魔王、戦場における損益分岐点を考える
「ん、やはり遠見と転移の魔法は魔導装置で阻害されますわ」
「スカーレット殿、そりゃあそうでしょう……」
クリストファは確かめるまでもないという表情をするが、何かしらの理由で魔導装置の動作が不安定になっていれば儲けものだ。
「分かってないね、どんな些細な事でも確かめるに越した事ないよ」
「……(コクッ)」
自動小銃Ak-46を肩に担いだ天狼のヴィレダがケモ耳をぴくっと動かし、まだ実戦経験が浅い彼にダメだしするのに頷く。
城内に転移できる隙があれば人狼突撃兵の少数精鋭で敵方の中枢に奇襲を仕掛ける事もできるし、それに合わせて城壁にも取り付けば効果的な攻略も可能である。
「まぁ、そんな上手い話は無いがな…… どの程度まで都市を壊して良いんだ?」
「必要最小限の損傷で取り戻したいですね。勿論、人的被害を押さえた上でお願いします、魔王殿」
などと模範的で都合の良い事をベイグラッドの次男坊は言うが、少なくとも城門は破壊したほうが早い。その上で北門周辺を確保する必要がある。
雪崩れ込んで大人数が展開し難い市街戦に持ち込めば、必要な路地を押さえて戦闘に参加できない敵方の遊兵を増やし、数的不利を覆す事も可能だ。
「因みにガイエン、貴殿がリベルディア騎士国の将官ならどの程度の損耗で撤退すべきと判断する?」
「ふむ、リベルディアの情勢には詳しくない故に明言できませんが…… 奪ったばかりの都市を死守するという気概はないでしょうな」
戦争というのは最後の一兵まで殺し合うなんてものではなく、後の展開まで考えて総合的に撤退が判断される。
例えば死力を尽くして隣国に勝利した直後、その国を挟んでいた勢力と国境が接して問答無用に攻め込まれる事も否定できず、疲弊しきった状況では対応できない。
そうでなくても外交は軍事力を背景に行われるため、大損害を出せば優位となった周辺国家からの圧力が増加するし、戦争被害の多さを声高に批判する輩が反乱や革命を唱えれば内部に火種を抱え込んでしまう。
なお、今回の相手は侵攻側であるためにノースグランツの騎士長が言う通り、事後の展開を踏まえた損耗率を意識し、奪った城塞都市の維持にそこまで固執しない可能性もある。
(まぁ、戦場は生き物なのでどう転ぶかは分からないが……)
あくまでも机上の空論に過ぎないと割り切ったところで、クリストファの副官を務めるジグルという騎士が部隊再編を終えて戻って来た。
「クリストファ様、攻城戦の準備が整いました。先陣はゼルライト殿の進言により、彼が率いる大隊を中心に配置しましたが…… 宜しかったでしょうか?」
「構わないよ、戦うための理由が他よりも強いだろうからね」
軽く頷いて許可を出したクリストファが改めて俺に向き直り、確認するような視線を投げてくる。
「…… スカーレット、出られるか」
「はい、おじ様」
「イチロー、あたしは?」
「俺や魔人兵と一緒にミザリア領兵の第二陣に混ざってくれ」
同族の下に戻るスカーレットを見送り、俺もヴィレダたち人狼突撃兵と共にグレイド麾下の魔人兵と合流して攻城戦に備え、暫しの時を待つ。
やがてクリストファの号令が魔法で起こした風に乗って全軍へ響き渡り、気勢を上げたミザリア領兵の第一陣が盾を構えながら、リベルディア占領下の城塞都市北門へ迫っていく。
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