魔王、一人だけ文句を言われる
此方の姿に群衆が湧き、武装使徒の数名が慌てて抑えを利かせた後、人の姿で診察を行う青肌エルフ達に混じって罹患者の病状を確認する。
その傍らで流行り病の実態をそれと無く伝えておくのも忘れない。
「“麦角中毒” ですか、聞いた事ありません」
気休め程度に痛覚鈍化の精神干渉魔法を掛けてやった効果もあり、やや落ち着いた様子の若い鍛冶師が不思議そうに首を捻り、地球の中世西洋で長らく猛威を振るった症状を呟く。
様々な情報を鬼姫ミツキの協力で調べるのと並行し、彼女の配下に感染拡大地域より集めて貰った麦穂を分析した結果、研修医の沙織が麦角菌と類似する病原体を確認していた。
現状、持ち込んだペニシリン系抗生物質が実験で芳しい効能を示していない事に加え、別惑星の生命体に及ぼす副作用が不明瞭な事もあり、現地の吸血鬼に由来した薬剤で血液凝固の弊害に対処しつつ自然治癒を待つしかない。
それらの事柄を分かり易く曖昧にして伝え、これ以上の被害を防ぐため懸念はあるものの感染源についても言及しておく。
「黒い麦粒を見た事はあるだろう?」
「ッ、あります。偶に紛れ込んでいて、目立つのは麦穂から取り除いて残りを粉引きしてますけど、あれのせいで私が痛い目に合ってたんですね」
表情を顰めた若い鍛冶師に頷き、流行り病に転地療養が有効な理由の一つとして食事の変化があるのを言い含めた上で、知己にも小麦やライ麦の変色部位は全て取り除くように広めて欲しいと頼み込んだ。
「勿論、協力しますよ、治癒師様。それにしても許せねぇ、麦を売っている奴ら…… こうなるとパン屋の連中も信用が置けない、質の悪い安価な麦穂を使っているかも知れませんから」
「まぁ、彼らも悪気がある訳じゃないさ、必要な手は此方で打っておこう」
いたずらに卸元の商人を批判して、麦類を扱う商店やパン屋が軒並み焼き打ちにでも遭ったら、小都市カルネアで物流が滞るのは避けられない。
余計な混乱を招くのは他領と謂えども本意では無いため、街の人々を暴発させない様に仕向け、当座の診察を済ませた。
「あの、私の状態は……」
「かなり両腕の壊死が進んでいる。後回しにすれば切断も在り得るから優先順位は上げておこう、向こう側で少しだけ待っていてくれ」
言葉と共に星詠みの司祭が立つ聖堂袖廊の裏口付近を指差し、鍛冶師の青年を移動させる。
右脚にも血管収縮が起きているのか、引き摺って進む背中を見送り、忙しなく動き回るリーゼロッテ達や他の治癒師を一瞥してから、罹患した息子を抱える壮年の商人に歩み寄っていく。
凡そ一半刻程の時間を費やして、いつの間にか増えていた昨日の治験者なども含め、全員の簡易診察とトリアージを終えた。
心配していた選別に対する不満は丁寧な病状確認や、正体がエルフ女性だけに可憐な治療班の影響も相まって僅かに留まる。
(正直、クレーム被害を受けたのは俺だけな気もするが……)
少々納得がいかずとも、病状が顕著な一部を聖堂内へ招いて沙織の点滴治療を受けさせ、星の使徒らの厚意で提供された栄養価の高い昼食も与えて帰路につかせた。
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