェアリー、俺にその力を貸してくれないか」

「え、な、何をしろって……?」

「俺に――俺の剣に『エンチャント』をしてくれ。妖精族なら出来ると聞いた」


(なにそれ強そう)


 ミサキの興味を惹く単語が飛び出してしまった。前世の知識で想像するなら属性付与、あるいは特性付与みたいな感じだろうか、と彼女なりにアタリをつけるも真相はやはり誰かに聞くか、あるいは……この目で見てみないとわからない。


「で、出来ないよー! アタシまだ習ってないしー!」

「構わん、魔王様の僕に不可能はない」

「出来ないって言ってるのにー!? そもそも出来たとしてもやっていいのー!?」

「俺の身を案じているのなら無用な心配だ、この身は勇者を屠る為にある」


 噛み合っているのか噛み合っていないのかわからない会話の最中、リンデはミサキをチラチラ見ていた。レンはそれをただ戸惑いから自分を直視出来ないだけだと前向きに解釈しやがったが、言うまでもなく本当はミサキの意見を聞きたいだけである。

 ミサキ達のシナリオから逸れている事はリンデも理解しているのだ。っていうか約一名以外はみんなわかっているのだ。


「今が好機なんだ! 構わん、やれ!」

「アタシが構うのー!」

「不安なのか? この剣は俺の体の一部で出来ている、普通に金属にエンチャントするよりは容易いはずだ。わかったらやれ!さあ!早くガフュッ」


 執拗にリンデに迫っていたその約一名だったが突然変な声と共に前に倒れた。後ろに立っていたのはロッドを構えた同胞である。


「……これで良いですか? センパイ」


 リンデに迫るレンをどうにかしてくれと、ガン無視され続けているミサキがひそかにエミュリトスにハンドサインを送った結果だった。

 が、彼女が送ったサインはあくまで『どうにかしてくれ』であって……


「……うん、ありがとう、エミュリトスさん。容赦無く殴り倒す方法を採るのは意外だったけど」

「……すいません、いざ背後に回ってみたらセンパイに迫ってるようにも見えて、つい」


 別にミサキのサインが通じていなかった訳ではなく、純粋に「つい」で後頭部に一撃叩き込んだらしい。とはいえこの状況ではそれが褒められる行いなのだから困る。


「あ、ありがとー、助かったよぉー……」

「……うん、助かったのは事実だし責めてる訳じゃない。一番手っ取り早くて確実だし。エミュリトスさん、ナイス」


 勿論ミサキは元現代人という事で無条件に暴力を肯定はしない。が、今回はレンの暴走っぷりがマジでヤバかったので仕方ない。台本を台無しにしてしまうくらいならまだ良いがダークフェアリーさんは純粋に困りまくっていたので仕方ないのだ。

 もし問題のある行いだったとしても責任は頼んだ自分にある。という訳でグッ、と親指を立ててエミュリトスに『イイネ』をしておくミサキであった。

 その足元でレンは徐々に液状化していた。




 なお、肝心の最終決戦の決着自体はそのままお流れになった――かと思いきや、


「――ハッ!? 仲間割れですか!? 今がチャンス! 目覚めよ勇者の力! シャイニングアロー!」


 ようやく正気に戻ったサーナスが小走りで武器を拾い、ミサキに向けて軽く矢を放ち、


「……え。ぐわーーーやられたーー」


 まさかこの状況で続けるとは思ってなかったミサキが一瞬素で反応してしまい、焦ってセリフを口にした結果棒読みになり、


「あっ。ま、魔王様あーーー」


 エミュリトスも同上。観客に白い目で見られながらサーナスは気まずそうに拳を掲げて勝利を宣言……とまぁそんな感じで、要するに見てて恥ずかしい、やらない方がよかったレベルのグッダグダの幕引きとなった。



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