獣人とランバード①
グゲーーーーッグゲゲゲッ
居間でモンテとミーニャちゃんの3人でお昼の情報バラエティ番組を見ていると、納屋の方からけたたましいランバードの鳴き声が聞こえてきた。
すわ何事かとツッカケをはき慌ただしく駆けつけた。
納屋の中にはイキリ立って威嚇状態の、ロッコのランバード《パピー》と、それを見て腰を抜かしているヤーシャがいた。
「どうどうどうどうどう、落ち着けー。ヨーシよしよしよし」
今にも鉤爪を振りかざし飛び掛かりそうになっているパピーを抱きしめながらタテガミや首周りを撫でさする。
しばらくは気が立っていたが、モンテが背中に飛び乗り一緒になだめてくれたおかげで少しづつ落ち着いてきた。
納屋の隅の方で震えているヤーシャに目をやり、とりあえず外に連れ出し事情を聞いてみる。
どうやら、納屋で休んでいたランバードの背中に跨がろうしたらしい。
まあ、子供らしいっちゃらしいけど、ちょっと今回の件は看過できない。
ランバードは本来かなり気性の荒い生き物だ。本気で怒らせたら怪我じゃすまない。
「………ヤーシャ。気持ちはわかるけど、ランバードは本当に賢くて忠誠心の強い生き物なんだよ。
ただでさえパートナー以外は無闇に乗せたがらないのに、休んでるところをいきなり乗ろうとするのはあまりに可哀想じゃないか?」
「………んな事言ったって皆んな乗ってんじゃんかっ 俺だってランバードに乗りてえよ! パートナーにしか乗せねえっつうならあのランバード俺にくれよっ レンはもう持ってんじゃんっ」
「……ランバードは物じゃないよ。それにあの子はロッコのパートナーだ」
「なんでロッコが持ってて、俺にはくれないんだよ。ずりいよっ」
「だからそれはーー」
「……オイ」
声はいつも聞いてる可愛い女の子のものなんだが、今のは氷河期のような声色だった。
俺とヤーシャが恐る恐る振り返ると、そこには予想通り剣呑な目つきをしたロッコがいた。側にはパピーが控えている。
「っな……なんだよ?」
かろうじて粋がってはいるが、足が震えているのを俺は見逃さなかった。
「……………謝れ」
「うるせーー」
ーー ごっつん
ヤーシャの反論が言い終わる前には、ロッコの拳がヤーシャ頭に叩き落とされていた。もちろん俺ごときには止める暇もない。
庭に盛大にヤーシャの泣き声が響き渡った。
==========================
「こんにちわー」
頭にタンコブをこさえて目を真っ赤にしているヤーシャを連れて、衛兵隊詰所の側にあるランバード用の大きな納屋を訪ねていた。
納屋の裏手から出てきたのは、ランバード飼育の責任者になっている小鬼族のケイ君だった。
「あれ? レンさんどうされましたー? 正一君なら今日は来てませんよ」
俺たちの顔をみるや和かに対応してくれるケイ君は、小鬼族たちの中でも優しくて穏やかな青年だ。
特にランバードの逞しさと美しさにぞっこんで、自ら進んでランバードの世話を買ってでている。
……まあちょっと変わり物扱いされている子でもあった。
「ああ、いや。今日は正一の事じゃないんだよ。………実は、この子がランバードに憧れていてね」
そういって、俺の後ろに隠れるように立っていたヤーシャを前に押し出した。
その明らかに泣きはらした目を見て、なんとなく悟ったんだろう。
「ははーん、誰かのパートナーに無理に手を出そうとして、こっ酷くやられた口かな?」
面白がるように覗き込むケイ君から、気恥ずかしさからプイッと顔を背けている。
「んでさ、この子と気が合うようなランバードがいたらいいなとは思ったんだけど。
……俺たちの場合は雛の時から面倒見てたし、どうやったらランバードに認められるかがわかんないだよね」
「んーーなるほど。まあそらそうですよね、特にレンさんの場合はまた話が別ですしね。
まあ……基本は”仲良くなる”ことですよ。
ちょくちょく頻繁に遊びにきて、丁寧にブラッシングしてあげたり、マッサージしてあげたり、餌を採ってきてあげたりとかですかね?
特にこれをやったらというのはないですよね。気が合う子って自然とできちゃうもんですしねー
あっあと、雛から面倒みるっていうのは、正直あまりおすすめしてないですね」
「えっそうなの?」
「レンさんたちに雛渡した時って、わざわざ取りに来てもらったの覚えてませんか?
あれって、ぼくらじゃ雛に近づけなかったんですよ。親鳥たちがかなり気が立っていて。
卵の時でも雛の時でも、常に親鳥が側にいますからよっぽど親鳥に信用されないと渡してもらえないんですよ。
だから、レンさんたちが雛抱いた瞬間って皆んなホッとしてたんですよ」
俺の知らない所でそんなドラマがあったんだねー。
そりゃそうだよね、我が子の行く先に過敏になってしまうのは、どんな生き物の親でも一緒だね。
「ちなみにですけど、一角族の人たちは目と目を合わせて1時間以上じっと睨み合ってますね。……なんか早すぎてもダメ、遅すぎてもダメみたいで、正直何で仲良くなってるのかはよくわからないです」
まあ彼らはね……拳が礼儀の種族ですから。後ろに控える一角族はなぜか得意気だ。
んー、でもそうなると…………
「ケイ君、しばらくヤーシャを飼育員見習いとして使ってやってくれるかな?
この子、あんまりランバードの事理解していないし、丁度いいと思うんだよね」
「ーーちょっと、レン勝手に決めんなよ。俺だっていろいろやること……」
「ん、特にないよね? またイタズラしてロッコやガンジーに泣かされる前に色々勉強しとけって。それにランバードに認められたいんだろう?」
「……まあ、うん」
「て、ことでケイ君頼むよ。聞き分けなかったらゲンコツしていいから。
ロッコやガンジーに殴られるよりは全然優しいと思うしね」
「はははは、わかりました。じゃあ、明日の明け方前からここにおいでね。よろしくヤーシャ」
「……うん。よろしく……お願いします」
渋々といった風に頷くヤーシャを見て、ケイ君と目を見合わせてまた笑いあった。




