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二十二話:放課後に陽キャ美少女とラーメン屋ってデートなのだろうか_02

 店長は冷水が入ったコップを配りながら、二宮さんにも訳知り顔で呟く。


「嬢ちゃんは自分から告白したいけど、玉砕するのが怖いって顔をしている……」

「わ、私は、別に……!」


 店長の視線に気圧されているのか、二宮さんはいつものコミュ力も発揮できず、赤面し始めてしまった。


 強面の店長は、二宮さんにオーダーを尋ねる。


「そこら辺を深く聞くのも無粋か……。お好みは?」

「えーっと、身近な人で例えるとですけど、隣のヨッ……吉屋くんみたいな?」


「悪いな嬢ちゃん……。そっちの好みじゃなくて、ラーメンのお好みだ……」

「あぁーっ! それならこの前と同じで、ネギ多め背脂少なめで!」


「はいよ……。単品並ネギ増し脂少、っと……」


 他人の人相をあれこれ言うのは失礼かもしれないが、店長は怖い組織の偉い人ですか? と思えてしまうほど強面なので、二宮さんといえど緊張しているのかもしれない。


 男友達は俺しかいないとはいえ、咄嗟に俺の名前しか挙げられないくらいだ。


「さてと、隣のキミは初来店だ……。メニュー表を見てお好みをどうぞ……」

「悩ましいなあ。ラーメン大盛り、ネギは多め、味は少し濃い目で」

「はいよ……。単品大ネギ増し味少濃、っと……」


 店長はメモを取るでもなく暗唱して、厨房へと戻っていった。


 ネギの量や味の濃さまで細かくオーダーできるのに、『ニンニクの量だけは変更不可。悪しからず』と書かれた貼紙を見つけてしまい、くすりと笑ってしまった。


 二宮さんは先程からそわそわと、こちらの視線を伺っている。


「さっきの二宮さんのお好み発言なら、気にしなくても大丈夫だよ」

「いやいや、あれは事実ですし! 普段からそういう発言してますし!」


 引っ込みがつかなくなった子供みたいに、頬を赤らめながら弁解する二宮さんに、俺はまたくすりと笑みを零してしまった。


「なんか最近のヨッシー……。手強いなぁ~……」

「こうやって何か一緒に食べに行ったりとかさ、貴重だなーって感じてた」


「おや? そんな恋人に向けるような、お言葉を頂けるとは」

「まあ、二宮さんの恋人になれる人は正直羨ましいなーとは思うけど」


「……っ」


 マシンガントークが得意の二宮さんが、何故か悶えながら沈黙してしまった。


 まさかコミュ障って人に伝染したりしないよな、などと莫迦なことが脳裏に浮かび始めた頃に、店長がニンニクラーメンを持ってきた。


「おっと嬢ちゃん、気を付けな……」

「さすが店長、人を見抜く目だ~! ヨッシーは不意打ち気味に、切れ味鋭い発言をすることがあるからね!」


「ラーメンは器まで熱いから気を付けなって意味だ……」

「……えっ」


 確かに目の前に置かれたラーメンは、グツグツとスープまで煮立っていて、二宮さんが顔を赤くして頬に汗を流すのも分かるレベルで熱々だ。


 ラーメンに詳しくないが、煮立つほど熱して提供するのは中々珍しいはずだ。

 もう少し空調を効かせてほしいが、暑い中食べるラーメンというのも乙である。


「そろそろ食べようか二宮さん。めちゃくちゃ美味しそうだなー」

「え、あ、うん! ここのラーメンは本当に美味しいよ! いただきます!」


 ラーメンを食べる俺たち高校生二人を見て、強面の店長がぽつりと小声で呟く。


「久しぶりに嫁さんとイチャつきたくなってきたな……」


 どうやら奥さんがいるらしく、少しだけ優しげな表情を浮かべた店長に、俺は「気の強そうな男性ほど甘えたがり」という迷信は、割と正しいのではと思い直した。


 汗だくになりながらラーメンを完食した二宮さんが、面白おかしそうに笑う。


「今の私、すごく女子力ゼロだ~w お口がもうニンニク一色だし!」

「しまったな、ミント味のガムとかコンビニで買えばよかったね」


 二宮さんと一緒に会計へ行ってみると、店長が気の利いたオマケをくれた。


「二人ともニンニク臭は困るだろう、レモン味の口臭ケア用タブレットだ……」

「いやいや! ま、まだ、そういうことをする仲ではなくてですね!」


「これは帰り道の電車やバスで、他人様にニンニク臭をさせない為の代物だ……」

「あぁーっ!? そういえば、お兄と前来た時もコレ貰ってたーっ!!」


 普段と違う慌てぶりの二宮さんに、俺は『強面の人が、実はちょっぴり苦手』と彼女の弱点(?)を、記憶に留めておくことにした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 前回の店長、お兄には物静かに接客したのに、

 今日は違っててアタフタしちゃった!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「正直俺も、当たらずと(いえど)も遠からずな、店長の発言にはビクッとしたな」

 二宮さんへの発言は的外れだった気がするが、それでも二宮さんの反応は、俺に気でもあるんじゃないかと、それこそ的外れな誤解をしたくなりそうになった。

二十二話、終了です。

次話は『伸ばしてた髪を切る前に、好きな髪型にしてあげよう~』回です。

色々な髪型を披露するヒロインが褒められたり照れたり嫉妬したりな話の予定。

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