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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
二章 樹海の町の住人たち
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獣人の子供②

 ヤーシャとミーニャの両親は、二人とも自衛隊所属のアルニア人部隊に配属されており、仕事で数日会えないことはザラにあった。

 そのため、二人とも親の両方が任務の時は自衛隊施設に預けられることになる。


 今回もいつもと同じように出て行ったそうだ。



 だが、任務に赴いた両親たちがいつまでも帰ってこなかった。

 ニュースでは樹海周辺で、自衛隊による大規模な作戦が行われたことしか言われていない。


 自衛隊の窓口に問い合わせても、ただいま安否を確認中だとしか返ってこない。

 一週間待っても同じ返答だったようだ。




 しばらく後、同じ作戦に参加したアルニア人が入院しているという話を聞きつけ、病室へと行き頼み込んで話しを聞くことができた。


 曰く、ほとんどのアルニア人部隊は、魔物領域に取り残され生死不明とのこと。

 未だ帰ってきていないのなら生存は絶望的だと言われていた。そしてその時の状況も、ある程度ボカして教えてもらっていた。


 両親はもう帰ってこない。作戦が決行されてからこれほど日数が立っているとなればもう間違いない。

 ヤーシャはその事実に打ちのめされていたが、妹のミーニャは違った。


 両親は帰りが遅いだけだと思っている。何度か説明して、自分がいるから心配するなとも言ったけど、一向に聞き入れようとはしない。


 いつも親と一緒に遊んでいる施設内にある中庭のベンチで座って待っている。雨の日も、少し離れた軒下からジッとベンチの方を見つめていた。



 周囲からは痛々しく見られはじめ、徐々に友達もいなくなり孤立していっている。

 ある時なんて、夜中施設を抜け出して、両親と使っていた部屋へと忍び込んで一人で寝ていたらしい。


 「何でそんな事したんだ?」と聞いてみたら「本当はこっそり帰って来てるんじゃないかと思った」と返された。



 そんな妹の姿を見てヤーシャは決めた。

 魔物の領域とやらに行き、親の痕跡を探そうと。


 そこで亡くなった遺品でもなんでも見つけなければ、妹はいつまででも待ち続ける。



 親の部屋に置いてあった短剣とナイフを持ち出し、ミーニャへは用事で数日出かけるからと伝え置いた。


 準備を整え、いざ施設を抜け出そうとしたところで、妹のミーニャに待ち伏せされていた。

 どれだけ説得しようともテコでも離れない。強引においていこうとすれば、気が狂ったように泣き喚いていた。何か察しているのだろう。


 仕方がなく一緒に行くことにした。


 猫系獣人種は俊敏さや隠れ潜むことがうまい種族だ、なんとかなるともタカをくくっていたらしい。



 都心部防衛ラインを出て行くことは簡単だった。

 あれは魔物や地方から無許可で入ってくる人間を厳重に警戒しているだけで、中から出て行くものはあまり気にしていない。

 うまく目をかい潜り、都市郊外へと出て行った。



 少し行けば魔物ともポツポツと出くわし始める。


 ゴブリンやコボルト程度なら、見つかることなく問題なく切り抜けれている。

 何度かそんな場面を繰り返し、2人とも自信をつけていた。

 


 ただ、そう思えたのは最初の1日目までだった。順調に樹海の方に向かっていったが、進めば進むほど魔物の密度が高まっていく。

 2日目以降からは明らかに厳しさを感じていた。いつの間にか、ほとんど先へは進めなくなっていく。


 いくら何でも数が多ければ見つかってしまう。

 ましてやコボルトはオークほどではないにしても鼻が効く。


 追いかけられ、襲いかかられることも当然出てきた。

 それでも、猫系ならではの俊敏性や跳躍力を駆使してなんとか逃げ延びていく。

 

 自分だけでなくミーニャもいるということで、極端に慎重に行動していたのが良かったのかもしれない。


 少しでもリスクのある方向へは決して動かない。危険だと思ったら何時間でも身を潜めていた。

 ミーニャも危ないのはちゃんとわかるらしく、泣きたい時は必死で声を押し殺してくれている。

 


 ただ、逃げ回り続けたおかげで、自分たちの位置を見失ってしまうことになる。

 戻ることも進むこともできず、ただただ闇雲に魔物たちから身を隠し、廃墟に入り込み食料を漁る毎日。


 その内、周囲には大規模な戦闘があった証拠か、もう人か魔物かはわからない腐肉がそこら中に転がりはじめていた。

 それらの耐えられないような悪臭も、自分たちを助けてくれた理由の一つなのかもしれない。

 それと同時に魔物たちの密度も跳ね上がっていたが。



 魔物の目を盗み、まだ辛うじて人だと分かる者の遺体を漁ることはしょっちゅうだった。

 ポケットや荷物に、未開封の携帯食料を見つけることができると、喜んで2人で分けて食べる。


 ミーニャと2人で1週間以上はそんな生活を続けていた。



 ある日どこかのゴミ捨て場を漁っていると、不意に後ろから物音が聞こえてきた。


 振り返れば、口から左右計6本の太すぎる牙を突き出している、クマのようにも見え、狼のようにも見える大型の魔獣がいる。

 これまで、見たことも聞いたこともない生き物だった。


 あまりの迫力に短剣を構える勇気もなく、腰を抜かして放心しているミーニャを抱きしめていると、自分たちの匂いを嗅ぎつけたのか偶然か、近くにオークが2匹やってきた。


 その瞬間、目の前の大きな魔獣がオークへと躍りかかった。


 その体躯からは考えられないような俊敏さで襲いかかり、腕を噛みちぎり、喉を食い破る。

 その魔獣の仲間も次から次へとやってきて、残りのオークのハラワタを競い合うように貪っている。



 ヤーシャ達はそれを身動き一つせず、声もあげずに、金縛りにあったように見つめていた。

 泣き出すことすら怖くてできなかった。



 オークの肉をあらかた食い終わると、集まっていた魔獣たちが一匹また一匹と散らばっていく。

 その時に何匹かはこちらに近づき、ヤーシャ達の匂いを嗅ぐのだが、結局は何もせずに去っていった。



 それからも、ちょくちょくとその魔獣を目にすることになる。

 ゴブリン、コボルトは相手にもならず、オークはもちろん、時には数体の群れであのオーガすらも狩っていた。


 そしてなぜか、ヤーシャ達には気づいても襲いかかってはこない。何度会っても。


 ならば、この魔獣達の多いところへ逃げようと思った。コイツらの縄張りにいればまだ安全だと。


 魔獣の食い荒らした獲物はすぐにわかる。そしてこの魔獣の食い散らかした後には、他の魔物達が警戒してあまり寄り付かなかった。

 ミーニャと2人して必死に魔獣の痕跡を追っていく。



 その結果、樹海へとたどり着いた。

 あの魔獣達が出入りしているのを確認して、自分達も踏み込んでいったがすぐに気を失ってしまった。


 そして、気がつくとこの家に来ていたという。



 ヤーシャは11歳、ミーニャは7歳と聞いた。

 


 

 

 ヤーシャが起きたらしく、ドワーフのお爺ちゃんが一人座敷へと向かっていった。

 数分後、雷のような怒鳴り声と鈍い音が聞こえてきたと思ったら、子供の泣き声が響いてきた。



 その後、また泣きはらした目とふて腐れた様子のヤーシャが居間へやってきて、おれに謝ってきた。

 そして「助けてくれてありがとう」と言ってくる。


 かなり言わされている感はあったが、こんなもんだろう。


 ミーニャと同じく風呂にいれさせ、食事を与える。



 多少落ち着いた所で、犠牲になったアルニア人達を埋葬した場所へと連れていった。


 彼らの文化は土葬ということだったので、布に包んだまま埋めていた。

 何か遺品になるようなものがあれば良かったのだが、酷い状態であったのでそのまま埋めてしまった。

 一応他のアルニア人から聞いておいた、名前だけはわかるようにしてある。


 その事を2人に詫びると「大丈夫」という短い返事が返ってきた。


 遺品代わりと言ってはなんだが、緑小人達にそれぞれ違う花を植えさせている。

 ヤーシャ達のお父さんの花はスミレ色、お母さんの花はオレンジ色だった。


 

 そのままアルニア人達を置いて、俺達は家へと戻っていった。




本日はここまでです。

また、明日投稿します。

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