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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
三章 外に出かけてみよう
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道中

 ーーうん、やっぱり魔物の数が多い。


 ゴブリンやコボルトはオークは定番として、数は少ないけどオーガものっしのっしとうろついている。


 それに加えてワーグという狼っぽい魔物にマーダーアント達、樹海からも出て行っているのだろうか、俺の嫌いな大きな蜘蛛も見かけている。

 おっ、何か白っぽい大型の狒々みたいな魔物もいた。あいつは大型の癖に動きがすばしっこい厄介なやつだ。

 あそこにはでっかい蛾みたいなのもいる、うぇー色が毒毒しすぎる。近寄りたくないな。

 おや? あそこでコボルト達が担いで持って帰っているのは牛だろうか? 以前テレビで見た事がある毛が生えたバッファローのようだけど。

 ぎ、牛肉っぽいなぁ、いいなぁ、食べたいなあ。

 帰ってきたら、ちょっとこの周囲も一度探索してみよう。


 それにしても、テレビで言ってた通りやっぱり色々増えているんだなー。


 そんな事を考えながらも、ちゃんと仕事はしてますからね。と、誰にともなく心のなかで弁解し、目の前にいたオークを切り飛ばしながら進んでいく。

 俺の横には両サイドにはガンジーやロッコがおり、近寄る魔物は極端に少ない。

 邪魔になるものは基本的に一角族が斬り伏せているし、他でも小鬼族達がお爺ちゃんズのおかげでパワーアップした槍や弓で仕留めている。

 

 まぁ全てをまともに相手にする必要はなく、ランバードの自慢の脚力ですいすい置き去りにしていくことの方が多いんだけどね。


 俺たちの行動に合わせてくれているのか、マグイや青鳶たちも露払いを手伝ってくれていた。

 青鳶に攫われて、はるか上空から地面に叩きつけられるもの、かぎ爪で切り裂かれているもの。

 マグイの群れに集られて絶賛捕食され中だったり、首元を咥えられて人形のように振り回されていたりと力の限り大暴れだ。その姿を見ただけで、逃げる魔物達もいる。


 さらにランバードの跳躍力なら、建物の屋根から屋根へと飛び移り、滑空も使って悠々と周辺部を切り抜けていくことができる。

 この日のためにルルさんには、ランバード乗りになってもらっていた。

 ケイくんやヤーシャに教えられながら、恐る恐る触れ合っていたのを覚えているが、今では自分のパートナーの事が可愛くて仕方ないらしい。

 聞いてみると、最初の出会いが原因で少し苦手意識を持っていたようだ。俺も最初に見たときはビビったしねぇ、自分で生み出したにも関わらずだ。


 ルルさんとその後ろに乗るイゴールさんは、当初自分達が予想していた展開とは違い、スルスルと魔物達を切り抜けていく状況に目を丸くしていた。

 それも始めだけで、今はツーリングを楽しむようにリラックスして笑っている。良かった。



 しばらくは休まず飛ばし気味に走り続けていると、少しづつ魔物との遭遇率は減っていく。

 一時間ほど駆け続けたあとで、見晴らしのいい高台駐車場を見つけた。そこには日除けとベンチがあったので、そこを休憩場所とすることにしよう。そばにはトイレも設置されている。


 「じゃあ、ここで少し休憩しましょうか? 周辺の魔物達の警戒はお願いしますね」

 「「「了解」」」


 広い駐車場では各々がランバードへ水をやったり、果物を食べさせたりしている。俺も正一の事をいたわるように世話していた。

 用意しや水を美味そうに喉を鳴らして飲んでいる。首元の羽毛を梳いてやっていると、時折気持ちよさそうに目を細めている。


 ランバード達の世話が終われば、それぞれが体を休め始めた。

 車座になり談笑したり、乗り捨てられた車の座席で仮眠をとっている者。中には初めて訪れた樹海の外を興味深げに眺めている子もいる。駐車場の端からは緩やかな崖になっており、眼下に町並みを見下ろせるようだ。

 その近くに壊された自動販売機を見つけた。中を覗いてみると意外とたくさんの飲み物が残っていた。

 炭酸やスポーツ飲料、コーヒーと好きなものを皆へと配ってまわった。



 缶コーヒーを片手に空いていたベンチに座り、街を見ていた。


 今ではゴーストタウンとなってしまい、見えている範囲では人の姿が見当たらない。

 その代わりに魔物たちが我が物顔で跋扈しているが、彼らの中でも弱肉強食で狩り、狩られを繰り返しているようだ。

 ワーグに襲われているゴブリンがいれば、マーダーアントと争っているコボルト達もいる。道端では血肉を晒した何かが落ちている。人だったのかもしれないな。

 もはや、その事実に感情が動くことはなかった。


 お気に入りの定位置である膝の中に納まって、乳飲料を無心で飲んでいるモンテを指で撫でながら、眼下の光景を眺めていた。


 不意に頭上から、ドサリドサリと鳥と女性を足したような魔物ハーピーが2体墜落してきた。

 頭から落ちたようでもう動いてはいない、どちらの体にも何本もの矢が突き刺さっているのが見える。


「どうですか? 私たち弓兵の腕前のほどは?」


 軽いドヤ顔を冗談で見せながら、ルルさんが歩いてくる。

 手には先ほど使ったであろう自作の弓を。防具は小鬼族達と同じく、イノシシの革鎧を身につけた軽装だ。

 人型の魔物が血を流し絶命しているという光景の中、輝くような金糸の髪が風に舞っていた。


 笑いながら髪を抑えているその仕草には……正直ドキリとした。


 無骨な装いにも関わらず、均整のとれた肢体は美しい。動作には気品を感じる。

 そして、俺のポカンとした顔を見て浮かべる無邪気な笑顔。


 いろいろな作中でエルフの美しさが語られるが、そのどれもが足りないのだと、その時思った。


 そんな彼女は弓兵隊の指導員も大分板についてきて、生徒達からの信頼も厚いようだ。

 実際に今回一緒に出かけてみて、弓兵隊たちからの慕われ具合がよく伝わってきた。


 動揺を悟られないように、わざと視線をハーピーへと向けて誤魔化す。


 「さすがですねー、よくもまあ、あんな空を動き回っているのに当てられるもんですね。

 ……以前試しに教えてもらったらてんでダメでしたよ、指はマメだらけになるし。」


「ふふふ、そこをあっさりとこなされてしまったら、こちらの立つ瀬がありませんよ。

 定期的に弓練場へ来られたら、私がみっちりとお教えするんですけどね?」

「いやー………それは……ハハ」


 その後も他愛ない話を続け、ロッコやガンジーが炭酸をもっと飲みたそうにしていたので、みんなで自動販売機を漁りにいった。

 モンテのお腹がポッコリなのに、まだ欲しがっていたのでさすがに止めておいた。

 


 移動を再開する。


 定期的にコンパスと地図を確認し、道路にある青看板を目安にアルニアハンターズシティを一路目指し続けていく。

 樹海を離れるほどに魔物達との遭遇もなくなっていっているので、ランバード達の速度もゆっくり目だ。

 長距離の移動というのは初めてだったこともあり、ランバード達の気持ちを感じ取りながら小まめに休憩は重ねている。


 ここまで来て思うことは、やはり樹海の周辺は異様な魔物密度だった。数匹を相手にしていたと思ったら、すぐに次の魔物が飛び込んでくる。まるで空白がなかった。

 群れや集落も近くにはいくつかあるようだけど。集落同士での潰し、潰されが繰り返され、それでも目立ってきたのならマグイや青鳶、大型魔物達の格好の餌場にされていたりとかで、そこまで大きいのはないようだが。


 それでも異常なのは間違いなかった。


 最近、樹海の対応で世論が割れているのも分かる気がする。

 樹海を毒とみるか薬とみるか、どちらにせよ影響が大きすぎて中々決断ができることじゃないのだろう。一度作戦が大失敗していることもあり。

 俺としては、緑小人達に「あんまり都心部の方へ種植えちゃいけないよー」とは言っているので、できれば放置しておいてほしいんだけど……自分家の庭みたいなもんだし。間引きに関しては、また何か対策を考えた方がいいだろうけどね。それは帰ってからにしよう。


 他にも実感したことは、魔物の頑強さ、纏う魔力量だけでも大きく違うということ。

 スコップの刃の通り具合で考えても差があった。

 樹海周辺にいるような魔物を狩る時は、体のバネと遠心力を使って思い切り振り抜かなければ両断はできないし、手応えにもガツンとしたものがある。


 この辺りの魔物達はなんというか……魚肉ソーセージに包丁を入れている位の感覚だった。

 スパンとあっさり刃が通っていくのを感じる。そもそも動きのキレや膂力が全くちがう、同じ種類の魔物だとしてもね。


 あとは、魔素濃度というのも理解できた。

 確かに………これは薄い。


 どんな感じで?と感覚を聞かれると表現に困るんだけど、体に入ってくる魔力量が断然少ない。

 正直いってスカスカ?だった。

 普段みたいに考えなしに魔力をハッスルしていたら、いつかはガス欠起こしてしまうかもしれない。それが回復するまでには相当な日数がかかるだろう。


 多分、他の眷属たちも同じなのかな、みんな自然と纏う魔力をセーブし始めていた。

 アルニア人たちに魔力の抑え方やコントロール方法を、しっかり教え直してもらっていて良かったと思う。樹海に帰ったら、みんなの必須スキルにしなきゃいけないね。


 途中で大型スーパーがあったので入ってみたら、大分閑散とはしていたけどバックヤードの方にはお菓子類やジュース関係がちょっとだけ残されていた。

 あと缶酎ハイも……。

 むふふふふ、今日寝る前のご褒美にしよう、と思っていたらフードの中からモンテもガン見していた。


 今はどこかの商店街を進んでいる。

 アーケードを潜り、時折魔物の声が聞こえるだけのシャッター街を眺めながら、ランバード達を快調に駆けさせている。

 地図を見る限り、アルニアハンターズシティまでもうそろそろかな? と思い始めたところで誰かの叫んでいる声が聞こえてきた。

 魔物の吠え声も聞こえてきており、道路の先へと駆けつけてみると、ここらでは見なかったオーガの背中が目に飛び込んできた。


 ……いや、巨人か?


 オーガ並みの体躯に大きな麻袋を背負子で背負っている。

 手に持っているのは長い丸太程もある槍を振り回していた。どうやら魔物に襲われているらしい。


 十数匹のコボルトの群れに囲まれて、往生していた。


 よく見ると彼の足元には身長100センチ程の小人族も二人、そして杖をついて足をかばっているエルフの男性もいた。

 小人族は二人とも短槍を握りしめ、エルフは短剣を構えてコボルトの群れを牽制している。

 通りに端には数体のコボルトが横たわり血を流していた。


「ルオオオオオオッ!!」


 巨人族が力任せに突き込む槍からは、激しい風切り音が聞こえてくる。

 だが、周囲のコボルトは十分に距離をとって躱していた。数匹やられたことで警戒を強めているのだろう。執拗に巨人族の背後をつこうと動いていた。


 接近を許した場合は、小人族の二人が牽制で短槍を突き出してはいる。が、巨人族に比べれば如何程の威力もない。足をかばっているエルフに関しては動きについていくだけでも辛そうだった。

 

 ……被害が出るのは時間の問題かな。

 チラリと背後を振り返り、


「ルルさん」


 一声かけるとこちらに頷き返し、弓を構え即座に矢を放った。


「グギョッ」


 喉元に矢が突き立ったコボルトの一匹は、声にならない音を出し口から血を零しながら倒れこんだ。

 小鬼族の弓兵達も含め、次々とコボルトに狙いをつけていく。

 悲痛そうな獣達の鳴き声を耳にしながら、一角族を伴いコボルトの輪の中へと飛び込んでいった。



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