第六話 王宮の要求
前回までのあらすじ
クリスタニア王国からやってきたシンディーという騎士がクロの正体を知っていた。クリスタニア国王と一度話し合って欲しいと頼まれ、俺達は引き受けたが…。道中、シンディーがクロの近くで剣に手を掛けた。
2016/10/17 誤字修正。
「ううむ、こういうこともあるかとは思いましたが……少々、数が多い。クロさんの護衛は任せて頂くが、皆さんはご自分で何とかして頂きたい」
シンディーが前を向いたままで言う。
「必要ないわ。アンタは自分の身だけ心配してなさい。盗賊、二十四!」
リサが敵を一瞬でカウント。俺もすでにイーグルアイの呪文を唱え、敵の位置を把握している。数は二十五だったが、リサの問答無用の先制攻撃で、今、一人沈黙した。
「なっ! くそっ、てめえら、この数相手に正気か?」
髭もじゃの太った盗賊がそんな事を言うが。
「アンタ達こそ、正気? ミスリル装備のレベル70オーバーのパーティーに仕掛けるなんて」
リサが言い返す。言い返しながらも、すぐにボウガンを発射して、また一人、盗賊を仕留めた。
「歯ごたえの無い連中だが、行きがけの駄賃だ。それっ!」
レーネが大剣を振り回し、一度に盗賊三人を斬った。
「ぐえっ!」「ぎゃっ!」「あべし!」
「雨よ凍れ、風よ上がれ、雷獣の咆哮をもって天の裁きを示さん! 貫け! ライトニング!」
エリカも遠慮無く電撃をあちこちに向けてぶっ放す。
「せいっ! 道行く人々を襲う悪党、覚悟!」
ティーナも自分から先頭を切って駆け抜け、それで領主の立場は――あーもーまあいいや。相手弱いし。これはどう見てもノーリスクだ。無双だな。
「な、なんだぁ? こいつら」
ようやく盗賊達がこちらの圧倒的強さに気づいたようだが、もう遅い。
「ニャ! ほいっと!」
リムも軽々と手斧を振り回すが、当たった盗賊は後方へぽんぽん吹っ飛ぶ。
「ぐええーい」「ぎゃーん」
「がっ?」
眉間にナイフが突き刺さった盗賊はそれを手で触って、そのまま前に倒れ込んだ。
ミネアの投げナイフだ。毒塗りだから、かすっただけでも猛毒状態。
「なんとまあ。よし! ならば私も!」
クロの前に陣取り、気の抜けた様子でそれを眺めていたシンディーだが、護衛の必要無しと分かったか、自分も前に突っ込んで盗賊とやり合い始めた。
それなりに強いが、俺達には全然及ばないね。
俺、クロ、ミオ、クレアのまともな魔法チームは魔力温存で待機。
三ターンで片が付いた。
「つまらん!」
リーファの出番無し。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
二日後の夕刻、俺達は無事クリスタニアの王都に入ったが、小さな国だ。
城下町の規模も小さい。
何か掘り出し物が有るかと思って楽しみにしてたのだが、期待するだけ無駄だな、こりゃ。残念。
王城はシンディーがいるためか、フリーパスで裏門をくぐり抜けることが出来た。
城は水晶宮と呼ばれるだけあって、本来無色透明なクリスタルの壁が夕日の光を複雑に透過し屈折させ、赤く輝く様は壮麗だった。
残念ながら部屋の壁などは普通の石壁で、透明では無いようだ。チッ。
「今日のところは、こちらにお泊まり下さい。歓待させて頂きますので」
俺達は個室をあてがわれた。ちゃっかりクロの部屋を別にさせられそうになったが、もちろんそこは抗議して、きちんと俺の隣の部屋を用意させた。
食事を済ませて、寝る。クロはミネアと部屋を密かに交換し、リサとティーナが一緒に寝て護衛に付いた。
翌朝、クロの顔を見て俺はほっとする。
「朝食の準備が出来ております。その後すぐ、謁見となりますので」
シンディーが言う。
いよいよか。
「あ、リーファはここにいてくれ」
見た目が物騒な魔剣で、他人が持つと黒い稲妻の呪いが発動するから、武器をお預かりしますと言われたときに困るし。
「仕方ないの」
大人しく言うことを聞いてくれた。リーファは客間に置いておくことにする。
朝食の席では、シンディーの他にもう一人、金髪の厳つい顔の騎士が同席した。
「お初にお目に掛かる。それがしは騎士総隊長の―――」
「後だ、後。堅苦しい挨拶は飯を食い終わって、私がいないところで頼むぞ」
レーネが横柄に言って挨拶を邪魔してしまったが、騎士は文句も言わず、頷いて黙々と食べ始める。
「兄者、昨日も言ったが、この人達は相当に腕が立つ。兄者よりも強いぞ」
シンディーが言う。少し年が離れているが、兄妹らしい。
「ほう? それは是非、手合わせ願いたいが」
「フッ、よかろう」
レーネは挨拶は邪険にした癖にそんな事を言う。
「私も――ううん、謁見だったわね」
ティーナも釣られそうになったが、自重したようだ。
食事を終え、待合室へ移動したが。
「どう言うことですか!」
ティーナも声を荒げて抗議するが、謁見に際して、俺達の同席は認めず、クロのみの謁見としたいとのこと。
それはちょっとねえ?
ここでクロをどうにかするとは思えないが、やはり大事なパーティーメンバーにして俺の妹分、保護者としては簡単に首を縦に振るわけにはいかない。
シンディーが笑顔でなだめつつ言う。
「ですから、あなた方の力量だと、こちらに充分な護衛を用意できない訳です。少なくとも数を大幅に減らして頂かないと」
ふむ。一理あるね。それに、妥協案を出してきた。
「よし、じゃ、メンバーを決めよう。リサと――」
「そちらの飛び道具をお持ちの方はご遠慮下さい」
俺が言い掛けたが、シンディーが割り込む。ま、少々不愉快だが、国王を護衛する側としては、飛び道具をそのまま持って入られたら敵わないだろうしな。
「同様に、魔術士もご遠慮頂きたいのですが」
「むう」
「じゃ、残るは私とリムね」
ティーナが言う。レーネはさっきの兄者の方と今、手合わせ中だ。
「お一人でもよろしいのでは?」
シンディーがさらに護衛を削ろうとする。
「そこまで妥協するつもりはありません」
ティーナがキッパリと断った。
「わかりました。ですが、武器は預からせて頂きます。それでよろしいですね?」
「ううん。分かりました」
そこは飲んじゃ駄目な気もしたが、国王との謁見で、本来呼ばれない者が、武器を携帯というのも、無理筋だろう。
怪力のリムがいれば武器が無くてもある程度は対応可能だ。
「じゃ、頼むぞ、リム。黙ってて良いからな」
「ニャ。これもクロのためニャ。頑張るニャ」
おお、なんか、いつになく頼もしいリムだな。良い奴だ。
「ふふ、お願いね」
他のメンバー、俺達は控え室で待つことにした。
皆、言葉少なで、沈黙が支配的になる。
「何を話してるんやろうな」
ミネアが話を向けた。
「まあ、今までどうしてたか、その辺だろうな」
俺が常識的な事を言う。
「それに、これからのことでしょ。向こうは世継ぎにするつもりは無いようだから、ここに引き留める可能性は低いと思うけど」
リサが言うが、それはどうだろうな。
王族というモノは存在だけで利用価値がある。
謀反を起こす側にとっては、自分達の正統性を高めるための手段として、躍起になって引き込もうとするだろう。
クリスタニアの政情不安がどの程度か気になってきたが――ううん、調査しておけば良かったな。まあでも、慌ただしかったし。
「あふ…」
退屈だったか、珍しくリサがあくびをかみ殺した。
俺もちょっと眠くなってきた。
エリカはソファーで心地よさそうに寝てるし。
「皆様も、お疲れのご様子。どうぞ客間の方でお休みになって下さい」
その場にいた騎士がにこやかに言うが。
「ほっといて頂戴。今は動けないわ」
リサが当然、断った。
「そうですか。ではご自由に」
「あかん、なんか変やで」
立っていたミネアがふらつきながら言う。
「くっ、そうね」
リサも頭を押さえて言った。
むむ、これは無詠唱魔術か?
強力な催眠が敵指定で掛けられている模様。
俺はすぐにレジストを試みたが、気づくのが遅かった。くそ。
「ん」
ミオが俺に向かって解除の呪文を使ってくれたが、おいおい、失敗しただと?
相手が強力な魔導師クラスだと気づいたが、時すでに遅し――。
「ファ、ファルバスの神々よ――」
クレアも状態回復の祈りを捧げようとしたが、その前に崩れ落ちてしまった。
続いて俺もすうっと意識が飛んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ハッ!」
気がつくと、薄暗い部屋にいた。四方を石ブロックに囲まれており、おそらく城の地下だろう。
だが、まずは時刻の呪文で現在時間を確認しないとな。
「えっ?」
呪文がかき消された。
おいおい……。
そういう結界内かよ。
マッパーの呪文を唱えたが、やはり駄目。ステータス表示も消えている。
「くそっ。おい、お前ら、大丈夫か」
クロも心配だが、その場に倒れ込んでいるミオやエリカを揺すって起こす。
「ん……不覚」
ミオはむっくりと起きた。無事だ。
「ううん、なに?」
エリカは目をこする。状況が分かってないな。
「あらあら」
肩をすくめたクレアも無事。
「やられた。閉じ込められたぞ。呪文の使えない場所だ」
俺は言う。
「えっ?」
エリカが驚いて、手をかざし、何か呪文を無詠唱で使ったが、やはり無効化されたようだ。
「何よ……」
「どれ」
俺は石ブロックをぐいぐいと押してみたが、全然駄目。
四方と天井と床、全て石ブロックなので、どうやってここに閉じ込められたか、そこから気になるが、今のところ、脱出路は無さそうだ。
「うーん、一応、悪あがきはするが、斥候チームや前衛チームに期待するしかないか…」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
あれからどれだけ時間が経過したのか、よく分からない。
感覚としては一時間かそこら。腹は減っていないので、半日以上という事は無いはずだ。
エリカはひたすら呪文を唱え、俺とミオはあちこち調べ周り、クレアは祈りを捧げたが、突破口は見つからず。
お手上げの状態だ。
このまま閉じ込めたままで、飢え死にさせるってことは無いだろう。
眠らせたときに、剣でブスッと行けば、死んでるからな。
だから、そこまでの焦燥は無い。
クロもおそらく無事だ。
クロを抹殺するつもりの行動なら、俺達もとっくに生きてはいないはず。
多分、あちらさんは俺達が身動き取れない間に、クロを説得してクリスタニアに引き留めようという算段だろう。
甘いね。
俺達とクロの絆はそんな事くらいで揺らいだりはしない。……多分。
まあ、クロが本気でこっちにいたいと心変わりしたなら、それも尊重するつもりだ。
変な催眠術や騙しが無ければだけど。
その場合、クロと面会が許されるかどうかも気になるところだ。
くそ、なんで離婚した父親が娘に会えるかどうかを気にしてるみたいになってるんだか。
「ん、ここから生きて出られたら、私とデート」
ミオがそんな冗談を言い出すが。
「ああ、いくらでもしてやるが、殺されるって事はまず無いぞ」
「ん」
「だいたいアンタが……ううん、私がしっかり起きてれば良かったわね」
ビシッと俺を指差しながら、自分も寝ていたことを思い出すエリカ。
「ま、ここまでしてくるとは思わなかったし、油断もあったかな……」
俺はそう言って頭を掻く。警戒はしていたが、レベルが70オーバーということで、やられはしないだろうという驕りがあった気がする。
「そうね……でも、私達、クロの面倒を見て、パーティーメンバーで、知り合いでしょ? 何でこんな扱いなのよ」
エリカが言うが、まったくだ。
俺は肩をすくめて、座り直したが。
ズズズッと壁の石ブロックが動き始めたので、全員、警戒する。




