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相手は凍る




 で。

 やっぱりというか何というか、ミサキ達魔王軍の残り戦力(参加者)は僅か三人となっていた。なかなかに最終決戦感がある。

 ……フルボッコにされる事で防御力を鍛える、という当初の目的を考えると心許ない人数な気はするが。しかしサーナスはミサキの協力が得られた事もあってテンションは高く、オマケに前向きだった。


「ふふ、なんか話の流れでいつの間にやら目的が防御力を上げる事から上手く演じる事にすり替わってしまいましたが……演じてる時の方が育ってる気がすると言ってしまった以上はそれを証明する為に演じる道を極めるのみ! ミサキさん達も是非とも真剣にお願いしますわ!」


 すり替わった原因もサーナスなのだがそれをツッコむような律儀なメンバーはもう残っていない。「言って()()()()」にツッコむ者も同様に。一応言っておくとメンバーはミサキとエミュリトスとレンである。レンも地味に気を許した相手には付き合いが良いようだ。


「……真剣、か。わかった、頑張る」

「み、ミサキさん、演技に自信があったりするの? あ、疑ってる訳じゃなくてね! さっきのぼく達は全然上手くやれなかったから……」

「……やった事は無いから自信があるとは言えない。試しに一度やってみたいけど……そもそも私は魔王軍の何の役をすればいいの?」

「えッ!? そ、それはぁ~…………」


 声を上擦らせつつミサキから全力で視線を逸らすレン。次にサーナスを見れば少し気まずそうにこれまた視線を逸らされ、薄々察したあたりで諦めてエミュリトスを見ればキラキラした瞳と目が合った。


「……魔王役?」

「当然です! センパイはいずれ頂点に立つお方! センパイに相応しい役なんて他にあるはずがないでしょう!」

「頂点に立つ予定は無いから前提がまずおかしい」


 と一応ツッコミつつも、外見から期待されているのであろう事は容易に予想がついた。ミサキ如きでも容易に。

 魔王の正確な外見はわからなくとも、魔王と魔人が似たような印象を抱かせる存在――伝承に残る悪者――である事は想像に難くないからだ。あと妖精族の子にも言われたし。


「……まぁ、別にいいけど。じゃあサーナスさん、イメージはどんな魔王?」

「え、ええ? そ、そうですわね……普通に尊大で邪悪な魔王、でしょうか?」


 あまり考えていなかったらしい。そして魔王の中身のイメージはミサキの世界とだいたい共通のようだ。まぁ最近はすげぇ善人だったり幼女だったり転生者だったりもするのだがそれは別として。

 ともかくそういう訳でごく一般的な魔王でいいと理解したミサキは大きく息を吸い、恥を捨てて演じる覚悟を決めた。アニメやゲーム、あるいはドラマや演劇に触れる機会の多い現代人としてここは完璧に演じ切って欲しいところだが……


「――はぁーっはっは、私こそは魔王! 人を滅ぼし世界を支配する者なり! ………どう?」


 ミサキとしては結構頑張ったつもりであり、実際、日頃の死にそうな声色と比べれば少しはメリハリのあるいい演技だったと言える。しかしそれを見る皆の顔はビミョーなものだった。


「……ダメな所があったら言って欲しい。真剣にやると言ったから」

「ええと……そういう事でしたらわたくしから言わせていただきますわ、配下のお二方は言葉を選ぼうとして固まっておられるようですし。その……気を悪くしないで欲しいのですけれど……声の演技に表情がついていってませんわ」

「………」


 日頃から鍛えていない筋肉はイザという時には動かない。表情筋もその例には漏れないのだ。ミサキの日頃のローテンションっぷりを見れば喉がしっかり動いただけでも大健闘、褒められるべきとさえ言える。

 まぁ、演者として失格という現実は変わらないのだが。


「……ごめん」

「い、いえ、なんというかこう、惜しい! そう、惜しい感じなので謝るほどの事ではないですわ! ですわよね、お二方!?」


「う、うん、そうだね! ぼく的にはこれはこれでアリな気がするけど! 親しみが持てて!」

「恐れるべき魔王に親しみが持てちゃダメですわよ!? それダメって言ってるのと同義ですわよ!? っていうかそれ演技下手仲間として共感してるだけですわよね!?」


「うぅ、わたしはいつものセンパイがいいです……」

「貴女は貴女でいつもみたいに無条件に受け入れなさいな! なんで今回に限ってワガママ言うんですの!? あれはあれで可愛らしくて良いではありませんか!あっ可愛らしかったら魔王としてダメですわ!?」


 精一杯頑張ってツッコミを連発したものの最終的には嗜好のせいで自爆した。

 なんというか、無関係な身として眺めている分には(嘲笑寄りで)笑える光景だが、そうなった原因のミサキとしては申し訳ない限りである。なので二人の意見を元に改善案を出す。


「……サーナスさん、たぶん私がやるなら普段通りの喋り方で、考え方や振る舞いだけ魔王っぽくするのがいいんだと思う。というか多分それしか出来ない」

「ふ、ふむ? まぁそれでもいいかもしれませんわね、魔王といっても全ての魔王が同じな訳もないですし。生い立ち次第ではそんな魔王もいるのでしょうか、言われてみれば」

「……生い立ち……うん、確かに。そこから考えるのもいいと思う」


 それは要するに人物の背景設定、キャラクターのバックグラウンドの重要さについての話だと言える。サーナスは何気なく口にしただけだが、創作物の溢れる世界で生きてきたミサキはその重要性をよく知っていた。

 ……何気なくで創作のキモを指摘してしまうサーナスは意外とそっち方面の才能があるのかもしれない。彼女に創作をさせたら登場人物が美少女オンリーになるのは目に見えているが、しかしそれはそれで(時代を先取りしすぎている感はあれど)需要はあるのでアリだろう。

 まぁその辺りはさておき、設定は大事である。そしてミサキは素直である。よって設定の大事さを見抜いたサーナスを素直に褒めた、ここまでは自然な流れだ。そして……少女に素直に褒められたサーナスが更にテンションを一段階上げてしまうのもまた自然な流れなのだった。


「そ、そうですか? では少し考えてみましょうか! ミサキさんが魔王だったなら……きっと極寒の地の生まれですわね! 厳しい環境がミサキさんを冷静かつ冷酷にしてダウナーで口数少なめ、しかし決して砕けぬ氷のような確固たる信念をも持つ美少女魔王に育て上げた!得意属性はもちろん水!二つ名は『氷雪の(ブリザード・)魔王少女(ダークプリンセス)』!」

「ま、待って……サーナスさんが設定考えるの?」

「楽しそうなので! あと自分で自分の設定を考えるのは恥ずかしいかなと思いまして」

「……ん……そう言われると……確かにそうかもしれない」


 自分に縁もゆかりもない設定ならまだしも、今回は自身を分析し、それに似合うような設定を考えなくてはならない。しかもそれを皆の前で発表すると考えると確かに少し恥ずかしいかもしれなかった。

 ただ、サーナスに任せていても結局どことなく恥ずかしい設定になりそうな気がしないでもない。っていうか既になってる。


「必殺魔法はエターナルダークブリザード! 相手は凍りつきますわ!永久に! 詠唱の呪文は……「無限の氷獄で永遠(とわ)の眠りにつくがいい、エターナルダークブリザード!」で!!!」

「…………それ言わないといけないの? 呪文は必要無いんじゃなかった?」


「言ってくださいよセンパイ! 絶対カッコいいですから!」

「思わぬ所から援護射撃が」


 ミサキの知る限りではエミュリトスがサーナスの肩を持ったのは初めてだった。エミュリトスはサーナスをちゃんと警戒していたので今まで触れずにいたのは当然なのだが……ここにきて少しだけサーナスの評価が上がったらしい。こんな事で上がるものらしい。


「あ、ポーズはこうでお願いします! ちょっとナナメ向いて手をこうバッと開いて突き出して!」


 ……単に警戒よりもカッコいい(彼女達の感覚で)ミサキを見る事を優先した結果なのかもしれないが。


「あはは……まぁ、カッコよくていいんじゃない?」

(……レン君までこう言うという事は、やっぱりこれがこの世界のスタンダードなのかな。……馴染む努力はしよう)


 転生した以上は現地人の常識や感覚に合わせるのが道理である。現代人から見れば恥ずかしいセンスだとしても現地人は大真面目にやっている訳だから尚の事。郷に入っては郷に従えの精神だ、それを弁えていないミサキではない。よってなんだかんだで彼女は決意を固めた。


 ……黒霧御崎、13歳。思春期特有の病気に(せっかく)罹らずにいたのに、義務感からその沼に自ら足を踏み入れた彼女の明日はどっちだ。


点数が777――を越えて778になりました。我は幸運の数字を超越する者なり。いつもありがとうございます

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