二十八話:いつもの男子を気になり始めたキッカケを思い返してみた_01
週明けの月曜日、期末テスト期間――。
教室でテストの問題を解きながら、私……二宮姫子は、数ヶ月前にお姉ちゃんたちに言われたことを、ふと思い出した。
「そんなに気になるなら裏アカ作って、気持ちの整理がてら呟いたら?」
「あっ、私もそれ思ってたー。可愛い妹とはいえ、そう何度も何度もヨッシーって男の子の話をされても、もう『押しまくれ』としかアドバイスできないよー」
お姉ちゃんたちにそう言われて、ヨッシーのことを呟く裏アカを作ったんだ。
私の右隣の席で、書いては消しを繰り返しながらテストを解いているヨッシーを少しだけチラリと見て、自分も解答を再開する。
(いつの間にヨッシーと、たくさんお喋りする仲になったんだっけ?)
初めてヨッシーに声を掛けたのは、確か入学直後、自己紹介の場だった。
男子の自己紹介が全て終わってから、割とすぐに私の番となった。
「同じ中学の人は居ないよね、全員初めまして~。私は二宮姫子! えっと、趣味はお喋り! 皆にどんどん喋りかけるから宜しく!」
ただ自己紹介するのは自分の性ではなかったし、全員に問いかけてみる。
「誰か質問ない?」
クラスメイトからの視線を一身に浴びながら、教室を見回してみると、この中で一番人見知りそうで、自分からは声を掛けてくれなさそうな男子と目が合った。
これも何かの縁かもしれないと思って、私を警戒してるのかなと感じるくらい、おどおどした様子の彼に声を掛けてみた。
「さっき読書が趣味って自己紹介してた吉屋くん! どうぞ!」
「え? お、俺……? 質問と言われても……お喋りが好きな理由とか?」
失礼な見方だけど、他人の自己紹介は聞き流していそうだった彼が、自己紹介の内容を覚えてくれてたのが嬉しくて、ここから少し声が上擦った気がする。
「良い質問だね吉屋くん! なんでお喋りが好きかと言うと、知らない人や物事を知ることが出来るからです! もちろん単純に、お喋りという行為自体も好き!」
「そ、そうか……。羨ましい限りだ」
どこか諦念にも似た寂しげな瞳をしていた彼の顔は、今でも鮮明に思い出せる。
自己紹介で言った通り、それから私は毎日クラスメイト全員に声を掛けた。
お喋り好きな性格だから、どんな人と話すのも楽しかったけど「私が踏み込んで良さそうなライン」も、だいたい分かるようになってくる。
この感覚は今まで間違えたことはほぼ無いので、必然的に、長時間話しかけても問題なさそうな相手は限られていった。
意外だったのはクラスで一番人見知りそうだと第一印象で感じていた彼が、私のお喋りを一番楽しそうに聴いてくれる人になっていたことだった。
私の姉たちも後に「裏アカで呟けば?」と言いたくなるほど、とにかく私は話をすることが好きなのだけど、ハイテンションで悪戯っぽいところは、正直自分でも面倒臭い類の性格かもしれないと思う。
だけど彼は、私のことを面倒臭いと思っているような素振りは見せなかった。
誰にも関心の無さそうな彼が、いつも読んでいる小説は『ライトノベル』の中の『なろう系』と呼ばれる巨大ジャンルということを知る。
元々自分の知らない世界を覗いてみるのが好きな性分も相まって、すぐ自分からネット検索して、彼が好きそうな分野の知識を増やしたり色々してみた。
この心境に至るまで、さして時間は掛からなかったはず。彼のことをヨッシーとあだ名で呼んでみたり、最近では彼の隣の席を確保するようにまでなっている。
先日『裏アカのことバレてた?』と感じる出来事もあったけど、あれだけ好きだ好きだ好きだよ~! と暴露してる呟きを見て、さすがに無反応は貫けないはず。
実際のところ、異性として少しは手応えを感じたことも、私には何度かあった。
――でも残念ながらヨッシーは終業式が終わった後に、私以外の女子に告白するだろうし、私は一友人として直前に勇気づけてほしいと言われちゃった訳だ。
引っ越す前に少しでもヨッシーとお近づきになっておきたかったから、こうして隣の席になるように立候補したりとか、他にも色々頑張ったんだけどな~。
「あと五分ほどでチャイムが鳴るぞー。各自、答えを見直しておくように」
既に解答を書き込み終わっていた私は、先生の言葉で答案を見直す。
(……あっ。ここの問題、勘違いしてるし! 危ない危ない。書き直さなきゃ!)
慌てて消しゴムで答案を消して、正しいであろう回答を書き込んだ。
チャイムが鳴るギリギリで訂正が間に合った私は、後ろの席の竹内さんから回ってきた答案用紙を、自分の分と合わせて先生に提出する。
今の私の誤答みたいに、ヨッシーの告白も無かったことにならないかな。
ヨッシーが読んでいるなろう作品なら死に戻りとか出来るのにね、などと叶いもしない想像を始めた私に、それこそ予言チート的な考えが思い浮かんでしまった。
ヨッシーの告白直前――勇気づけたりなんてしない。私の方から告白する。
相手の女子には悪いけれど、そうすれば私は絶対に先手を打てる。
玉砕覚悟だけど、本当の『最悪の事態』は、何もしないまま終わることなんだ。
だから私は……ヨッシーが告白するより前に、彼に告白しようと決意した。
この続きは、遅くても明日のお昼には投稿できると思います。
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