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吸血姫、空戦を経験する

唐突に執務室へと現れた転移ゲートから従者を従え、歩み出て来た彼の王をゲオルグ・ベイグラッドが書面を書く手を止めて出迎える。


「予想通りといったところでしょうか?」

「あぁ、そして、ゲオルグ殿の予想の通りでもある」


リベルディア騎士国がドラグーン部隊を投入し、電撃的にミザリア領の中核都市ブレアードを空襲する可能性が高いという意見は事前に一致している。だからこそ、ゲオルグ殿も都市と居城を護る魔導装置に俺とスカーレットの登録を許した訳だ。


軽く手を伸ばして部屋の壁に掛けてある姿見へと遠見の魔法を施し、夜闇と雲間に紛れて大空を飛ぶ、背に軽装の騎士を乗せた飛竜の群れを映し出す。


「…… 方角は?」

「都市の南西側なのです、市民を避難させるが良いのですぅ!!」


何故か長い笹穂耳をピコピコさせながら胸を張るエルミアがゲオルグ殿に答えると、彼はすぐさま執務机に備え付けられたベルで侍従を呼び出し、南西地区の住民を別区画へ避難させるように衛兵隊長宛の命令を託した。


(まぁ、奴らは陶器詰めの火薬玉を持っているからな……)


人的被害の可能性を考えれば賢明な判断だと考えたところで、対面のゲオルグ殿が席を立つ。


「確か此処も優先度の高い攻撃目標でしたな…… 念のため避難させて貰います」


「分かった、後は引き受けよう」

「…… (コク)」


窓越しに月明かりを眺めているベルベアの隣に並び、読みかけの書面やら筆記具などを抱えてゲオルグ殿が退室するのを見送ってから、俺も窓の外へと視線を転じて暫しの思索に耽る。


一方その頃、ベイグラッドの居城から南西に数kmの地点、前触れなく進行方向の上空に現れた巨大な転移門を警戒し、低速で都市へと接近してきたドラグーン部隊とスカーレット麾下の吸血飛兵隊が交戦を始めていた。


「落ちろやッ、吸血鬼め!!」

「ッ、おぉおおおおッ!?」


強風の中でも使用できる回転式ゼンマイと火打石を用いたホイールロック式のマスケット銃が火を噴き、狙っていた相手の斜め隣りにいた吸血鬼の翼を射抜く。


「…… 命中精度が悪すぎるのも考え物ですわね、弾道が予測できませんわ」


靄状の魔力翼に被弾してバランスを失い、錐揉みながら墜落していく眷属を一瞥し、スカーレットは溜め息を吐く。不本意な事に予測不能な銃撃や突撃で数名の同胞が負傷しており、彼女の下にも流れ弾と竜騎兵が飛んでくる。


「もらったぁああぁッ!!」

「無駄な事を……」


小さく呟きつつも飛来してきた銃弾を魔力で形成した不可視の小楯でいなし、片翼だけを羽ばたかせて右下方へとバレルロールしながら、十文字槍を構えて吶喊してくる敵騎兵をひらりと回避する。


そのすれ違いざまに両手で構えたブローニ〇グ社製のBT98の銃身を向けて引き金を引き、タンッという乾いた音と共に散弾を打ち込むのも忘れない。


「ギャァアァアァアァッ、ァアァアァ!!」

「何だとッ、うおぉおお!?」


発射音よりも大きい肉が弾ける音を鳴らして飛竜の脇腹が吹き飛び、背に載せた竜騎士諸共に墜落していくのを一瞥し、スカーレットは後方に身を退きながらBT98の銃身と機構の間を折って排莢を済ませ、細い腰に巻いた弾帯に手を伸ばして次弾を掴む。


「はッ、悠長に弾込めしてんじゃねぇよッ!!」

「ッ、距離さえ詰めれば!」


装弾の隙を狙った二騎のドラグーンがマスケット銃を構えて突撃を敢行し、一瞬だけ彼女の反応が遅れてしまうものの、斜め上空から急降下してきた吸血鬼が銃撃のために手綱から両手を離した騎士を蹴り飛ばす。


「貴様ら如きが我らの姫に近づこうなどッ!!」

「うぁああぁ……ぁあぁァアァ……」


叫び声を響かせて落下した竜騎士に代わり、飛竜の背に着地した彼は後続のもう一騎にBT98の銃身を向けて引き金を引くが、同時に相手方も引き金を引いていた。


「ぐぶッ、うあぁッ、あぅ……」

「ッ、不覚を取ったか……げはッ……」


乾いた二つの銃声が鳴り響いた後、乗騎諸共に散弾を浴びた竜騎兵が血を撒き散らしながら堕ちていき、深手を負った吸血鬼も滞空状態を維持できず、負傷した脇腹を押さえたまま重力に引かれていく。


「もうッ、余り無茶をされても嬉しくありませんわよ」

「も、申し訳ッ、ぐぁ、御座いま、せッ…」


吐血する同胞を支えて地上に退避し、不得手な治癒魔法でその命を繋ぎ止める。


暫しの後、彼の容態が安定したところで改めて空の戦況を窺うと、命中率の高い散弾や小回りが利く吸血鬼達の機動に振り回された竜騎兵隊は劣勢に追い込まれており、既に空戦の大勢は決しつつあった。


「バルザックッ、もう何人も殺られた、先陣を切った小隊は半数を割ってるぞ!」


「くッ、退けというのか! 吸血鬼共を突破した連中はどうするんだッ!!」


飛竜が吸血鬼を凌駕する速度を活かし、前線を突破した竜騎兵は数騎いたが…… 標的の中核都市から爆発による閃光は起こらず、鳴り響くはずの轟音も聞こえてこない。


「もう堕とされてるんだよッ、明らかに読まれてやがった」

「指揮権はお前にある早く決めてくれッ!」


「………………」


遠征中の竜騎兵隊を指揮する竜騎士長バルザックが無言で腰元の短銃を手に取り、宙空に向けて撤退の発光信号弾を放ちながら大声で叫ぶ。


「ッ、撤退だ!飛竜の速度なら追いつかれない、逃げるぞッ」

「「「了解ッ!!」」」


蒼い閃光を撒き散らす信号弾に敵味方の注目が集まった隙を突き、素早く旋回した竜騎兵達が一目散に逃げるのを見送り、追撃しても無駄であると知っている吸血鬼達は地上に降りていく。


そこには四十騎近い竜騎兵の亡骸が転がり、その中に数名の吸血鬼達の姿も混じっていた。


「ッ、さすがに犠牲なしとはいきませんね」


思わず出た間抜けな言葉にスカーレットは苦笑いを浮かべてしまう。戦えば敵味方共に犠牲は避けられないのは当然だからだ。


「それでも…… 今は私達の未来の為に」


そもそも生きる事は戦いであり、ノースグランツ領を中心とした魔族達の生存圏を盤石なものにする事は彼女達の至上命題だ。


暫しの瞑目の後、スカーレットは同胞達に事後処理を任せて背後に見える中核都市ブレアードへと踵を返した。

”皆様に楽しく読んでもらえる物語” を目指して日々精進です!

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