青銅娘、Phantom9を扱う
現状の俺達は最初の目的地に向けて、ミザリア領を縦断する一級河川スケアルーデ沿いにガドラス平野を南下している。
当然ながら、イルゼ嬢から借りた小荷駄を引く馬達は水をがぶ飲みするし、蒸気機関は水が無ければ駆動しない。なにより300余名の同胞達の喉を潤す必要もあるので、どうしても行軍経路は川沿いに絞られてしまう。
故にその要所へ砦や都市が築かれる訳で、遠くに見える中核都市ブレア―ドもスケアルーデ川を内部に引き込んでいると聞く。
「イチロー、さっきから城や教会の尖塔は見えているけど遠いね……」
「…… (コクッ)」
白銀と黒曜の人狼娘たちが隊列の前方から下がってきて、歩兵随伴速度でゆるりと進む四輪駆動の蒸気式トラックに並ぶと、うたた寝するスカーレットに肩を貸していた俺に話しかける。
「もう後、一刻程度の距離だと思うが……」
全高40m程とイルゼ嬢の言っていた白夜教のセレスティナ聖堂尖塔は遮蔽物の無い平野からならば23~24 km程離れていても視認可能で、僅かに視界へと捉えてからの道程がまた長い。
「うぅ~、お腹空いた、早く着かないかなぁ」
「くぅ…… (早くご飯食……)」
(あぁ、歩き疲れたとかでは無くてそっちなのか……)
辺りは夕暮れが迫り、確かに野営と夕食の支度を始める頃合いだな……
本来ならばもう都市に着いてもおかしくないはずだが、この惑星の地図は縮尺精度が低いため、近い様に描かれていても実際は結構な距離があったりする。
ノースグランツ領では星の使徒の信者を中心に地図を作り直す事業が行われており、青銅のエルフ達の測量技師がそのアドバイザーを務めている最中だ。
その製図事業に資金援助を申し出たイルゼ嬢に対して、都市エベルの中央区レティア聖堂のミサで信者達が “第六使徒様、万歳” や “星辰の導きだ” などのシュプレヒコールを巻き起こし、彼女の頬を引き攣らせていたのは記憶に新しい。
暫し、出立前の光景を思い出して忍び笑いをしていると服の袖がちょいちょいと引っ張られたので、視線を斜め前に座るエルミアに向ける。
「魔王様~、偵察と試験を兼ねて “Phantom9” を使いましょう!きっと新たな世界がまっているのですぅ!!」
何やら目をキラキラさせて高倍率望遠カメラ搭載の空撮用ドローンを大事そうに抱かえていた。勿論、地球から最近取り寄せた逸品であり、コントローラーには専用の小型ディスプレイが装着されている。
「構わんが、墜落させるなよ? 1台しか無いし、オプション込みで30万したんだからな? かつての俺の一ヶ月分の手取り相当だ……」
「大丈夫なのですッ、蒸気バイクや蒸気自動車で磨いた私の腕を見せてやるのです!!」
因みにバッテリー充電は持ってきた小型の魔導式の蒸気発電機を使えば問題ないが、そもそも素人が上手く扱える物なのか……
そんな心配を他所に搭載された4枚羽が風切り音を鳴らし始め、置かれた荷台の上からPhantom9が浮揚していく。
「んっ、うぅ~」
忙しなく回るプロペラの音に反応して、うたた寝したまま身じろぎするスカーレットの耳を片手で塞いでやり、空に上がっていく黒いドローンを見送る。
「ふわぁ、ほ、本当に飛んだのですッ!機械がですよぅ!!」
興奮しながらも、事前に翻訳済みの説明書を熟読していたエルミアは器用にそれを操って旋回させ、上空から望遠カメラでガドラス平野の様子を捉え、視線をコントローラーの専用ディスプレイに落とす。
「どうだ?何か気に掛かるモノはあるか?」
「ん~、東側で馬車が野盗に襲われているくらいで特にないですぅ♪」
さも些細な事の様にさらりと物騒な事を……
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