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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
二章 樹海の町の住人たち
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獣人とランバード③

 それから毎日納屋へ通った。


 ケイさんの言っていた通り、少しづつランバードたちは俺が納屋を出入りすることを認めてくれたような気がする。


 俺自身、それぞれのランバードたちの個性というか、性格をつかめるようにもなっていた。 

 あの子は寝坊助だけど、無理に起こしたらすごい機嫌が悪くなる。

 あの子とあの子は番で、下手に他のランバードが近づくと喧嘩になる。



 任される仕事も増えてきた。

 最初は巣の掃除と寝わらの敷き詰めだったのが、今ではブラッシングもやらせてもらっている。


 この子のブラッシングの場合は固めのブラシを、この子は柔らかめ。

 この子はここを重点的にと、細かく好みを教えてもらいながらやるのは楽しかった。

 だってそれだけランバードたちが、スゲー気持ちよさげにしてくれるから。


 今度は爪の手入れの仕方も教えてくれるって言ってた。

 あれは危ないからかなり慎重にやらないといけないんだって。



 ケイさんと一緒に仕事をこなしながら、少しづつ世話にも慣れてきて、ランバードたちと仲良くなれている実感もあった。順調だった。


 だからだろう。少しだけ油断してしまったんだ。

 ランバードはきっと怒らないって、俺の言うことは聞いてくれるって。




 その日、ケイさんと納屋の掃除を始める前に、どうしても外に出て行かないランバードがいた。

 いつもはそんな愚図るようなヤツじゃないのに、どうしたんだろう?


 ケイさんは外で、他のランバードたちに果物を食べさせている。

 放っておくと、取り合いで喧嘩をすることもあるからな。


 たしかコイツはこの野菜が好物だったはず。

 いつもやっているように、目の前まで持って行き食べさせようとすると、突然立ち上がり嘴で突くような仕草をしてくる。


 そんな反応をされるとは思ってもいなかったので驚いたけど、そいつの足元に卵を見つけた。



「あ」



 初めてみるランバードの卵、嬉しくなってつい駆け寄ろうとした瞬間ーー



 グゲーーーッ



 と激しく飛び掛かられそうになった。

 

 とっさに出たおれの悲鳴を聞きつけて、ケイさんが走り込んで来る。

 ランバードの足元の卵を見つけ、全てわかったようだ。



「ごめん、悪かった。お前の卵を傷つけようなんて思ってないんだよ。これ以上は絶対に近づかない。

 頼むから怒りを鎮めてくれ。この子も俺も何もしないから……頼む」



 俺を体ごとかばうように立ち、両手のひらを相手に向け必死に謝るケイさんの姿を、混乱した頭で眺めていた。


 気を荒げたまま卵の上に座り直したランバードを刺激しないように、ケイさんに腕を掴まれ、そっと納屋の外へ出て行く。



「ふぅぅ、危なかったね。

 卵や雛を育てている最中は本当に危険だから、迂闊に近づいちゃダメだよ。

 ……でも、こちらを警告するためにも、襲おうとする前に卵を見せてくれなかった?」


「………見せてくれたと思う。でも、とっさに近づいちゃって………初めて見たから嬉しくて……」


「………それでかあ。それはヤーシャが悪いよね」

「うん、ごめんなさい」

「僕にじゃなく、落ち着いたらあの親鳥にちゃんと謝んな。さっきはごめんってね」

「………うん、わかった」



 その日は気が動転していたこともあり、そのまま帰らせてもらった。






 次の日の朝、いつも通りに納屋の前に行くとケイさんと一緒に作業を始めた。


 いつも通り、外に餌箱を準備してランバード達が喧嘩しないように気をつけながら食べさせる。

 それが終わると納屋の中に入り掃除をするんだけど、ケイさんに連れられてそっと入って行った。


 昨日と変わらない場所で卵を守る親鳥、こちらを睨みつけるように見てきている。



「昨日のこともあるし、2人で近づくとより警戒されるかもしれないから、1人で行って謝ってきな。ここで見てるから」



 そう言ってケイさんに行かされるけど、正直言って昨日のケイさんのように謝るのはちょっと恥ずかしい。

 だってあんなの……怖い人に対して必死で謝っているみたいだったし、ランバードに対して真面目に話しかけるのはちょっと馬鹿らしい。


 そう思いながら、少し離れた目の前まで行き口を開く「あー、昨日はーなんかー」



「ーー危ないっ」

 親鳥が立ち上がり鉤爪を振りかざしていた。


 横からケイさんに飛びつかれ、そのまま転がるように納屋の外へと走り出た。



 息を荒げているケイさんに、がっしりと両腕を掴まれて問い詰められる。


「何だったんだ、あの態度はっ! ちゃんと謝れと言ったろうっ 卵を守る親鳥が一番危険だって何度も言ってるだろう!!」


 これまでケイさんが、ここまで声を荒げるのは見たことがない。


「い、いや……だって」

「だって何だ?」

「……だって、ランバードだよ? 人じゃないんだしーー」

「ーーそれ以上先を口にしないでくれ。

 今この場で、僕らの前でその言葉を口にするな。もしするなら、君を2度と納屋へは近づけさせない。

 何度も教えたはずだ、ランバードは僕らの言葉をしっかりと理解してるって」

「……そんな事ーー」


 ケイさんの目を見て口を噤んだ。



 それからはケイさんが額に手を当てて何かを考え込んでいた。

 俺は何も言えず、ケイさんに何を言われるのかを待っている状態だった。



 その時、ケイさんがパッと顔をあげ一点を見つめ始めた。

 そして僕を見て何かを決意したように「ちょっと待ってて」と言い残し、詰所の中へと入って行った。



 すぐに出てきたケイさんの手には騎兵隊が使う杖と鳥具が握られていた。

 納屋の側にある、ランバード達がのんびりしている原っぱに向かって叫ぶ。


「ラルクッ!!!」


 そして、甲高い指笛を鳴らし少し待っていると、軽やかに一頭のランバードが現れた。

 ケイさんは即座に鳥具を付け跨り、僕の前へと手を差し伸べる。



「ヤーシャ、君の安全は僕が保証する。一緒においで」

「……え、いいの? ランバードに乗っても」

「僕のパートナーのラルクだ。一緒なら大丈夫だよ。ほら、早く。ヤーシャに見せたいものがあるんだ」


 そう言って、いつものあの安心させてくれる笑顔を向けてくれていた。


 手を掴むとふわりと持ち上げられ、いつの間にかケイさんの前に座っていた。

 後ろから手が回ってきて、ロープで2人の体を固定する。


「鞍の部分をしっかり持ってね。あと口は閉めて、舌を噛むからね」


 俺の返事を待つ前に、ランバードは走り出した。



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