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本人のいないところで話が勝手に膨らんでいくやつ

諸事情により短めです、申し訳ありません




 強くなりたいというミサキの願いを知りつつも、今はまだ焦らず日々を過ごす事が最優先だと諭した親友二人。二人はその流れで学校の敷地内にある施設の探索を提案した。

 学ぶ事を優先すべきとミサキに説いたのだ、学ぶ為の場所である此処の設備を少しでも知っておくべきと勧めるのもそこまでおかしな話ではない。……ないのだが、提案の仕方はちょっと強引だったかもしれない。なぜならこれはぶっちゃけ二人の願望だったからだ。

 種族の垣根を超えた最新技術が惜しみなく注ぎ込まれた、種族の垣根を超えた共同生活の場。わかりやすく言ってしまえばこの学校は世界の最先端を行っており、その重みを理解している現地人二人は前々から色々と見て回りたいと考える程度には興味津々だったのだ。もっともその興味もミサキに勝りはしなかったのだが、彼女に関するアレコレが一段落した上にタイミングも良い今ならば話は別である。

 勿論全てに興味を示すミサキがこれを拒む筈も無く、午後は敷地内の散策に費やされる事となった。


「おっ、いい炉を使ってるんですねこの学院は。なぜか一基しかありませんけど」


 ブラブラとアテもなく歩き、偶然にも一番最初に見つけたのは午前中にも縁があった鍛冶場だった。ただ、簡単に炉の様子が伺えた事からわかるように鍛冶場には鍵も何もかかっておらず、これは流石に無用心に過ぎやしないだろうかと誰もが思ったのだが、


「あれ? 使った形跡がそもそもありませんね。もったいない……」


 よく見れば周囲にも武器や鉄やらが置いてある訳でもなく、というかぶっちゃけ何もない。盗られるような物がそもそも無い。もしかしたら使う予定自体が無く、よって無用心でも問題無い、という考えなのだろうか。


(……人手が足りないらしいし、鍛治職人も雇えなかったのかな。エミュリトスさんの言う通り良い炉を使っているんだとしたら宝の持ち腐れだ)


 最先端を行っているくせに人手不足。行っているからこそなのかもしれないが、何にせよこの学校の運営方針の不安定さが徐々に浮き彫りになってきつつある。

 まぁ今はまだ彼女達は確証までは持てていないし、ついでにこの炉がどれだけ良い物なのかもエミュリトス以外にはサッパリわからない訳だが。


「……エミュリトスさん、これはそんなに良い炉なの?」

「そうですね、わたしの地元では金持ちで成金でイヤミな一家がよく自慢してましたよ、このレベルの炉を。少なくともさっきまで居たあのお店――えっと何でしたっけ、エターナルダークネス……?」

「……レジェンダリーエンシェントドラゴニックインフィニットエターナルショップ、だったと思う」

「あぁそんな感じでしたっけ。とにかくあそこよりは数段上の良い炉なのは間違いないです。っていうかセンパイ、よく覚えてますねあんな長いの……」


 エミュリトスもだが、リオネーラでさえ店名はすぐには出てこなかったようで隣で頷いている。しかしミサキとしてはこれは胸を張れるようなものではなく、ちゃんと理由があるのだ。


「……あの店名は単語の頭文字を繋げるとladies……レディースになるから。だから少しは覚えやすい。マルレラ店長も狙っての事だと思う」


 形容詞ばかりで意味が全く通らないため無理矢理感ハンパないが、いわゆる頭字語というやつである。前世でちょくちょく見かけていたので運良く気づけたのだ。

 よって記憶力を自慢できるようなものではない。そう言ったつもりだったのだが、二人はむしろ頭字語に素直に感心していた。


「おおっ、全然気付きませんでしたよ、流石はセンパイ!」

「なるほどねぇ、そういうのもあるのねー」


(……あれ、リオネーラですら知らないとなると、もしかしてこういう言葉遊びはこの世界ではまだあまり浸透してない……? だとするとこれは狙った訳ではなく偶然?)


「って、狙ってのコトだとすると……もしかしてマルレラはあのお店を女性専用にするつもりだったの?」

「…………ごめん、自信なくなってきた。断言は出来ない」


 見る見る自信を喪失していくミサキ。見ていて面白い。

 とはいえ一応女性専用店舗の需要も想定出来なくはない。例えば防具を作って貰う際にスリーサイズを申告する場合、女性しかいない店内で女性店員に言う方が気は楽ではある筈だ。

 しかしやっぱりハンターは男性の方が多いと思われるので売り上げはあまり見込めないだろう。となると流行るのかどうかは何とも言えない――どちらかといえば分が悪い気さえする博打だと言える。そんなものにマルレラが乗ったと考えるよりは偶然の産物だと考えた方が無理が無い。


 いやまぁ、酒と博打にハマってて片付けも出来ないダメ人間(ドラゴニュート)の可能性も無いではないのだが。それもあんな幼い外見(ナリ)で。


「……とりあえずあれですね、今度からレディースって呼んであげようと思ってましたけど止めておいた方がよさそうですね」

「……うん」


 偶然の産物ならば呼んだところで通じない。もし狙って名付けたものだったとしても今はスカルのような男性とも普通に交流を持っているようだし(ついでにそもそも客が来ないし)、既に博打に負け、夢破れた状態という事である。わざわざ傷を抉るような呼び方をしてあげる理由もないだろう。


(((こう見ると何と言うか、偶然であってほしくなるなぁ……)))


 本人がこの場に居る訳でもないのにどことなくいたたまれなくなった彼女達はそそくさとその場を後にするのであった。



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