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クリスマスプレゼント(全一話 ユーイチ、ティーナ、クロ)

一話完結の読み切り短編です。

ユーイチが邪神を倒した後のお話。


2016/12/25 誤字修正。

 皆が寝静まった深夜――。

 空から降りてくる雪は、途切れることなく静かに積もっていく。


 ここはヴァルディス侯爵領。邪神を倒し、侯爵となったユーイチが治める領地である。

 彼は徹底して治安の維持に力を入れ、ご自慢の赤備え騎士団を巡回させて盗賊を取り締まっている。


「こちらA3地区、異常なし」

「了解。引き続き、警戒に当たれ」


 積雪の中、兵士達が規律正しく街を警備していた。兵士達はホワイトベアの毛皮を用いた上等な防寒着を羽織っている。

 オリハルコン製の鎧は魔法効果もあって断熱性に優れているが、金属は見た目が寒い。鎧下やフードを冬用に換装することで、きめ細かな士気の上昇を図っているのだ。

 兵士のレベルは99。これは人間の到達しうる上限である。騎士団全員が最強。

 さらに剣術の熟練度も日々の厳しい訓練によって鍛え上げているため、その辺の冒険者や盗賊では相手にもならない。


 結果、ヴァルディス領やロフォール領には本物の盗賊ギルドが存在しない。情報収集や、ダンジョンで役立つトレジャーハンター技能を鍛えるための組織が形式的に置かれているだけだ。

 盗みにも厳しい刑罰が科されるため、この二つの領地で盗みを働こうとする者はまずいない。いたとしても、それはよそから入り込んできた盗賊である。


 そんな中、どこからともなく不思議な鈴の音が聞こえてきた。


 シャンシャンシャンシャン――

 シャンシャンシャンシャン――


 闇夜の空中から現れたのは馬車ほどの大きさのソリであった。それを引くのは赤鼻のトナカイ――ではなく、くちばしを赤く着色された二頭のグリフォンだ。

 頭には枝分かれした鹿のような角がくっつけられている。グリフォンは時折、嫌そうにその角を振り払おうとしつつも、御者の命令に従って宙を飛んでいる。

 だが鈴の音は、道行く兵士には聞こえない。サイレンスの呪文で結界を張ってあるのだ。


 ソリが減速し、一軒家の屋根上にスムーズに着地する。重さは全く感じさせなかった。浮遊(フロート)の呪文か魔道具の効果であろう。

 真っ赤な毛皮を着た御者の一人がソリから軽快に飛び降りた。帽子も赤、ブーツも赤。ただし、服もブーツも縁は白い。スリムな体型で、帽子の下から琥珀色の髪が見えている。女だ。

 もう一人、隣に乗っていた相方も同じ格好だ。こちらは男。屋根の上に降り立とうとするが、腰が引けている。


「ほら、ユーイチ、早く」


「いや、ティーナ、ちょっと待ってくれよ……」


 危なっかしい足取りであったが、やはり足を滑らせてしまい、屋根から落ちそうになる。


「ふおっ!」


「危ない!」


 さっとティーナが手を伸ばしてユーイチの手を掴んだ。間一髪、間に合った。

  

「「 ふう 」」


 二人がほっとしてため息をつく。 


「立てる?」


「ああ、大丈夫だ」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 今のはちょっと危なかったな。


 俺は何とか起き上がり、ソリから白い袋を一つ取り出す。さすがに担げるような大きさではなく、四十センチほどの大きさの小さな袋だ。

 領主がこんな時間に民家の上で何をしているのか、謎だ。


 いや、俺が地球の風習についてあれこれみんなに聞かせてやったのだが、それは面白そうだからこちらでもやってみよう! という話になっただけだ。

 毛皮を染めただけの服なんて錬金術師の俺には簡単に作れるし、ソリも家臣が用意してくれた。

 魔法も有るし、空を飛ぶトナカイは無理でも、グリフォンで行けると、ノリノリで計画したのはいいのだが……。

 

 実際、やってみると、結構大変だ。

 もう面倒臭いから窓から忍び込もうかと思ったが、立て付けの悪い窓はなかなか開けられない。はめ殺しの窓も多い。

 玄関から堂々と入ってもいいのだが、寝ている家人を起こすのも迷惑だし。

 まだ明かりが付いていた午後八時くらいまではドアをノックして子供に直接プレゼントを手渡していたが、うちの領地は人口二万八千、成人前の子供は八千人以上にも及ぶ。

 みんなで手分けして実行しているが、それでも結構な数の家を回らねばならず、計画は深夜にまでずれ込んでいる。


 暖炉から忍び込むのも楽しいと思ったのは一件目までだ。

 今日は大雪ということもあり暖炉の火がどこの家でも焚かれているので、炎を魔法で抑えておかねばならず、難易度が高い。

 単純に暖炉の火を消してしまうと、煙が出るのでよろしくないのだ。帰る時はまた火を付けなきゃいけないし。


『いいわよ、ユーイチ』


『早いな…』


 一瞬で下まで飛び降りて着地したティーナに、俺はプレゼントの袋を上から投げて渡す。

 探知(ディテクト)の呪文で家人が暖炉の側にいないことはチェック済みだ。


 今の俺なら余裕で盗賊もできるね!


 ま、領主として生活も安定しているし、他人からわざわざ盗まないといけないようなモノは無いんだけど。

 …うん、下着ドロ事件は深く反省しております。二度とやりません。


 フックを煙突の縁に引っかけ、ストーンウォールの呪文でロープを完全に固定してから、俺はそれを伝って降りる。

 諸事情でロープ技の熟練度は高いのでこれは簡単だ。縄抜けも任せてくれ給へ。

 夜目が利く野葡萄ポーションもすでに服用済みなので、家の中はよく見える。


『寝室は?』


 ティーナが俺に念話(チャット)で聞いてくる。汚れを弾く持続系呪文もこの日のために開発済みなので、体は煤けていたりもしない。


『向こうだな』


 音を立てないようにしながらドアを開け、二人で子供部屋に忍び込む。

 俺の暗記したリストによれば、ここには十三歳の女の子が寝ているはずだ。

 事前に領民の家族構成を詳しく調査し、リスト化している。

 あくまでもクリスマスプレゼントを渡すためだ。

 他意は無い。


 ……他意は無いのに、ティーナからはこの記憶をプロジェクト終了時に呪文で抹消するように命令されている。

 くそっ。

 俺の方が侯爵で地位は上なのに、さらに上の探部(検察)の権力を使われては致し方ない。

 まあ、さすがに見ず知らずの女の子をどうこうしようとも思っていないので別に良いのだが。


『間違いないみたいね』


『ああ』


 ベッドには茶髪の女の子が眠っていた。熟睡しているようで起きる気配は無い。俺も眠い。

 ティーナが近くの棚の上にクリスマスプレゼントの袋をそっと置く。

 靴下にはちょっと入りきらない大きさだし、これでいいだろう。


 中身は、リバーシセットと、トランプカード、折り紙、おはじき、猫の実ビスケット、それに俺の謹製フィギュアが入っている。

 さすがに何が欲しいかまでは調査していない。

 パンや玩具などすぐに買えるものならいいが、妹や王子様が欲しいと言われたら俺はどうすれば良いのか?


 リバーシセットは割と人気で平民でもすでに持っている子がいたりするので、その場合は剣玉に交換だ。

 この家は先ほど呪文でチェックしたが、リバーシは持っていない様子。

 

 喜んでくれるといいな。


 ミッションを終えた俺とティーナは素早く暖炉から外に出る。


「じゃ、次へ行きましょう」


「ああ。今日中に終わるのか…?」


 ソリに乗せられた袋を見て俺はげんなりする。

 来年からは部下か各家庭にやらせよう。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「お、終わった…」


 やり遂げた。二度とやりたくはないが、明日たくさんの子供達が驚くかと思うと、ちょっと楽しみだ。

 もちろん、領主からのプレゼントだなんて、野暮な宣伝はしない。

 あくまで謎の赤い服のお爺さんがくれたプレゼントだ。


「お疲れ様。ふふ、明日が楽しみね。じゃ、私ももう疲れちゃったし、ユーイチの部屋で寝てもいいよね?」


「お、おう」


 ティーナとはすでに結婚しているのだ。夫婦が同じベッドで寝て悪いと言うことがあろうか? 否、問題ない。

 しかも俺は領主である。ティーナも領主なのだ。

 最低でも二人以上の子供を作るのが領主の務めというものであろう。


 先ほどまで精根尽き果てていた俺だが、不思議と力が湧いてきた。


 ドアを開ける。


「あれ?」


 寝室のベッドの上に大きな白い袋がある。赤いリボンで結んであるが、誰かが俺にプレゼントをくれたようだ。


「へえ、プレゼントみたいね。誰から?」


「さあ。カードでも入ってるかな」


 俺は確かめようとリボンを解き中を見る。


「うわっ!」


 ちょっと焦った。

 中には人間が入っていた。

 しかも、赤いリボンを自分の体に巻き付けているせいで、血でも流してるように一瞬見えた。

 軽くホラーだった。


「おい、クロ、何やってるんだ」


 俺は、目を閉じている銀髪の少女の肩を揺する。


「あふ…ああ、ユーイチさん。あっ、クリスマスプレゼントです」


「それは見れば分かるが…」


 どうやら、自分をプレゼントにしてみたが、俺の帰りが遅すぎて先に寝ちゃったらしい。

 粋な計らいかもしれないが、次から箱にしておいてくれ。心臓に悪い。


「な、なるほど…その手が有ったか…」


 後ろでティーナが感心しているが。


「ん、んしょ」

「ほれ」


 クロが袋から出るのを手伝ってやる。

 

「おおお…」


 五センチ幅の赤いリボンを体に巻き付けたクロは、なんとその下は真っ裸のようだ。

 でかした!

 何も教えていないのに、その心意気、しかと受け取った!



「ユーイチ」

 

 ハッ!

 俺はとっさに両手で自分の鼻を庇った。

 後ろにいるティーナを、おそるおそる振り返る。

 ここでワタクシ、赤い鼻のトナカイにされてしまうのでしょうか……?


「その…私も、一緒じゃ、ダメ?」


 ティーナが頬を赤く染め、恥ずかしそうに言う。

 おお。


「もちろんいいとも」


 キリッとして俺は言う。


「うん、じゃあ、最初はクロちゃんからね」


「は、はい」


 初々しいクロが戸惑いつつもリボンを取ろうとする。

 俺はその手を止めた。


「えっと? ユーイチさん?」


「取るのは俺にやらせてくれ」


「あ、はい」


 逸る心を抑えつつ、ゆっくりと赤いリボンを巻き取っていく。もちろんライトの呪文を四カ所に唱えて部屋は念入りに明るくした。

 俺のプレゼントはしっかり見届けないとな。

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