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あの形状、何て言うの




「あら、厩舎があるわね。……牛も馬も居ないけど」


「あれは……何ですかね、大きな釜だけ置いてありますけど……」


「……この建物に至っては中に何も無い」


 他にもいろいろと見て回ったが、人手不足の煽りを受けているせいで何の為にあるのかわからない施設がほとんどだった。

 勿論謎のものは謎のもので謎のものなりに興味は惹かれるが、謎のもののまま解決しない不完全燃焼になるのも目に見えているのでいまいちテンションが上がらない。特に前々から興味津々だった現地人二人の落ち込みようは尋常ではなく、普段なら何かとマイペースなミサキも今ばかりは気まずさに胃痛を感じていたりする。


(……な、何か面白そうなモノを見つけないと空気が……空気が重い……)


 焦り始めたミサキは、二人を先導しながら一縷の望みをかけて『そちら』に足を運んでいた。

 ブラブラと散策していた時から常にチラチラと『それ』の一部分は見えていたのだ。三角錐の頂点のような尖った部分が、背の低い建物の上からしょっちゅうはみ出して。

 なにかと目立つそれを目印にして歩き……そうしていざ目の前に現れた物は、外壁が半透明で、上に行くにつれて細くなっていく螺旋を描いた大きな三角錐――わかりやすく現代風に言うならソフトクリームのクリーム部分みたいな形――の建物だった。

 遠くからでも一部が見える程のその大きさ故に内部も結構な面積があるようで、中央あたりで何人かの人影が動いているのが窺える。しかし広さに加え半透明なせいもあって詳しくは外からではよくわからない。


「なんかヘビがとぐろ巻いてるみたいな建物ですね。気休め程度に外周に手すりが付いてますけど……あれに登って内部を観察するんですかね? 変なの」

「あれは……へぇ、もしかして!」


 テンションの上がり方が対照的な二人だが、ミサキもどちらかというと「変なの」という感想を抱いた側である。リオネーラに説明を求めようとしたものの彼女はテンション上げて建物に駆け寄っていってしまったのでそのままエミュリトスと一緒に後を追う。

 不思議な事に、遠目に見ると半透明だったその建物は近づけば近づくほどに中身が徐々に透けて見えるようになってきていた。


「……一体何で出来ているんだろう、これ」

「えーっと、正式名称は何だったかな……ちょっと忘れちゃったけど、とりあえず『魔法にメッチャ強いなんかの板』って売り文句で研究されてた物のハズよ。もう実用化されてたのねぇ……」

「……『メッチャ』って。『なんかの板』って」


 売り文句、雑すぎではなかろうか。


「ガラスとは違うんですか? ポーションの瓶とかでガラス産業はもう立派に軌道に乗ってるって聞きますけど」

「ガラスに近い使い方も出来るんだろうけど、これ単体で建物が作れるのが大きな利点よね、まさにココみたいに。外で派手に魔法を使いたいけど雨が降ってる、とかいう時はこの中で使ったりするのよ」


(……前世の体育館みたいな感じだろうか)


「魔法に強く、物理的にもガラスより頑丈、というわけですか。不思議な素材ですねぇ」

「エミュリトスも触ってみれば? ホラ、こっちに来て――」


 さっきまでテンション高めに説明していたリオネーラだったが、説明を終えて正面に向き直った途端に言葉が途切れた。目の前の『魔法にメッチャ強いなんかの板』を見て――いや、正確にはそこから透けて見える内側の光景を目の当たりにした為に。

 若干険しい顔をしているリオネーラを怪訝に思い、二人も好奇心を押さえ込んで中の光景に意識を向ける。ゼロ距離まで近づけば普通に内部が窺える不思議な『(前略)なんかの板』越しに見えた光景は……一言で言えばフルボッコ。複数人の生徒が一人に攻撃を加えていると思しき、一見すると教育に良くなさそうな現場だった。


「あいつら、何バカなことやってんのよ……!」


 正義感の強いリオネーラが身を翻し、全速力で走り出す。割って入るつもりなのは誰から見ても明らかだ。レベル的には不安はないが一人で行かせる訳にもいかない、とエミュリトスも後を追おうとするが、何故かミサキは動く様子がない。


「待ってリオネーラさん! せ、センパイ、早く追わないと一人で行っちゃいますよ!?」

「……先に行って。リオネーラを引き止めてて、お願い」

「っ、わ、わかりました!」


 我ながら無茶な「お願い」をしているなぁと思いつつも、ミサキはもう少しだけ状況の把握と確認に努めた。『魔法にメッチャ(後略)』に顔をピッタリくっつけて目を凝らして、確証が得られるまで。

 理由は簡単、その人影達に見覚えと違和感があったからだ。今はまだクラスも一つしかないから生徒に見覚えがあるのは当然だが、その顔ぶれと配置を照らし合わせると違和感しかない。


(多勢の方は……レン君とか妖精族の子達とかのレベルの低い人達だ。多勢と言っても10人も居ないけど。そしてそんな子達から攻撃を受けているのは……あれはやっぱりサーナスさん、か)


 リオネーラは気付く前に頭に血が上ってしまったようだが、そう、目の前のそれはレベル29がレベル一桁の数人の集まりから集中攻撃を受けているという違和感溢れる光景なのだ。戦いは数だとは言うものの、レベル差の影響も大きいこの世界ではこの程度の数で実力差がひっくり返るとは考え難い。サーナスに大したダメージは通っていないと思われる。

 そもそも攻撃側の顔ぶれ的にも色々おかしい。争いを嫌う妖精族や大人しく臆病なレンが悪意をもってサーナスを攻撃するとは到底考えられない。ついでに攻撃を受けているサーナスが一切反撃をしていないのもプライドの高い彼女らしくなく不自然だ。

 それらの違和感に加え、最後のダメ押しとなるのは――


(あ、サーナスさんがレン君の攻撃を受けて吹っ飛んだ。……とてもわざとらしく)


 サーナスが時折大袈裟に吹っ飛ぶのだ。その上転がるのだ。レベル差からして絶対そんなダメージは受けてない筈なのに。恐らく頑張って自分で吹っ飛んで自分で転がっているのだろう。見ているレン達はむしろその動きにハラハラしてるくらいである。

 ……いや、本当、何をしている光景なのだろうかこれは。


(……受け身の練習? あるいはごっこ遊び? 何にせよやっぱり割って入るような荒事ではないと思うけど……リオネーラを追わない訳にもいかないか。エミュリトスさんは追いつけたかな)


 そう考え、ミサキも反転し二人の走り去った方へと駆け出す。

 ……ちょうどその瞬間、向こうではリオネーラが建物の扉を開け放って闖入していた。そこにエミュリトスの姿はなく、やっぱりというか何というか追いつけなかったようである。まぁリオネーラが相手なら仕方ない。



今日で連載開始からちょうど一年が経ちました。いつも応援ありがとうございます。

でも一年が経っても作中で一週間しか過ぎてないのはスローライフ(少し違う)すぎだと思いました。


……これからは気をつけます。たぶん。

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