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44 おっさん契約先が増える

 

「お~い、おっさん、『冒険者タイムズ』読む?」



 とある休日の朝、俺が食堂に降りてくるとユリアがそう声を掛けてきた。


『週刊冒険者タイムズ』は、冒険者ギルドが週に1回発行している、この街周辺の冒険者界隈の情報を取り扱っている新聞だ。


 どのパーティーがどんな功績を上げたとか、新しいダンジョンが発見されたなどのニュースの他に、冒険者絡みの事件・事故についても取り扱われている。


「なになに、んっ?」


 俺の目に飛び込んできたのは『Sランククラン『鋼の戦線』所属のダニー氏、入院』の記事だった。


 記事によると、ダニーが酒場からの帰り、何者かに襲われ大怪我を負ったとのことだ。


 ダニー自身、ひどく酔っていて犯人の顔を確認できておらず目撃者もいないという。


「なあなあ、おっさん。こいつおっさんの知り合い?」


 ユリアが興味深そうに聞いてくる。


「ああ、まあ、同じクランにいたわけだし当然知ってるさ」


「ふ~ん、じゃあ、心配?」


「いや、それはないな。こいつは今のクランマスターの子分で、俺に対してはいい顔しなかったんだ。たびたび嫌味を言われてたし正直清々するな」


「そっか。まあ、おっさんに嫌われるような奴なら、ろくでもない奴だな」


 俺は冒険者タイムズを読み終えると適当にその辺りに置いておいた。





「おーい、トミーいるかー?」


 玄関からケインが俺を呼ぶ声がした。


 俺はその声に応えて玄関に顔を出した。


「おう、いたか」


「ケイン、何だ? 報告書はこの間作ったばかりだよな?」


 ケインの報告書は1週間に1度出せばいいのでしばらく俺に用はないはずだ。


「いや、俺のじゃない」


 そう言ってケインが指さしたのはケインの後ろに隠れるようにいた俺の古巣の仲間だったヴィクトールだ。


「おっ、久しぶりだな。元気だったか?」


「ああ、まあな」


 ヴィクトールは俺の言葉に陰のある笑みを浮かべた。





「で、結局ケインと同じようにヴィクトールも報告書か。でもいいのか? ヴィクトールはまだ『鋼の戦線』所属だろ? 俺がガルムに嫌われているのは知ってるよな?」


「いや、それは問題ない。そもそもそれはこっちの話だしトミーには迷惑掛けない」


「そうか。それなら俺はいいが。じゃあ、条件についての話をしようか。それでまとまれば契約書を作ろう」


 そんなこんなで取り決めた内容は基本的にケインのときとだいたい同じだ。


 ヴィクトールもケインからあらかた話を聞いていたらしく、条件についてはすんなりと決まった。


 ただ、ケインのときと違って、作成する書類は報告書だけなので費用についてはその分安くなっている。


 俺はヴィクトールとの間で業務請負契約書を作成すると、ふと気になったことを尋ねた。


「そういえばダニーが入院したらしいな。何か知ってるか?」


「いや、詳しくは知らないな。まあ、そのせいで俺も報告書をトミーに頼まざるを得なくなったんだ。いい迷惑だよ」


 ヴィクトールは困ったような表情を浮かべたが瞬間的に笑みを浮かべたようにも見えた。


 多分それは俺の見間違いだろう。


 どうやら『鋼の戦線』では、俺が退職してから報告書はダニーが中心になって作っていたようだが、ダニーが入院してガルムはどうするつもりだろう。


 まあ、俺が心配することではないか。


 この後、俺はヴィクトールから至急修正して提出を求められているという報告書を作成することになった。


 ヴィクトールパーティーの報告書は『鋼の戦線』にいるときは俺が作っていたからな。


 ヴィクトールとちょっと話をして特に問題なくさくっと作った。


 それにしてもうっかり去年受けたクエストの報告書を出すとか俺の古巣はいったい何をしてるんだ?


 こうして俺の契約先が1つ増えることになった。

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新米錬金術師は辺境の村でスローライフを送りたい
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