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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
三章 外に出かけてみよう
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買い出しと商談

 一角族逹と上機嫌に肩を組みながらあけぼの荘に帰ると、イゴールさんと他のドワーフたちはいまだに呑んでいたので付き合わされた。

 

 結局、知らないドワーフ達と朝まで飲み明かすことになり、朝一番にルルさん達に会うと一斉に顔をしかめ鼻を摘まれてしまう。よほど酒臭かったらしく「待っておくから風呂で酒を出して来てくださいっ」と強めに言われてしまった。


 せっかくなので、イゴールさんと一角族の4人で朝風呂をたっぷりと堪能させてもらい、2日目のハンター街へ悠々とした気分で買い出しに向かうことになった。




 お買い物リストにある必要なものを買い込んでいく。

 予想以上に予算に余裕ができたため、俺たちだけでは持てないほどの量だった。


 そこで、一旦小鬼族たちに一角族を一人つけて、倉庫の方へと荷物を運んでもらうことに。

 その際には待機組に差し入れとして、テイクアウトできるような食べ物や飲み物を大量に買い込んで一緒に積んでおいた。退屈しているだろうからね、せめてものお詫びも兼ねてね。



 荷運び組を送り出し、残りのメンツでチャキチャキとお買い物を再開しましょう。



 調味料の《さしすせそ》は最優先。

 薬に包帯、ガーゼなどの医療品、そして消耗品や燃料の類も大量に購入。


 石鹸類は女性陣の強い要望もあり香りのいい物や素材のこだわった物を厳選していく。オーガニックかどうとか言っていたがよく分からないので丸投げした。


 古着に服飾生地、下着類、寒くなってきた時用の防寒具も買い込んでいっている。


 これに関しては、やはり女性陣にはこだわりがあるようで、そこそこ時間を取られてしまっていた。

 中央広場なんか何度ぐるぐる回ったことか……。


 ガンジーやロッコに合わせながらも、非常に楽しそうだったし……まあいいかと、途中で買った焼きたてのパンを頬張りながら、イゴールさんや一角族と一緒に眠い目をこすりながら付き合っている。



 値段をふっかけられては、値切り倒し、ヤイノヤイノ言いながらなんとか買い物をこなしていく。途中で荷運び組も帰ってきて合流したが、すぐに荷車は埋まり始めてしまっていた。



 やっとで一通りのリストを消化できたと思った時には、もう夕方。


 ちなみに、余った予算でお爺ちゃんズやモンテ、そして俺の期待通りお酒類も多めに買い込むができたし、中古DVDも少し仕入れておいた。懐に余裕があるって素晴らしいよね。



 買い込んだ荷物をあけぼの荘に運び込み、1階の酒場兼食堂で今はみんなで一息ついている。

 

 時間もいい頃合いだったので夕食をどうするか話していると、目の前の通りを見覚えのある大きな人影が通っていた。

 その足元にはこれまた見覚えのある小さな人影が2人おり、こちらに向かって手を振っていた。その後ろにいるエルフさんは静かに会釈をしてきている。



 

 海町の一行に誘われて、ハンター街でも一押しの焼肉屋さんに行くことに。


「オーク肉はちょっと……」というと、今回連れて行ってくれるところは少々お高いが、ちゃんとした肉を使ってくれているところのようだ。

 牛肉はいまや高級品となっているため、近隣コミュニティからくる豚や鶏、そして冒険者たちが卸してくれる鹿、猪肉などのマタギ肉を使っているらしい。


「オーク肉も抵抗さえなければ美味しいんですけどね」とはローさんの意見。

 そうは言われても、魔物とは言え人型を食すのはやっぱりね。



 ーーまあ、今度来た時は豚丼にでもトライしてみようかな




 来たのは雑居ビルの1階にある『肉々苑』。

 窓は大きく開け放たれ、どうやら人気店のようでテーブル席は満席だ。


 ローさんが受付のリザード族に名前を告げると、お店の外に作られたオープンテラス席へと案内されていく。どうやら事前に予約しておいてくれたらしい。ゴーダさんのことも考えると店内はちょっと窮屈だろうしね。


 席について待っていると、続々と運ばれてくる肉と野菜、そしてジョッキに入った冷えたビール。

 一睡もしていなかったこともあり、結構へばってはいたのだがこれを見せられれば眠気も吹き飛ぶ。



「「「かんぱーい」」」とジョッキを打ち鳴らし、ゴキュリゴキュリと喉越しを堪能する。


 ジュウジュウと音を立て、香ばしい匂いを放つ肉をキャベツに包み、濃厚なタレに浸して口へと放り込み、白米も一緒に掻き込むとーー

 


 こりゃたまらんです。



 ガツガツとご飯と肉を頬張り、ビールで流し込む。

 そんな俺たちの様子を見て、ローさんもラーさんもニコニコと嬉しそうだ。

 ゴーダさんは大きな猪のもも肉をそのまま手で持ちかじりついていたが、普段の気の優しそうな姿とは違い迫力満点だ。せっかくなのでデジカメで一枚撮らせてもらった。

 ちゃんとピースもしてくれるお茶目な巨人族だ。



 やや食べ過ぎという位まで焼肉を堪能し、膨らんだお腹を摩りつつチビリチビリとモンテと二人でビールを楽しんでいると、悪戯っぽく見上げながら頬杖をつきローさんが話しかけてきた。



「どうも昨夜、裏街通りで乱闘騒ぎがあったようですよ。

 なんでも、そこそこ名の知れた冒険者やアウトロー達が数人がかりでも相手にならず伸されていたとか……

 僕は、その人たちに……とてもとても心当たりがあるんですよねえ?」


 「…………………」

 昨日の今日で、噂ってこんなに早いものなのか?

 それよりもここはアルニア人街だし、正直に言っていいのかどうかで悩んでしまう。



「ははは 大丈夫ですよ、そう警戒なさらなくても。

 喧嘩はハンター街じゃ日常茶飯事ですからね。

 

 レンさん達は特に見た目が目立ちますし、僕は少々ツテもあるので噂を掴むのが早かっただけですよ。

 むしろ、手っ取り早くここで一目置かれるにはいい方法ですし、ハンター街ではそういう評判は大事ですから。

 とにかく、見た感じ大きな怪我がないようで安心しましたよ」


 どうやら、噂を聞きつけて心配してくれたらしいね。


「まあ、それだけじゃなく…………実はレンさん達とは、お仕事のお話もしたかったんですよね」

「?」

「いえね……倉庫で分けてもらった果物や果実酒なんですが、あれって取引することできませんかね? もしよければ、レンさんのお話に出てきた野菜関係も欲しいところなんですけども………」



 ああ、なるほど。


 たしかに、ここハンター街に来て思ったのは、作物関係も含めて食料品が思った以上に割高だったことだ。

 とくに果物関係は、どこかのブランドフルーツかと言う位高いものも多かった。決して出来が良いという訳でもないのにだ。


 店主さんにそれとなく話を聞いてみると、今の世の中では安全圏を作るということが一番コストや人手がかかることであり、果樹園を持てる程のスペースがあって、尚且つ他所に売りに行ける程余裕のある独立コミュニティはいまだに少ないとのこと。


 海町は港に沿って作られた場所らしく、それほど人数が多い訳でもないので、作物関係はほぼハンター街からの買い付けで賄っているらしい。


 そこで、何やら作物関係では豊富そうな俺たちに、塩・魚介類との物々交換で直接交易取引を結んで欲しいとのことだった。




 これは有難い話だ。


 ウチは緑小人が好き勝………頑張ってくれているお陰で果物や作物関係はそれこそ文字通り腐る程ある。そこら中になっている。

 それを塩や魚介類と交換できるというのは、正直言ってかなり美味しい話だった。



 ただ、あまりに安く取引してしまうのも不自然だし、商売相手として舐められるのも困るだろう。

 悪い人たちではないのだし、今後のお付き合いも考えて、ハンター街価格より十分安いけど、怪しくもない程度の値段に落ち着けておきたいね。


 その辺に考えを巡らしていると、イゴールさんが隣の席へジョッキを片手に移動してきた。どうやら、話はしっかりと聞いていたらしい。



「交易関係はイゴールさんにお任せしているので、ちょっと交代しますね。イゴールさん………お互いに()()()()()()お願いします」


「……わかっとるわかっとる、任せい」



 その後は、取引価格や品目で話し合う二人を横目に、エルフのボロさんやラーさんと昨日の観光について話していた。ゴーダさんと小鬼族たちも何やら楽しげに話しているね。岩人兄弟はルルさんが、甲斐甲斐しく面倒を見てくれていた。




 

 ニコニコ顔のローさんを見るに、仕事の話も上手くまとまったようだ。

 イゴールさんに少し確認してみると「ちょいとサービスはしといたが、お互いに悪くは無いと思うぞい」とのことだった。相変わらずのできる男だ。


 次回の取引では海町に出向くということになったらしい。

「食事には期待していてくださいね」との言葉を最後に、海町一行とは肉々苑の前でお別れした。



 ーー2年振りになるお刺身かぁ 想像するだけでもジュルリとなるね




 お腹も膨れ、程よく酔っ払い、上機嫌であけぼの荘へ戻ると、すぐに大浴場を堪能する。


 ガンジーとロッコに風呂上がりのコーヒー牛乳を飲ませたあとは、和室6畳に布団を敷き、男3人揃って即座に寝入ってしまった。


 小学生並みの就寝時間だったが、さすがにこの日はもう限界だった。





=======================





 翌朝、食堂で朝食にトーストとコーヒーを頂き、全員が降りてくるのを待っている。かなり早めに寝たこともあり、バッチリ早起きしてしまった。


 目の前の通りには、朝まで飲み明かしたであろうダークエルフの冒険者が酔いつぶれていたり、女連れで朝帰りをするドワーフがいたり、これから市場に仕事に行くような小人族の商人なんかが行き来している。



 起きたら食堂に集合という位しか決めていなかったため、結局全員が出揃ったのは早朝を少し回った時間帯だった。

 あけぼの荘の掘建小屋に部屋の鍵を返却して、ボチボチと待機組の待つ倉庫へ向かっていくことにしよう。


 門の前には、早速狩りに出かけている獣人グループや都心部から訪れているであろうトラックもいくつか見られる。

 もちろん屯している冒険者崩れの男たちもいたが、俺たちが通りかかると、来た時ほどの不躾な視線は感じなかった。

 むしろ興味津々であったり、あから様に目を伏せていたりと、早くも噂の影響が出はじめているようだ。


 


 2時間ほど、荷車を押しながら歩いて行く。

 途中で一角族が1人消えていった事があったが、すぐに戻って来ていた。

 目で問いかけると「尾けられていたようです」とのこと。大荷物だし、金があると見られたのかもしれないね。 



 

 遠目に倉庫が見えてくると、すぐに待機組の小鬼族たちが迎えに来てくれた。

 

 倉庫内に入ると、それぞれが2日振りに会うランバート達に甘え尽くされている。それらに散々応えてあげたあと、買い込んだ荷をそれぞれに振り分けていった。


 たんまり買い込んだこともあり、全員のバックパックがパンパンになるほどだ。

 大所帯で来たのは正解だったね。


 作業中も正一がちょくちょく構って欲しそうに甘えてくるので、撫でて相手をしてあげている。



 結局準備が整ったのはお昼過ぎ、昼食を軽く倉庫でとってから樹海へと出発することになった。


 荷物は間違いなく増えているが、ランバード達にはさして問題ないようだ。

 それよりも、2日振りに好きに動き回れることもあり、元気いっぱいに駆けている。バテ無いように抑えてあげることの方にみんな苦心しているほどだった。


 行きと違い、ある程度道も覚えている。どこを休憩場所にするかも事前に話し合って決めていたこともあり、帰り道はことの他順調だ。

 たまに、遠目に冒険者を見かけることもあったので大きく迂回することはあったが、ハンター街から離れるほどに一気に少なくなっている。その分、魔物との遭遇率は徐々に上がっていっていたが問題じゃない。



 夕方前には、無事樹海周辺部に戻ってきていた。



 俺たちが近づくと、まず真っ先に青鳶が頭上を飛び交い始め、鳴いている。

 魔物が集い始めてきたので捌いていると、青鳶につられてマグイたちも集まってきている。彼らはいつの間にやら、樹海の門番のような役回りになっているらしいね。



 今度、マグイの長や青鳶達にはお礼を言いに行こう。


 手土産はイノシシの肉でも喜ぶんだろうか? 

 青鳶の巣はかなり高い所にあるから、見つけるのが一手間かもなあ。


 そんなことを考えながら、樹海の中へと戻っていった。





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