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二十一話:陽キャ美少女と恋愛ドラマの真似事をしてみることになった_01

「ヨッシーに委員長……。重大ニュースがあります!」


 人気のない昼休みの校舎裏で、二宮さんが仁王立ちして、そう言い放った。


 ベンチに座るように指示された俺と委員長の脳裏に「引越」の文字がちらつく。

 心なしか、集まってきた野良猫たちの様子も落ち着かない。


 二宮さんは最近伸ばし中という亜麻色セミロングの髪を大袈裟にかきあげた。


「なんと! 現役モデルのお姉ちゃんたちが、恋愛ドラマに出演するんだって!」

「「……へぇ」」


 てっきり本人の口から引越しについて聞けると思った俺と委員長は、何とも気の抜けた力の入ってない声を漏らす。

 校舎裏の野良猫たちも、トテテッと各自の縄張りへと解散していった。


 二宮さんは脱力し切った俺たちの反応を見ても、なお元気一杯に語り出す。


「私みたいな地方紙の読者モデルとは格が違ったね! 双子姉妹のチョイ役らしいけど、それでも羨ましいな~。私も恋愛ドラマに出演してみたいかも!」


「恋愛ドラマか。俳優さんも大変だよな。キスシーンとか必須だもんなあ」

「ハッ! そうだねヨッシー! 主役級ならそういうシーンは絶対あるよね~!」


 雑談に移り始めた俺と二宮さんを余所目に、委員長はスマホを取り出した。


 なろう作品『所持金チート』の執筆でもするのかなと思いきや、俺と二宮さんにスマホを向けて、動画撮影モードを起動させたらしい。


「二宮さんのルックスなら女優としても合格点だろうけどね、演技力がないとダメじゃないかしら? 試しに何か演技してみてちょうだい」

「おおっと委員長、めちゃくちゃ大雑把な演技指示だね~」


「お姉さんたちは恋愛ドラマに出演するんでしょ? なら吉屋くんが思わずドキッとしてしまうような演技をしてみて」

「よ~し、分かった! それじゃ委員長、撮影して良いよ!」


 にやにや笑みを浮かべてカメラを向ける委員長に、俺は彼女の悪戯癖……いや、女子全般に言えそうな恋バナ好きな面が姿を現したぞ、と思った。


「ちょっと待って。演劇部にも顔が利く二宮さんと違って、俺は演技なんて生まれてから一度も、練習したことないのだが」

「そこは深く考えずに、ヨッシーも記念撮影だと思って楽しもうよ~」


 ベンチに座る俺の手を引く二宮さんの笑みを見て、それなら悪くないと思えた。

 夏休みに入ったら引っ越してしまうのだから、本当に記念撮影になるだろう。


「じゃあ二人とも、正面に立ってくれるかしら。シャッター音が鳴ったら撮影開始ということでアドリブ演技に任せるわ。ただし恋愛ドラマっぽくすること」

「了解~♪」

「え……今更ながら俺って、かなり難易度高いことに挑戦しようとしてる?」

「三、二、一……はいっ」


 俺の不安の声は流され、問答無用で委員長はスマホで撮影を始めた。

 正面に立っている陽キャ美少女は、胸に手を当てながら、俺に語りかける。


「衛司くん、大事な話って……何かな?」


 いつものヨッシー呼びではなく、下の名前で呼ばれるのは少し気恥ずかしいな。

 これは演技の一環なのだから、俺もいつもの呼び方とは変えてみよう。


「あ、ああ。姫子さんにどうしても聞いておきたいことがあって」


 俺が下の名前で呼ぶと、二宮さんは胸に手を当てたまま、頬を紅潮させた。


「演技中とはいえ下の名前で呼ばれて、不覚にもドキッとしちゃったのですが!」

「……えっと、実は俺も名前を呼ばれた時に緊張したから、お互い様だね」


 助け舟を求めて委員長を見るも、撮影を続けながら、にまにま微笑むばかりだ。

主人公を見殺しに……ではなく見守る気概に溢れている委員長です。

第三章に入りましても変わらず本作をお読み下さり、ありがとうございます!

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