九話目:図書委員を務めている陽キャ美少女から、共闘を求められる_02
いくら俺が異性として見られてないとはいえ、無防備すぎやしないかと思いつつ窓側に視線をずらしていると、二宮さんから悲しい報告を受けた。
「ヨッシー……。既に『昨日の旅』は全巻、借りられちゃってる……!」
「あらら、短編ラノベは全滅か。それなら他のラノベの一巻目でも大丈夫だよ」
「他の長編ラノベは一~二巻目だけ全部借りられちゃってる! 少数精鋭全滅!」
「仕方ない、撤退だ。さよなら二宮さん、また明日!」
二宮さんとは一時間半も話し込んだことはなく、コミュ力カンストの二宮さんとはいえ、間を持たせる自信のない俺は、逃げ出すべく図書室を退室しようとした。
「ああっ! 敵前逃亡は銃殺刑だよヨッシー!」
すると二宮さんは物騒なことを言いながらスクールバッグに手を突っ込んで何かを掴み、袋状のそれを思いっきり投げつけてきた。
両手で受け止めると柔らかい感触と共に、柔軟剤のような良い匂いがした。
「キモかわいい系のゆるキャラグッズのナップサックだ……。何これ?」
「さあ? 誰も居ないですし、見てもらっても構いませんが~」
「微妙に中身が怖くなる前フリやめて。……まぁ一応、確認だけしようか」
ナップサックの口を緩めて手を突っ込んで引っ張り出してみると、学校指定の女子用の体操着が上下とも出てきた。
「……!? このナップサック、まさか……」
「はい、私の体操服入れですね~」
「うわぁっ! 何てモノ投げつけたんだっ!」
今日の午前中に体育の授業があったことを思い出し、女子が着ていた服を持っているという異常事態に、慌てて体操服を詰めてから二宮さんに投げ返した。
「ちょっと、そんな顔真っ赤にして怒らなくても~。たかが体操服入れですし」
「いや……怒ってはいない……。す……少し照れ臭くなっただけ……」
あっけらかんとした様子の二宮さんを見ていると、俺が過剰反応し過ぎかと思えてきて、照れ隠しに鼻の頭をかいた。
だが今度は、俺の回答を聞いた二宮さんが珍しく狼狽して赤面し始めた。
「少し手が臭くなっただけ!? え? 私の体操服ってそんなに匂うんですかね!?」
一文字だけ聞き間違えてとんでもない意味になっているので、慌てて否定する。
「違う違う! 少し照れ臭くなっただけ。体操服は柔軟剤の香りだったよ」
「良かった、聞き間違えか~。ラブコメ主人公の伝統芸を披露してしまったね」
「えっ、何か言ったか? っていう聞き逃しもこなせれば完璧だな。というのはさておきラノベが借りられないのは痛いな。どう時間を潰すか思いつきそうにない」
胸をなでおろして図書室のカウンター席に腰を下ろした二宮さんは、隣の席に座ってと俺を手招きしてくる。
「今から二宮攻略ルート、図書室イベント開始! 逃げ出せば銃殺刑だよ~」
「攻略ルートから逸れると銃殺とか斬新だね。まあ雑談でもして時間潰そうか」
手招きに誘われて二宮さんの隣に座った俺は、二宮さんと今日の授業の出来事や、最近なろうで見かけた面白い新規作についてなど、色々と取り留めもなく話をする。
「へぇー。俺が教室で何を読んでるか尋ねるまで、ラノベ自体知らなかったんだ」
「うん。話しかけたくなるヨッシーが毎日読んでたから、えっと……気になって」
「それで知ろうとしたのかな。でも俺と話がしたいなんて、理由が分からないな」
「おっと。これは真面目に答えた方が良いのかな? ボケた方が良いのかな?」
二宮さんが海外ドラマの俳優みたく、大袈裟に決め顔をしてくる。
「良い機会だし、真面目な回答でお願い」
「そうですねえ~……。ヨッシーが一番だからですかね?」
「俺が一番?」
クラスで一番コミュ障とかなら一番でも腑に落ちるのだが、などと頭の片隅でぼんやり考えていると、二宮さんが顔を覗き込んできた。




