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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
三章 外に出かけてみよう
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樹海の町統計調査Ⅱ

 庭のイチョウトレントが金髪にイメージチェンジしたころ、樹海の木々も少しずつ赤や黄色の色彩が目立ち始めてきていた。

 イチョウの葉を見ながら「……綺麗だな」とつい零した時は、トレント爺さんが嬉しそうに揺れていた。



 一角族と2人で連れ立って、今は樹海の外縁部に来ていた。


 遠くの方でガンジーが大きな岩巨人に肩車され、こっちに両手で手を振っている。いつも物静かで大人びているガンジーが、今のように無邪気に見える振る舞いをしていると自然に笑顔になってくる。

 ただ、その側には少しだけ不服そうなガンジーのランバード《元蔵》がいた。多分、自分に乗ってくれていないので寂しいのだろう。


 手を振り返し、やや小走りに彼らの元へと向かっていった。

 側までいくと、ガンジーは表情をかすかに緩めながら地面を指さしていた。


 大きな黒蟻マーダーアントが数匹潰されていた。

 仕留め方からして全て岩巨人がやったのだろう。軽く彼の腕を叩き「ご苦労さん」と伝えると、ゆっくりとガンジーを地面に降ろして周囲の警戒へと戻っていった。


 残った俺たちは、黒蟻の死体を取り囲み見下ろす。

 

 「……まただね。」

 「やはり、何処か近場で巣を作っているんですかな?」

  ボソリと呟くと、少し前から話されている懸念を一角族が口にする。


 ここ最近この魔物を見かける機会が多くなってきていた。

 黒い甲殻を持つ蟻の魔物だが、その大きさは人間の子供ほどもあり、力も強い。何より数が多く、世間では一匹見たら100匹はいると言われている。

 今目の前に死んでいるのはワーカーアントだが、中にはソルジャーアントという戦闘タイプもいて、駆除するにはかなり面倒臭い魔物だ。

 

 「樹海ではないっぽいんだけどね、あったら緑小人達が気付くだろうし」


 思案げな表情をしていた一角族にそう返しながら、相手をされないことで若干拗ねている元蔵の首を撫でさすると甘えるように顔を擦り付けてきた。



 テレビやニュースなどで少し前から騒がれている新しい魔物たちは、樹海周辺部でもよく見かけるようになった。

 たまに空を飛んでいるハーピーという魔物は、よく青鳶に狩られているところを見る。大型の昆虫も増えてきているが、これに関しては樹海産の可能性が高いんじゃないかと思う……。


 他にも白狒々や、切り裂きラプトルと言われる小型の鋭い爪を持つ恐竜も見られ始めていた。一時期、動画共有サイトで大騒ぎになっていたのは記憶に新しい。

 徐々にではあるが、樹海の方へと生息域を拡大してきていた。


 やはり、魔素の濃い方へと来たがるのは魔物の習性のようだ。

 

 ちなみにガンジーが肩車してもらっていた岩巨人は、岩人兄弟の作り出した採掘場の岩を素材にした3メートル弱の大型の眷属だ。

 素材に使ったのが採掘場の岩だけだったので、見た目はずんぐりむっくりな体型で岩を乱雑に人型にしたような、ゲームでいうところのストーンゴーレムという魔物に近い容姿をしている。

 食事は岩人と同じく、石と魔力という低コスト仕様。基本は採掘場で寝泊まりしていた。雨の日とかどうしてんの?と聞いてみたところ、どうでもいい事らしい。


 経緯はというと、マグイや青鳶だけでは少しづつ広がる樹海周辺の間引きが追いつかなくなるんじゃないかと考えていたところへ今回の新種達の登場だった。

 ポツポツと周辺部に出現し始めたので、急遽錬生した樹海の専属ガードマン達だ。


 総勢10体がローテーションで常に樹海外縁部を巡回している。動きは遅いがなかなか頼り甲斐のある存在だった。

 何より、ガンジーやロッコが懐いているのが微笑ましい。

 俺じゃあの子達を肩車してあげれないと思う。……頑張ればいけるかもしれないけど、まだ若いのに腰が壊れるとか嫌だ。


 あと、しばらくすると知らない間に岩巨人の子供が一体増えていた。

 仕組みはロッコが生まれた時と同じようなものらしく、高純度の魔力が岩に溜まり続けると生まれおちるらしい。

 その子は他の岩巨人と比べ半分ほどの大きさしかないため、採掘場でいつもお留守番をさせている。

 ドワーフお爺ちゃんズの採掘作業の手伝いや、獣人兄妹ともよく遊んでいるのを見かけるが素直でいい子のようだ。このままのんびりと大きくなっていって欲しい。



 さて、ここらで久しぶりに樹海の町統計調査を発表しようと思う。


=============================


 ・人間 1人

 ・岩人 2人

 ・一角族 9人

 ・小鬼族 52人

 ・ランバード 31頭

 ・緑小人 いたるところに

 ・トレント わさわさ

 ・石ダンゴ ……………

 ・ホワイトディア 7、8頭?

 ・岩巨人 11体


 ・マグイ 十数頭 たぶん

 ・青鳶  十数羽 たぶん


 ・吾郎ちゃんファミリー 5匹

 ・近藤一家ボーリングビートル いつの間にか結構増えてた

 ・スケルトンカラーの変なの たまに、思い出したように見かける  


 ・エルフ1人 

 ・ドワーフ3人  

 ・獣人2人 


=============================


 以上。


 とまあ、ちびりちびりとではあるが、人口は順調に増えていっている。

 そのうち、子供達用の寺子屋的なものも用意したほうがいいかもしれないね。

 あっちいったり、こっちいったりする子供達を捕まえながら仕事をしているお母さんたちは、本当に大変そうだからね。

 子供達の好奇心と無尽蔵の体力には本当に関心するしかないよ。



 夕方、ルルさんとミーニャちゃんが土間でお料理をしてくれている。

 最近は、とうとうプロパンガスが底をついてしまったので、備え付けられていた竃を復活させていた。

 薪の類はそこら中に転がっているし、魔法もあるのでそこまで生活には困っていない。


 パチパチと小さく爆ぜる音と包丁がまな板を叩く音に加えて、2人の仲良さげな笑い声が聞こえてくると自然と頬が緩んでいる。もう少ししたら、恋話のようなこともしだすのかもしれない。そうなると、キッチンは男子禁成になるのかもしれないなー。


 そんなまったりとできる我が家にも問題がある。

 それは、樹海の町で唯一の電気とネットが使える我が家が溜まり場になっていることだろう。

 

 今もお爺ちゃんズが、果実酒片手に野球の名試合(再放送版)で大盛り上がりしている。

 やれ、監督の采配が悪いだの、この選手はフォームが悪いだとか、好き勝手に楽しそうにヤジを飛ばしていた。

 

 対して、野球に全く興味のないヤーシャは超不満気だ。

「なあなあなあ、今◯◯チャンネルでアニメやってんだぜー、チャンネル変えてくれよおっ つまんねえよぉ」


 ヤーシャ、野球好きはリモコンを手放さないモンなんだよ、諦めなさい。


 また、俺が持っている映画DVDコレクションなんかは眷属たちに大人気だった。

 幸いボッチ属性なこともあり、その手のお一人様用アイテムは品揃えが豊富にある。


 今では月に一回はレイトショーと称して、縁側にテレビを設置して庭先で上映会をやっているほどだ。それはもう大盛況である。


 特に人気が高かったのは、孤独でもっさりした殺し屋と利発的な超絶美少女で有名な名作だった。

 2人の素敵なシーンには男女問わずがうっとりし、悪役とのバトルには燃え上がり立ち上がり、主人公の最後には号泣していた。未だにリクエスト率は高い。


 毎回恋愛ものかアクションものか、はたまたアニメかで悩んでしまうのが困るところなのと、42インチの大きめだった薄型テレビが、その時には小さく感じてしまうことだろう。プロジェクターとか欲しいと思う。


 まあとにかく、いつも賑やかにはやっている。



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