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とりあえず進路の話をしておけば学園モノっぽくなる


◆◆



(……強くなりたいな)


 昼食を済ませた後、否、正確には昼食の最中からずっとミサキはその想いを強くしていた。

 それは当然今日の出来事に由来する。スキルの弱点が判明した以上はその弱点を補う為の強さが、もしくはそれ以前にスキルを発動すらせずにトラブルを解決する強さが必要となるのだ。


(皆に心配をかけないためにも)


 今日も二人には心配をかけた。心配してくれるのは嬉しいしありがたい事だが、友達だからという理由で心配されるのと弱いから心配されるのとでは話が変わってくる。後者はやっぱり申し訳なさが先に来るのだ。少なくともミサキにとっては。

 だから心配をかけないように強くなりたい。自分の為だけではなく心配してくれる周囲の人達の為にも強くなろうという、その意識の変化はきっと良い傾向である。

 まぁトラブルに巻き込まれる前提で考えているのは少し悲しいが……これはミサキももう諦めている。一週間(五日間)で外見絡みのトラブルがこれだけ続けば誰でも諦めの境地に達しようというものだ。


 ちなみにそんな彼女達の昼食は学食――ではなかった。っていうか休日なので開いてなかった。だが購買部の方は(リオネーラの予想に反して)開いていたのでそちらで軽いものを買ってミサキ達の部屋で三人で食べ、そのまま食休みの今に至る。

 何故購買部だけ開いていたのかについてはその場で尋ねこそしなかったが、学院公認クエストの関係ではないか、と後にエミュリトスが推理を披露した。クエスト関連で何かアイテムが必要になる可能性がある以上、クエストが張り出されているなら購買部も休む訳にはいかないのだ、と。

 ハンターズギルドの近くにも同様に休み無く営業しているショップがある事を知っている現役ハンターらしい推理であった。その時の事を思い出し、ミサキは呟く。


「……ハンター、か」

「どうしました、センパイ?」

「……ハンターの知識も凄いな、って思って」

「そうねぇ、あたしもまだまだ田舎者だったわ」


 リオネーラが何かと物知りなのでついついそちらに頼りがちだが、今回のように現場を知らなければいかなリオネーラといえども読み違える事はある。一方で現場での経験からくる知識量という意味ではハンターもなかなかのモノなのはエミュリトスを見れば明らかだ。


「いやぁ、さっきのはたまたまですよ、たまたま。正直わたしも閉まってると思ってましたし……」


 当のエミュリトスはランクの低さもあって別段自身の知識に自信を持っている訳ではない。しかしミサキとリオネーラはそれを理解した上で正当に評価していた。信頼に値する知識量だと。

 知識も強さに繋がる、そう考えるとゆくゆくはハンターになるのもアリなのかもしれない、とミサキは思う。あくまでアリかも程度だが。他に何の仕事があるのかもわからないし。


「……そういえばこの学院の授業はハンターを想定して組まれてるように思うけど、卒業後は皆ハンターになるの?」

「いえ、そうとも限りませんよ。勿論ハンターになる人がほとんどでしょうけど、異文化交流を目的として多くの国がお金を出し合って出来たのがこの学校ですからハンター以外の進路も当然歓迎されます。授業内容も基本的にはどこでも生きていけるようにあらゆる知識を詰め込み、育てるだけ……と言われました、入学前に」

「……入学前」


 リスポーン(転生)した時点で入学当日だったミサキは当然知らない。それに加え、薬草の知識や戦闘術などの授業を『ハンターを想定してる』と勘違いしてしまったのも平和な世界からの転生者特有のミスである。それらはハンターに限らない、あくまでこの世界で生きていく為の最低限の知識だ。


(……知らない事ばかりだな)


「あ、あー、えっと、センパイはどうするんですか? 将来はハンターになります?」


 ミサキが少し落ち込んでいるように見え、事情を知るエミュリトスは頑張って話題を変えようとする。勿論ミサキは別にこのくらいで落ち込みはしないし表情にも出てないので完全にエミュリトスの気のせいなのだが、ミサキは振られた話にはちゃんと答える性格なので結果的にそれに乗るカタチになった。


「……どうだろう。まだわからない」

「えー、なりましょうよー! 一緒にハンターライフしましょうよ! っていうかわたし一人だと道に迷うので誰かに案内して欲しいんですよ……」

「……切実だ……」


 いつも通りミサキに懐いているだけかと思いきや結構深刻な問題だった。

 まぁ、深刻ではあるが別にミサキでなければいけない理由も特にない問題ではある。とはいえそれを理由に自分に助けを求める人の手をはたき落とすほど下衆でもない。っていうか散々世話になっているエミュリトス相手にそんな事をしたら普通に人間のクズである。


「……まだわからないけど、一応第一候補として考えておく」

「わーい!」

「まだわからないけど。……そういえばリオネーラもハンターになりたいと言ってたような?」

「んー、あたしの場合はとりあえずなっておく、って感じなのよね。手っ取り早くお金を稼げて誰でもなれるのがハンターだし。本業としてハンターをやってる上の方のランクの人から見ればこういう考えは面白くないんだろうけどね」

「……とりあえず、でなっていいの?」


 たった今「誰でもなれる」と言われた上、雑用クエストのような簡単なクエストがある事からもわかるようによっぽどアレな人以外はハンターにはなれる。よっぽどアレな人でも強ければなれたりもする。常に万人に門戸は開かれているのだ。

 だから大切なのはとりあえずでなれるかどうかではなく、なっていいのか、の方だ。それこそたった今のリオネーラの説明にもあったように先駆者から面白くないと思われる可能性なども含めて。


「大丈夫、大半の人は最初はそんな軽い気持ちのハズよ、最初の内はランクの問題で命の危険のあるクエストは受けられないからね。勿論そんなノリを面白くないと思う人もいるだろうけど、人手が増える事自体は良い事だから批判はされないわ」

「わたしも行き当たりばったりでハンターになった身ですしね!」

「そうだったわね……。ともかくそういうワケで、最初の内は簡単で安全なクエストをこなしながらハンターの空気をその身で体験し、続けるかどうかを決める……って人がほとんどと聞いているわ」


 職業体験とか正社員登用制度のあるバイトの職場とかなんかそんな感じだろうか。


「戦うのが怖くて辞める人もいるし、同じ理由であえてランクを上げずに別の仕事と平行して安全にハンターをする人もいる。そういう判断も現場を知った上でなら恥ではないとギルドが認めているから最初は軽いノリで問題ないのよ。上に行けば命がけ、だけど下のうちはかなり安全、ランク制のおかげで棲み分けはしっかり出来てるからね」

「なるほど……」

「勿論最初から上位ランクのハンターを目指して入る人もいるわ。もしくはハンターとして名を上げる事で他所にスカウトされようとする人も。上に行ってからスカウトを受けて転職する人って結構いるらしいのよ。国王直属の親衛騎士隊だったりとか、貴族子飼いの騎士だったりとか、はたまたギルドナイトの方にだったりとかね」

「……馬に乗れないとなれないの?」

「え? いや、強ければそれだけでいいけど……?」


 これまたミサキの勘違いだが、騎士はこの世界では騎兵という訳ではなく、単に職種の一つである。勿論騎馬出来るに越した事はないものの必須技能ではない。無資格、未経験者でもやる気と強ささえあれば活躍できる職場です。


「……そう。リオネーラも強いから声かかるかも」

「無い無い。きっともっと強い人が沢山いるはずよ、上位ランクのハンターにも、スカウト先にもね」


 そうリオネーラは謙遜するものの、伝説の教官ヒートマンと大差ないレベルの強さを持つ美少女に声がかからない筈がないのでは、と残り二人は思った。勿論すぐにではない、しかし将来を期待されて目を付けられはするだろう、と。本人は本気で謙遜しているのでその事には気づいていないが。

 ちなみに完全なる余談だがヒートマンは本来ならばまだまだ伸び代のあった男である。戦時中の早い段階から後進の育成に駆り出されてしまい、戦後は戦後でその名をいろいろと使われたせいで自身の強さを磨く暇が無かっただけだ。ついでに言うなら今も教師として働いているのであまり時間が無い。もっともこちらはヒートマンではなくボッツの話ではあるが。一応。


「で、どうしてこんな話になったんだったっけ?」

「んーと、始まりはセンパイでしたっけ?」


「……強くなれるならハンターもアリかも、って思って」


 ミサキが口にしたのはそれだけだったが、言われた二人は二人なりにある程度察した。


「ハンター登録する時は一緒に行きましょ。でもミサキなら慌てることは無いわ、授業でもあれだけレベルが上がりやすいんだもの、まずは毎日をしっかり生きるだけでも強くなれるハズよ。いろいろな事を学んで、知って、ね」

「そうですよ、わたし達のことは気にせずセンパイのペースで強くなればいいんです。どこまでもお供しますから」

「………ありがとう。わかった、ゆっくりやる」


 心配をかけない為に強くなりたいのに、慌てて焦って強くなろうとすると却って心配をかけてしまう。加減が難しいな、とミサキは思ったが、二人のその気持ちには友として絶対に応えないといけない事もちゃんと理解したのだった。


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