38 おっさん業務を請け負う
今後のことがひとまず決まり、まず俺はアンジェ、というか『華乙女団』との雇用契約書を書き換えて修正契約を締結した。
これで俺は『華乙女団』に雇用されながらケインからの依頼を受けることが可能になる。
アンジェとの手続きを終えると今度は早速ケインとの間で契約書を交わすことにした。
俺が雇用されているのはあくまでも『華乙女団』なので、ケインとの間では雇用契約ではなく業務請負契約という形にした。
違いは後者の場合、時間及び身分的な拘束はなく、あくまでも請け負った仕事、要は依頼を完成させればいいという契約だ。
事務という職種ではあるが依頼を遂行して報酬をもらうということだがらやっていることは冒険者と同じようなものだ。
世の中には、実質的には時間も業務のやり方も拘束しておきながら形だけ請負というケースもある。
これは王国法で定める労働契約上の規制を免れ安い報酬しか支払わないという偽装請負と呼ばれる形態だ。
しかし、俺とケインとの間の契約は正真正銘の請負契約だ。
このくらいのものであれば簡単に契約書を作ることができるのでケインの目の前で速記スキルを使ってぱぱっと契約書を書き上げる。
さきほど確認した特約をきちんと明記してケインとの間で業務請負契約を締結した。
「さて、早速仕事で悪い。さっきも話したとおり、俺、というか俺たちのパーティーは『鋼の戦線』を離脱して独立することになった。そのための手続をしてくれ」
恐らく啖呵を切って『鋼の戦線』を出て行ったはいいが、事務的なことは何もしていないのだろう。
「確認だが、『鋼の戦線』を離脱したのはケイン個人だけじゃなくてお前のパーティーメンバーも含めてだよな?」
「ああ、みんなは俺についていくと言ってくれている」
「ということは、ケインのパーティーの構成自体に変動はないということだな。それならパーティーのクラン離脱届で足りるはずだ。それなら直ぐに作れる」
「そうか! そいつは助かる」
「ああ、そういえばパーティーの名前は決めなくていいのか? クランにいるときは『ケインパーティー』で済んだが一本でやっていくならそれ相応の名前にした方がいいんじゃないか?」
「そうだな。まあ、そこはみんなと相談するさ。今すぐどうこうしなくていい」
「わかった。パーティー名を変更するときは言ってくれ。こっちで手続きをする」
そういう話に落ち着き今は暫定的に『ケインパーティー(仮)』という状態だ。
まあ、パーティー名がどうかは実際のところ冒険者として単に活動するだけなら実は大きな問題ではない。
ただ、冒険者タイムズにパーティー名が載ることがあるので、あまり自分たちの身の丈に合わないパーティー名は止めた方がいい。
パーティー名は変更できるから、例えば最初から『ドラゴンスレイヤーズ』とかは絶対にお勧めしない。
以前見た冒険者タイムズの記事で『ドラゴンスレイヤーズ』という名のDランクパーティがゴブリンの集団にボコボコにされて大怪我を負ったというものがあって周りから大爆笑されていた。
あれは哀れだったな……。
結局そのパーティーはパーティー名を変えて拠点を遠くの街に移してしまった。
この出来事があってから冒険者ギルドではパーティー名をつける際、未だなしえていない実績があるかのように誤解を招く名称を禁止するという規則ができた。
実際に竜殺しをしたのであればその名前でもいいが、そうでもないのにそうした実績があるかのような名前は依頼者の誤解を招き、ひいては冒険者全体の信用を害するという説明だ。
ただ真実はさっきの笑い話が発端で、次の犠牲者が出ないようにというギルドの親心だ。
俺はケインに冒険者ギルドに提出する『クラン離脱届』を作って渡した。
「よし、さっそく報告書とこいつをギルドに出してくるぜ」
ケインはそう言い残すと、喜び勇んでパーティーハウスを飛び出していった。




