十九話目:陽キャ美少女は当然、他のクラスメイトとも交流している件
恐怖の英語教師・鬼怒川先生の授業が終わり、まだ消されてない黒板を眺めていると、友人の友木が俺のもとへとやって来た。
「退屈そうだな、衛司。今日は好きななろう作品の更新日じゃないとか?」
「いや、追いかけてる作品の更新はあったんだが……」
「おっと分かったぜ。それも読み終わり、二宮さんと話すでもなく暇なんだな」
「まあ友木には分かってしまうか。概ねそんな感じだ」
最近は二宮さんのマシンガントークに慣れ切っていたのもあり、こうして一人で過ごす時間には、逆に不慣れになっていたようだ。
とはいえ二宮さんはクラスカースト最上位の陽キャ美少女であり、当然だが他のクラスメイトとの交流も多い為、俺とばかり話している訳ではないのだ。
「衛司がぼっちタイムに違和感を覚えるとは、さすがは二宮さんだぜ。毎日クラス全員に話しかけているのに、全然話題切れしないんだもんな。コミュ力すげえ」
「俺と過ごす時間が伸びていたからか、最近クラスカースト上位の女子グループから休日も遊びに誘われたり、二宮さんは交流で忙しそうな感じだね」
「まあ気を落とすなって。俺も箒野球を生活指導員に禁止されちまったから最近暇でさ。俺とオタトークでもしようぜ。少年漫画沼に沈めてやるさ」
「そういう友木も早くラノベ沼に沈めばいいのに。『再ゼロ』読んでみなよ」
気を落とすも何も、クラスカーストの差から言って、至極当然の状態へと戻りつつあるだけだが、友木の気遣いに感謝してオタトークして時間を潰した。
教室で二宮さんとの交流が減り始めてから、およそ二週間ほどだろうか。
朝の挨拶とすれ違い際での立ち話くらいはまだ続いているが、元々人気者の二宮さんと交流したい人はいくらでもいるので、このままの関係に落ち着くのかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えていたら、陽キャ女子グループとの会話を抜け出してきた二宮さんが、俺の席まで来てくれた。
「やあやあヨッシー、遅れてゴメンね! 今日のログインボーナス♪」
「おー、俺の好きなお菓子のブリッツだ。ありがたいけど、毎日大変じゃない?」
「そうなんですよ大変なんですよ、最近ヨッシー成分が足りてなくてですね~」
二宮さんが至近距離まで顔を近づけて、噂話でもするように囁いてきた。
この陽キャ的距離感にも感慨深さを覚えていたところ、陽キャ女子グループに呼ばれた二宮さんは慌てて会話の輪に戻っていく。
俺が二宮さんの交流の妨げになっていないことを確認して安堵していると、いつもより表情の硬い委員長が話しかけてきた。
「ねえ吉屋くん。最近二宮さんとのお話は足りているかしら」
「多分二宮さん的には足りてないんじゃないかな」
「あら、てっきり足りてる……って答えるとばかり思っていたのだけれど」
予想とは違う回答を俺はしたらしく、黒髪ロング美人の委員長が目を丸くする。
どこか影を感じる表情だったが、その美顔は幾分明るくなり始めた。
「俺と話してばかりより、今の方が二宮さんにとって良いと思うんだ。だって俺と話す時間で、二宮さんならもっと多くの人と交流できるはずなんだ。勿体ないよ」
「吉屋くん……。本当に勿体ないわよ」
「……え?」
再び重たい表情になった委員長の声音が、茶化してなどいないと伝えてくる。
俺の目が節穴でなければ、委員長は俺と二宮さんの両方を心配しているようだ。
「いつも受け身で全て解決すると思わないこと。なんてね」
「委員長……」
普段とは少し違う響きで口癖の「なんてね」を呟いた委員長は、浮かない表情のまま、自分の席へと戻っていった。
軽快なトークで見事に大人数を楽しませている二宮さんを、俺は自分の席から眺めたが、彼女との距離感はどうしていくのが正しいのか、よく分からなくなってしまった。
俺は……出来ることならば、もっと二宮さんと交流をしたかったようだ。
帰宅部の俺は、いつものように帰りのバスに揺られ、自宅の一人部屋に戻った。
委員長から告げられた先程の言葉が、頭の中をついて離れない。
「いつも受け身か……。確かに二宮さんから話しかけられてばかりだったが、俺から話しかけたら、二宮さんの貴重な時間を割くことにならないか?」
クラスカースト下位で、コミュ障の俺なんかの為に、二宮さんの貴重な……。
……あれ? 本当に俺が無価値なら、そもそも俺に話しかけたりしなくないか?
「二宮さんは俺のことも、友人と思ってくれているはず……だよな?」
恐らく数多くいる友人の内の一人だが、それでも友人なのは間違いない。
「俺にとって、二宮さんは雲の上の存在だけど……いや、だからこそ、自分からも近づこうとしなければ、このまま本当に交流が途絶えてしまうよな……」
クラスカーストの差を言い訳にしたまま、何もしないままで、本当に良いのか。
二宮さんは自分を友人だと思ってくれているのに、自分だけ受け身で良いのか?
俺はとても不義理な人間だったのではないか、と自責の念が襲いかかる。
「コミュ障だからって、一人で悩んでいても仕方ないか……。二宮さんにしっかり気持ちを伝えないと……。そうだな……。言葉にするなら――」
――二宮さんの友人として、俺からも話しかけて良いかな。
「いやいやいや……。友人相手に普通はこんなこと言わないだろう。いくら俺がコミュ障だからって、そのくらいはさすがに分かる。分かるが……。でも本心だ」
友人として接してくれる二宮さんに、勝手に自分から無意識に壁を作っていたと気付いてから無性に話がしたくなり、衝動的に二宮さんにRINE通話を掛けた。
通話が繋がるまでの十秒間ほどで気持ちを整えようと思ったが、まさかの一秒足らずでRINE通話が繋がってしまった。
「ああっ……えっと、もしもし二宮さん?」
「もしもし! び、ビックリしたよ~! ヨッシーの方から通話なんて、いつ以来かな? だって、ほら……久しぶりのやり取りだから、ちょっと驚いちゃった!」
何だかいつもとは違う様子の二宮さんに、俺も面喰らいながら話を始める。
「最近さ……学校で二宮さんと話すことが少ないなって思って、その……」
「おお~! ヨッシーもそう思ってくれてたんだ! それでそれで?」
「俺も友人として、自分から二宮さんに話しかけたいと思ってさ……。だから考えなしにRINE通話を掛けてしまったが、よく分からない通話だよなコレ。ごめん……」
「謝る必要ないよ? ヨッシーからのRINE通話、めちゃくちゃ嬉しいし!」
コミュ障歴=年齢の俺が取った行動は、どうやら好意的に受け取られたようだ。
しかし直後に二宮さんから、とんでもない言葉が飛んで来た。
「その調子で学校でも今みたいにヨッシーから話しかけてきてね! 明日中に話しかけてくれないと絶交しちゃうからね~。それじゃあまた明日、プチっとな♪」
「え、二宮さ……マジか、問答無用で通話を切られた。本気ってことか……」
確かに二宮さんと交流を続けたい気持ちに嘘は無いが、校内で自分から話しかけてねと期日指定されるとまでは予想しておらず、しばらく頭が真っ白になってしまった。
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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き
いつもの男子に思い切ったことを言っちゃった!
このまま絶交状態になっちゃう!?
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吉屋衛司との通話終了直後、二宮姫子の自室――。
「ヨッシーが話しかけてくれますように、どうか話しかけてくれますように~!」
姫子はその場の勢いで先程の発言をして、RINE通話を切ってしまったので、さっそく後悔の念に襲われていた。
不安を紛らわせるように、姫子は裏アカに呟きを投稿してベッドに突っ伏した。
十九話目、終了です。次話の二十話目で第二章が完結します。
ほんのりシリアスな場面が終わる二十話の途中まで、今夜中に投稿予定。
二十話目は普段より甘々だと思います。好意に弱い陽キャヒロイン回です。
※計8万文字・120万PV超えました。お読み下さり誠にありがとうございます!




