騎士令嬢と宗教
旧市街は城塞の内側に存在する城下町で、都市エベルの発展の中心となった場所である。壁内地の面積から考えれば旧市街全体で人口7000 ~ 8000人くらいだろうか?
“イルゼ殿、この都市の人口はどれくらいいるんだ?”
彼女は先程の反省から少し声を潜めて話してくれる。
「教会の把握しているものを基準とした4年前の数字でよろしければ……」
「教会?太陽信仰の連中か?」
300年前だと、宗教と言えばこの惑星の太陽を祀る白夜教だったな…… 奴らは本当に“夜の来ない世界”を望んでいるんだろうか? 生態系に与える影響が洒落にならないと思うが……
「いえ、双月信仰や星の使徒など、都市民の個々人が信仰する神を祀る教会の全てです。新生児が生まれると、祝福と加護を貰いにいきますからね」
“因みにイルゼ殿は?”
「大抵の領主とその家族は領内で最大の宗教を選択しますけど…… リースティア家は代々星の使徒です」
“はっ?”
星の使徒は知っているが……、教義の中に“全ての生命は等しく星の子らとして尊ぶべき”という思想があって、300年前の人と魔族の闘争の時代では、異端として迫害されていたはずだ。
「人と魔族の戦いの後、迫害されていた星の使徒たちが逃れて来たのがこの土地だったのですよ。私の家系も遡れば“星を見る者”です。だから私も初級の魔術が使えるのですよ」
星を見る者、所謂、スターゲイザーは星の使徒の中で司祭に位置する立場だ。
“じゃあ、この都市では星の使徒が多いのか?”
「…… いえ、他の都市と同様に白夜教が最大宗教ですので、星の使徒は2番目です。ただ、このエベルでは、星を信仰する住民に配慮して、白夜教の司祭殿も過激な発言や思想は控えてくれています」
これは朗報だ、もはや極端に数を減らしてしまった魔族の現状を考えれば、融和路線を何処かで採るべきと思っていたからな……
星の使徒が健在で、しかも300年前より認められていそうじゃないか。戦争の時代が終わった後では、そこまで忌避される教義ではなかったわけか。
「それで、人口でしたよね? 魔王殿」
“あぁ、そんな事を聞いていたな……”
途中の話にもっと重要な情報があったので、正直どうでもよくなっていた…… いや、そうではないか、仮にこの都市エベルと何かしらの関係を持つにしても、その規模は大事だ。
「先ほども申しましたけれど、調査自体に非常に労力がかかるため、4年前の数字ですよ?新市街に約30000人、旧市街で約7000人の全体で37000人程度です」
“ん、それでは現在は40000人を超えているかもしれんな……”
ということは、この都市だけでも400~500程度の兵を動員できる。さらにノースグランツ領全体を考えればかなりの戦力になるな…… それを味方にできないまでも中立化すれば、シュタルティア王国も早々には此方に手を出せなくなる。
スカーレットやヴィレダから聞くところによると、今は人間同士でも争っている時代らしいからな…… 国境の兵は早々に動かせまい。
いいぞっ、うまく均衡を作れそうだ!
「そろそろ着きますよ、魔王殿」
俺が捕らぬ狸の皮算用をしている間に、領主の館と有事の城塞の役割を兼ねた小型の城、若しくは、大きな貴族屋敷と表現できそうな建物に着いた。
その建物の門は平時のためか、開放されているが、その両脇に体躯の良い兵士2人がハルバードを抱かえて立っている。その鎧の徽章はイルゼの鎧に刻まれ意匠とは異なるものだ。
「私はイルゼ・リースティアです。領主のヴェルガ・ベイグラッド殿に取り次いでください」
「…… リースティア家の方ですか?」
「失礼ながら、前領主のご令嬢は魔族どもの潜む地下迷宮20階層の戦いで討ち死にされたと聞き及んでおります」
訝しげに二人の門兵が睨んでくる。
「私にちゃんと脚はありますよ」
「……いえ、語りの偽物かもしれませんので」
「お嬢様に対して、何て失礼なッ!!」
「いいのですよ、マリ」
この騎士令嬢の事に関しては沸点が低すぎるマリを抑えて、イルゼは懐から指輪を取り出す。その指輪にはリースティア家の紋章が刻まれていた。
「ッ、宜しいのですか?それは奥様の……」
「構いません、身の証明には適しているでしょうからね」
イルゼ嬢の母親か…… 確か、幼い頃に災害で亡くなったと言っていたな。
「お預かりします」
指輪を受け取った門兵は小城の中へと入って行き、その20分後に俺達は門を通る事を許されるのだった。
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
拙い作品ではありますが、頑張って書いて行こうという励みになります。




