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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
二章 樹海の町の住人たち
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獣人の子供①

 ランバードグラインダーで今日も遊覧飛行を楽しんでいると、さらに上空を旋回していた青鳶が並列して飛び始めた。


 珍しいこともあるもんだと思っていると、こちらをジッと見つめてくる。

 そのまま着陸するまで、ゆったりと傍を飛んでいた。



 木の枝にとまりこちらを見つめている青鳶に「どうしたの?」と声をかけると、少し離れた木の枝へと飛び移っていった。


 『付いて来い』と言われているのだろう。


 着地点で合流した一角族を連れて後ろを追いかけて行った。





 結局外縁部まで来てしまった。


 ある一箇所を囲むようにほかの青鳶たちが枝に止まっている。

 そちらに向かっていると、遠巻きから眺めるようにマグイも3匹ほどこちらを見つめていた。


 ポツポツと魔物たちの死体が周囲に散乱しているのを見る限り、狩の最中だったようだ。

 彼らの仕事ぶりは凄まじく、胴体が引きちぎられている物、頭が噛み砕かれているものもいる。


「……一体何なんでしょうな?」

「とりあえず、あそこに何かあるらしいね。行ってみようよ」

 首を傾げる一角族と一緒に、青鳶たちの方へと進めていった。



 俺を呼びに来た青鳶は、一本の樹の枝に止まってこちらを変わらず見つめている

 近づいていくと、樹の根元に何か小さな生き物がうずくまっているのが見えた。



 ーー 獣人の子供だ……



 獣耳と尻尾を生やした小さな子供が2人、体中に傷を負いながらも抱き合うように倒れていた。

 男の子と女の子、どちらも気を失っているようだった。




 それにしても……ひどい格好だった。


 頬がこけてやつれた体に、元の色がわからない位ドロドロになっている服。

 血や泥だけでなく、なんの汚れかわからないような物までこびりついている。


 服からなのか、体からなのか周囲にはスエた匂いが充満していた。


 違和感があるのは、やや年上に見える男の子が短剣を握りしめていることだろう。

 女の子の腰にはナイフが差してある。



 とにかく、放置しておくわけにも行かないので怪我の具合を診ていく。

 特に大きな怪我はないようだが早く家に連れて帰った方がいい。


 マグイ達の方に目をやると、こちらを見た後仲間の元へと戻っていった。

 好きにしていいということだろうか。



「知らせてくれてありがとう」


 樹の枝に未だ止まっている青鳶に声をかけると、鳴き声を上げずに飛び去っていった。

 一角族と2人で手分けして、子供たちを町へと運んだ。



 

 家に連れ帰ると、とにかくひどい異臭を放っている服だけは脱がし、寝巻きに着替えさせる。

 後はリナちゃんを呼んでおいた。ついでに詰所にいるであろうルルさんも。


 身につけている服の素材から、地球にきたばかりという事はなさそうだったが、最悪日本語が通じないこともある。

 その事を考えてのことだったのだが…………駆けつけてきて、2人の顔を見るなり表情が曇ってしまっていた。


「どうしたんですか?」と確認すると、ドワーフたちを連れてくると走り去っていった。


 リナちゃんと2人で首を傾げるが、今はこの子たちの傷の手当を優先しよう。

 ほとんどが切り傷や魔物の浅い噛み傷ぐらいではあったが、膿んでいる箇所もあったので、しっかりと手当していった。



 玄関の方から、ガヤガヤと声が聞こえてきたと思ったら、お爺ちゃんズも勢揃いで座敷へと入ってきた。

 子供達の顔を見るや、皆一様に渋い表情をしだす。


 たまに「……多分」「そうじゃと思う」的なことを口々に言い合っている。

 取り残された俺たちの視線に気づき、ルルさんが代表して教えてくれた。



「……多分なんだが、私たちと一緒に逃げてきた獣人夫妻の子供なんじゃないかと思う」


「休んどるときに、たまに子供2人の写真を見とったのを覚えとるしの」

「赤茶の毛色もそうじゃが、顔も似とると思う」

「お互い、血みどろでボロボロじゃったし、たまたま戦場で合流しただけじゃから確信はないがの……

 ただ、この子らがそうじゃとしたら、樹海にたどり着いたのは偶然ではない気がするのう……」



「自衛隊に所属しているアルニア人の子供の環境ってどうなってるんですか?」


「アルニア人の孤児も含め自衛隊の施設に預けられとる。さすがに不遇に扱われとる印象もなかったし、そこまで監視もキツなかったと思うぞい」


「なるほど……まあ後はこの子たちが目を覚ますのを待つしかないですね」








「皆さん、子供達起きましたよー」


 リナちゃんの間延びした声を聞いて、居間で寛いでいた面々が腰をあげる。


 ガンジーとオセロ勝負していたお爺ちゃんが「んなっ、いま崩したの絶対わざとじゃろぅっ 勝っとったのに!」と怒っていたが、素知らぬ風にガンジーは去っていった。



 座敷の方へとぞろぞろ入っていくと、明らかに警戒している男の子と不安そうにこちらを見ている女の子がいた。


 今は汚れているからだろうが、燻んだ赤毛につり上がった目の、さも気の強そうな男の子。

 襟足が微妙に伸びているのがヤンチャ感マックスだ。


 同じ色合いの髪を肩まで伸ばして、パッチリした目を今は涙で潤ませている小さな女の子。

 男の子の後ろに隠れてより怯えている。


 どちらも耳をピンと立て、猫のような細長いシッポを垂らしているのを見て、初めて直に見る獣人にやや感動を覚えてしまった。


 同室にいたルルさんとリナちゃんが、2人で何とか宥めようと頑張っているが、睨みつけていて心を許さない。

 その様子を見て、とりあえずアルニア人だけにしてあげようと、俺はリナちゃんを誘って退室していった。


 

 


 最初はなんとなく俺たちもしんみりしていたが、いつの間にか縁側で、モンテとガンジーの3人でリナちゃんの恋話を聞いていた。


 最近、友達と好きな男の子が付き合い始めたそうだ。よく2人で樹海の奥に消えていく姿を見かけるのが辛いという、地味に重い話を聞いている。



 ーー 座敷の方から盛大な子供の泣き声と怒鳴り声、物が壊れる音が聞こえてきた。



 こうなるという事は、やはり獣人夫妻の子供だったようだ。

 多分アルニアの言葉だろう、ルルさんやお爺ちゃんズの必死の説得が小一時間ばかり続いている。


 徐々に静まりはじめ、女の子の愚図るような泣き声だけが聞こえていたが、突然ダダダダッと家の中を走る音と一緒に、ルルさんの誰かの名前を叫ぶ声が聞こえた。


 廊下をやや滑り気味に居間へと乱入してきたのは獣人の男の子だった。

 真っ赤に泣きはらした目を俺に叩きつけ『ajvn;adfb;aobfin:avja;lm!!!』となにやら叫んでいる。


 後から追いついたルルさんが、男の子を止めようと伸ばした手が空を切り、男の子が俺に飛びかかってきた。



 が、間に入ったガンジーにラリアットで迎撃され、今は大の字に伸びている。



 ……流れ的に、俺が子供に殴られた方がよかったんじゃないかなーと、ちょっと罪悪感を感じている。

 ついでにルルさんが、ドラマチックに伸ばしている手をどう収めようか困っていた。



 またまた気絶している男の子を座敷に運び、それを見てさらに怯えた女の子をルルさんに頼んでお風呂に入れてもらった。


 やっぱり、こういうときは湯船に浸かって暖かくしてあげるのが一番だと思う。

 お腹減ってるだろうし食べる物でも作っておいてあげよう。



 お風呂から上がってきても、未だ恐る恐る俺を見てくる女の子をちゃぶ台へと勧める。   

 座らせるとすぐに、お粥とお味噌汁を出してあげた。


 ろくに食事も取っていないのはわかったから、消化にいい物を用意してあげた。

 女の子の横にはルルさんがいて、優しく頭を撫でて面倒をみてあげている。


「いいよ、遠慮せずに食べな」


 不安そうにこちらを見ているので、落ち着かせるように伝えると、こちらを伺いながら食べ始めた。

 そしてすぐに無心になって掻き込んでいった。


 言葉は通じるのはもう確認済みだ。


 先ほどの少年は気が動転していたらしい。

 どういう状況で親が無くなり、どうやってルルさん達が助かったのかを聞き、なぜもっと早く救援に駆けつけてくれなかったのかと怒っていたようだ。



 それも仕方がないだろう。


 男の子はヤーシャ、女の子はミーニャと言うらしい。

 お爺ちゃんズに事情を教えてもらったが、ここに来るまでに中々大変な経験をしてきたようだった。




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