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異世界の闇軍師 番外編  作者: まさな
守るべきは―― (クリスタニア編、全八話)
13/19

第五話 クリスタニアへ

前回までのあらすじ

 大怪盗が忍び込み、クロのフィギュアが狙われた。クロは昔の夢を見たが…。

 大怪盗の騒ぎがあった翌週、ヴァルディス男爵に面会を求める騎士がやってきた。

 彼女はシンディー=ブラウンと名乗った。上級騎士だそうだ。


「美人か?」


 まず俺はセバスチャンにそれを確認した。


「はい、お館様と同い年で、お好みの美少女かと」


「おお! すぐに通せ! あと、上等なお茶請けもな! 場所はフランクに狭い方の応接間で!」


「畏まりました」


 応接間で彼女と面会し、ソファーから立ち上がる彼女に俺は軽く手を挙げて言う。


「そのままで結構。無礼講と行きましょう」


「ありがとうございます」


 向かいのソファーに座り、じっくりねっとり彼女を観察する。


 緩やかにウェーヴした赤毛の髪。表情は明るい。顔つきにまだあどけなさも残るが、仕草は堂に入った騎士である。


「ムフッ、それでシンディー殿、ああ、私のことは気軽にユーイチとファーストネームでどうぞ。今日はどのようなご用件ですかな、フヒッ」


「はい、いくつかお伺いしたいことがございまして」


「おお、薬草の採り方から、僕の好きな女性のタイプ、フィギュアの作り方まで、何でも聞いて下さい。いくらでも教えますよ、ハッハッハッハッ」


 俺は上機嫌で言う。

 シンディーはニッコリ笑って頷いた。


「では、こちらに我が国のエステル=クワトロ=グラン=クリスタニア第二王女がおられると思います。その経緯について少々」


 俺の笑顔が静止する。


「……」


 おいおい…。くそっ、どうしてバレた?

 いや、そこは今は重要ではない。

 どうやってごまかすかだ。

 まずは当然、否定の一手だな。


「何の事やら、分かりかねますな」


「ご冗談を。こちらがエステル殿下のお姿です」


 シンディーはそう言って腰のポシェットから水色の宝石がはめ込まれた菱形のペンダントを取りだした。

 それをテーブルの上に置き、宝石の部分を指で触れると、それは魔道具だったらしく、空中にホログラムが鮮明に浮かび上がる。

 銀のティアラを頭に付けたクロの姿だった。


「そして、こちらが――」


「あっ! そ、それは!」


 俺は驚愕したが、シンディーが取りだしたもう一つのモノ――それは俺が秘蔵にしているクロのフィギュアだった。

 どうして、ここに。


「いかがです? どちらもうり二つ(・・・・)でしょう」


「ふむ。いえいえ、よく見て頂きたいが、左のフィギュアはローブの一般少女、右は高貴な地位の御方、こちらは王族でしょうな。ティアラが違います」


「では、クロさんをここに。このティアラをお付け頂ければ、ユーイチ様もご納得頂けるかと」


 チッ、この女、全部調べているようだ。それに用意も良いな。これはごまかすのは無理か。


「それで、仮に王女殿下だった場合、そちらはどうなさるおつもりか」


 俺は問う。


「もちろん、そちらの対応次第では、王族の誘拐となり、深刻な外交問題になるでしょうね」


 笑みを崩さずに言うシンディー。


「誘拐では無く、クロ……本人が帰国を望んでいない場合にも?」


「それは身の安全が確保されてからの話です。その上で、ご本人の口からでしたら、我らが陛下も無理に、とは仰せにならないかと。すでにエステル殿下は表向き、病死と発表され王位継承権も消失しています。第三王女のプリシラ様が世継ぎですので」


「ふむ」


 クロがミッドランド(こちら)でおかしなことになっていないのも、シンディーは承知のようだ。でなければ、とっくに突入部隊を編成したり、正式な(・・・)外交ルートで脅しを掛けてるだろうからな。

 俺はさらに探りを入れる。


「身の安全が確認されれば、そちらは引き下がると?」


「いえ、それだけでは足りません。我らが陛下は直接、ご自分の目で確かめたいと謁見を求めておられます。もちろん、内密に、ですが」


 自分の娘の身の安全を確かめたいと思うのはむしろ当然だろう。

 だが、クロの話では、おそらく国王も呪いの追放に関係しているだろうとのこと。

 だとすると、クロの抹殺を図ることも考えられ、迂闊に会わせるわけには行かない。当然だ。

 断りたいところだが、簡単に断れる話でも無いなぁ。

 うちの王宮は知らないことだから、これが発覚したら、やっべ、俺の爵位どころか、命も危うくなりそうだ。


 長考する俺に、シンディーが付け加えて口を開く。


「もし、拒否されるのでしたら、色々と大きな話となって、お互いに面倒な手続きになると思いますが」


「では、まずは、身の安全を先に証明しておきましょう。その上で、本人からも話を聞いて頂く。ただし、こちらも彼女のパーティーメンバーとして、身の安全を確保させて頂く」


 俺は言った。

 こちらはあくまで王女本人であることは認めない。その上で、冒険者仲間としてクロを扱い、その身の安全は向こうにも確認させてやる。

 それが一番無難な気がした。


「ふう……分かりました。では、まずはそのように」


 シンディーもすぐに連れ戻せるとは思っていなかったようで、妥協してくれた。


 俺はすぐにパーティーメンバー全員に召集を掛け、みんなで打ち合わせした後でシンディーにクロを会わせた。

 もちろん、俺達が護衛している中での面会だ。

 シンディーは礼儀正しく接し、クロの現在の状態を本人の口から確認した上で、クリスタニアの国王が会いたがっている旨を伝えてきた。


「そうですか。お父様が……」


 考え込むクロは、やはり相手が実の父親だからか、完全な拒否では無い様子。

 出来れば会わせてやりたいが、それは相手がおかしな事をしないという前提でなければならない。


「一日、考える時間を差し上げます。皆とご相談になってお決め下さい。ただし、帰国されないということでしたら、こちらも相応の手段を執りますので」


「おい、話が違うぞ」


 俺は強引なシンディーの話の持って行き方――脅しと言っても良いだろう――そこに不快感を覚えて抗議する。


「約束は違えていないと思いますが。こちらとしては、一刻も早くご帰国頂いて、国王陛下に謁見された上で今後の話をしたいと考えます。そうやって魔術士と剣士に囲まれて、どうして殿下が脅されていないと証明できますか?」


「それは私の仲間に対する侮辱です。皆さんは脅してなどいません」


 クロがはっきりと言った。


「ええ、ですが、それは剣と魔法の無い所でしか証明できないかと」


「ううん……」


 話し合いは平行線に終わり、ひとまず、交渉の2ラウンド目は終了とした。


 シンディーが客間に引っ込んだ後で、俺達は今後の方針を確認し合う。


「向こうは外交問題にしてくるかしら?」


 ティーナが右手をあごに当てて思案しつつ言う。


「無いと俺は思うぞ。すでに病死と発表した時点で隠蔽する気、満々じゃないか。今回はクロの存在を知って、抹殺しに来た可能性もある」


 俺は言う。言った後でクロがしゅんとしてしまったので、しまったと思った。


「まあでも、それならアサシンギルドに依頼すればいいだけで、わざわざ面会して話を切り出したりはしないわよね?」


 リサがクロを見ながら言う。クロがパッと明るい表情になった。


「どやろなぁ。本人と確信が持てなかったら『念のため』と言う事で確認を取るかもしれへん。仮にも子爵と男爵のパーティーメンバー、人違いでしたでは、すまんやろ?」


 ミネアが言う。その可能性もあるだろう。


「確認だけなら、謁見の話は出す必要は無いんじゃないかな?」


 ティーナが言うが。


「甘いわね。クリスタニア側が、暗殺は考えていませんよとアピールするための、ジェスチャーかもしれないでしょ」


 リサがその考えの穴を突いた。


「ああ、ブラフなんだ…」


「かもしれない、と言う話な」


 俺は付け加える。いちいちクロがしゅんとしたりパッと明るくなったりで、なんとも。

 この様子だと、父親に会いたいんだろうな。


「私は、会わせない方が良いと思うぞ」


 レーネが意見を言う。

 面倒なごたごたに巻き込まれる可能性があるなら、キッパリ断って、その方面で対策を立てる方が安全かもしれない。

 あとは、クロの問題と言うより、俺がヴァルディス男爵としてミッドランドの王宮やクリスタニアの王宮とどう抵抗していくか、と言う話になるか。

 いざとなれば、クロは事故や病気で死んじゃったということにして、髪の色を変えて匿えば、引き渡せという要求は無くなるだろう。

 だが、それだとずーっとビクビク隠れて過ごさないといけないわけで…。


「私は、一度会うだけ会って、すぐ帰って来ればいいと思うんだけど」


 エリカも意見を言う。

 それでクリスタニア側が納得するのかという問題は残るが、クロの希望を考えるなら、それも有りかもしれない。


「ニャ、クロの家に帰るだけニャ? それなら、なんで迷うニャ。帰りたいときに帰ればいいニャ」


 リムは王族のややこしい事情が全く理解できていない様子でそんなのんきな事を言う。

 だが、そうだな、王族とかそんなことより、自分の家族に会いたいと思うのに、ゴチャゴチャした理屈はいらないか。


「よし! 俺達が護衛して、クロの安全を確保した上で、国王に会ってみよう」


 俺は決定気味に言う。


「そうね。うん、賛成。私達なら無双できると思うし」


 ティーナが賛成してくれたが、ううん、なんだろう?

 俺の提案が凄く間違ったことのように思えてきた。

 俺は無双するつもりは無いのよ…?


「知らないわよ、後でどうなっても」


 リサは呆れ気味に言うが、賛成らしい。


「ん、無双は常識。クリスタニアをボコボコにしてくる」


 ミオがふざけて言うが、やめなさい。クロの故郷なんだから。クロは冗談と分かっていたようで嫌な顔はせずに、クスッと笑っている。


「すべては神の御心のままに」


 クレアも微笑んでクロの両肩に手を置き、賛成した。


「よし、行くか!」


「ええ、行きましょう!」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 シンディーに帰国の旨を伝え、さっそく俺達は慌ただしく支度をした。


 国境までは飛空艇で向かい、そこから先は許可に時間が掛かるとのことで、降りて歩きだ。

 迎えの馬車くらい用意しろと思ったのだが、あくまでクロの正体は秘密らしく、ま、視界の悪い馬車で外から襲われるよりは、こちらの方がマシか。

 クロは白い大鳥(クーボ)に騎乗し、不安三割、嬉しさ七割と言った感じの表情をしている。


「やあ、こうしてクロさんと一緒に歩けるなんて、楽しいですね。冒険しているようです」


 シンディーは王族相手でも緊張せず、気さくな感じだ。


「ふふ、そうですね。新メンバーですね」


 クロがそう応じたが、それを聞いてティーナがピクッと眉をひそめた。


『タダの冗談だろ』


 俺は念話でティーナにフォローを入れておく。

 いちいちレイピアなんて持ち出されたら、シンディーも無用の緊張を強いられるし。


『分かってるけど…。クロから目を離さないでね?』


『当たり前だ』


 表面上は和やかだが、全員、いや、リムは蝶々を追いかけたり、本当に和やかだが、他はシンディーがおかしな動きをしないかよく見張っている。


「あ、見て。こんなに水晶が」


 ティーナが道ばたの先を指差すが、一メートルの大きさの半透明な水晶がそこかしこに生えている(・・・・・)

 クリスタニア、水晶の国と言われるゆえんであろう。


「食えるニャ?」


「プッ、いやいや、それは石ですから、食べられませんよ」


 リムの疑問にふき出しながらシンディーが答えてやる。


「ハッ! シンディー殿、この落ちて転がっている水晶は拾ったりしちゃっても……」


 俺はお小遣いイベント発生の予感にドキドキしながら聞いてみる。


「ええ、まあ、好きなだけ拾って頂いて結構ですが、濁った水晶やひび割れた水晶は値が付きませんよ。見ての通り、この国では水晶はいくらでも取れますから、道具屋に持って行っても安値でしょう。買い取ってくれるかどうかも怪しいです」


「ふむ」


 ま、それはこの国で、の話だ。

 飛空艇に載せて、水晶が採れない国へ持って行けば、きっと良い値が付くぜー。


 さっそく、俺は透明度の高い水晶を拾って懐に入れ始める。


「止めなさい。ローブが重くなって、いざというときに困るでしょ」


 リサが正論だが、楽しくないことを言う。

 異次元のアイテムボックスとか、収納魔法がこんな時にあれば……。

 だが、俺はその開発に手を付けるつもりは無い。

 古文書も目は通したが、それらしき魔法は存在していない。

 それ系の魔道具も無い。


 ちょっと体調が悪くて、座標を間違え、大切なアイテムが取り出せなくなったりしたらどうするのかと。

 異次元と繋がってるとして、そこから変な魔物が出てきたらどうするんだと。

 怖くて手も突っ込めないよね、そんなモノ。

 間違って自分が異次元に落ちたらどうすんのって話だよ。

 押し込まれて蓋を閉められたら、出られそうにないし、いくらでも殺人可能な気がするわ。


 ともかく、俺はそれ以上の水晶の収拾は諦めた。

 何なら、正式に外交ルートで交易を打診して、取り放題をやらせてもらってもいいんだし。


「城もあちこちに水晶が使ってあるので、綺麗ですよ。水晶宮と呼ばれています」


 シンディーが言う。


「へえ」


 女性陣が興味を示した。ま、これだけあれば、建材に使うだろうな。


 …ハッ!


「あの、お、お風呂も透明なんでしょうか?」


 俺はおずおずと問うた。


「え?」


「死になさい」「答える必要、ありませんから」


 リサとティーナがほぼ同時に連れないことを言う。



 街道の分かれ道に差し掛かった。

 道しるべの石があり、まっすぐ行けば王都らしい。


「少し遠回りになりますが、右を行きます」


 シンディーが言う。

 そのままどこかで伏兵部隊が待ち受けているのでは、という心配もよぎるが、うるさ型のリサも何も言わずに頷いただけだ。

 王都への最短距離の道って、盗賊が待ち受けたりすることがあるもんね。

 それを考えての事だろう。


「この白クーボはいいですねえ。賢い。いたたっ」


「クエッ!」


 マリアンヌを撫でようとしたシンディーを、警戒してくちばしでつつき返してる。

 それがお気に召したようで、ますますちょっかいを出すシンディー。


「あっ、駄目よ、マリアンヌ。この人は敵じゃないから」


 クロはそう言い聞かせるが、いつもと違ってマリアンヌは警戒態勢を解かない。


「欲しいなら他のクーボを当たりなさい」


 リサがつっけんどんに言う。


「そうは言うけど、なかなかこの白いのは珍しい。足も速そうだ。いたたっ」


「クエッ!」


 アンタのモノになんかなってやらないんだから!

 という明確な意思がマリアンヌの全身から出てる。


 ――と、シンディーが急にちょっかいを出すのを止め、鋭い目に一変すると剣の柄にすうっと手を置いた。


 リサもほぼ同時にボウガンを構える。

 皆に緊張が走った。

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