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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
二章 樹海の町の住人たち
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立会い

 お互いに木刀を構えあい、立会いが始まった。



 先手必勝とばかりにルルさんが飛び込んでいく、そこから繰り出す斬撃は思いの外鋭い。


「軽くなら」と笑顔を浮かべていたはずだが、実は相当な負けず嫌いなのかもしれない。もし揉めた時は積極的に謝ろう。


 対する一角族の女にとっては、まさにご褒美だったようで、ギリギリのところでかわし続けてすごい楽しそうだ。


 その様子を見ていると、確かに彼らの手合わせの相手は魔物相手に磨いた技術を持つものばかりで、こんな高い対人スキルを持つ人との戦闘は初めてだろう。


 樹海一の戦闘狂種族が手合わせを望む気持ちもわかる気がするな。


 相手の間合いでは戦わず、体格差を利用して懐に入り込む。

 一撃必殺のような大ぶりはなく、細かな攻撃で相手の動きを制限していく。

 視線や仕草でのフェイントで誘導することもあった。


 まともに受けるのではなく流すように木刀を滑らせたかと思いきや、相手の動きにかぶせるカウンター気味の攻撃。相手の気持ちを乱すような挑発と表情などなど、これまでの一角族や小鬼族たちの訓練の中にはなかったような技術が組み込まれている。



 ただ、それでも一角族には届かない。

 持ち前の反射神経、動体視力に身体能力を駆使して、全てが楽しいゲームのように次々とクリアしていく。

 それに、さすがは武闘派種族というかなんというか……しっかりと技術を吸収し始めていた。


 ルルさんも悔しそうだ。

 なんとか一手を入れようと更に回転を速めていくが、一角族を捉えきれていない。


 そこで何か策を考えついたのだろうか、少し距離をとった。

 おや? 少し魔力が動いたかな……と思った瞬間ーー


 ブワリッと一角族の足元から風が舞い、砂ボコリが巻き上がった。

 咄嗟の事に目を細めてしまったせいで、ルルさんの接近に反応するのが遅れている。



 ーー カァン と硬い音が鳴り響く。



 避けるのを諦めた一角族の、木刀ではなく頭突きのような一本角の叩きつけを、ルルさんが間一髪で防いでいた。

 一角族の口元には太い犬歯がいつも以上によく見えていた。



「へー ああいう感じで風を使うんですねー」



 初めて魔法を戦闘に取り入れている所を見れて、少し感動していた。



 一時期ネットでオタク達を熱狂の渦に巻き込んだ魔法の存在だが、アルニア人からの魔法技術と知識が浸透するにしたがって、夢を打ち砕かれた若者たちが続出していた。


 ラノベの世界では今や常識といってもいい『固定砲台』のロマン。不可能ではないが、魔力量のコストがあまりに非現実的とのことだったのだ。


 普通に自分の属性を魔力で放出するのは特にコストは問題ない。


 ゲーム風に例えるとすると、水を10出そうと思えば魔力を10消費する感じ。他の属性も一緒だね。生活で役立つ位のレベルだけど。


 ただし、そこに状態変化を加えていくと、一気に消費魔力が2倍3倍へと軽く跳ね上がっていくらしい。

 水を氷にしてみたり、火を高温にして白くしてみたり、土や風を圧縮してみたりなんかが定番だね。


 その上、それらを高速で飛ばそうと思えば、消費した魔力分に、距離、速度、質量などをさらに掛け算やら何やらしていくことになる。詳しいことはよくわかりません。


 ついでにいうと、高度なことをする場合は形や動きをしっかりと細部まで頭でイメージできていないと簡単に手元で魔力が霧散するとのこと。それまでかけていたコストが一気にパーになるという鬼仕様だ。



 結論、魔法攻撃は馬鹿らしい。

 魔力と気合を込めて、物理で殴れが基本戦術だった。



「まあ、風は一番使い勝手がいいからの」

「器用な奴は、うまいことやって矢の命中精度高めるらしいぞ」

「獣人なんかは匂いをたどるのに使うともいうのー」



「へー………てか、ちょっと………激しくなってきてないですか?」


「そうじゃのう……手合わせにしては熱がこもってきたのぅ」

「「…………」」



 軽い手合わせの予定が、どこぞのブートキャンプになり始めていた。


 こちらまで聞こえてくるようになってきた鬼軍曹ばりの罵倒と、それに応えるスラングな受け答え。

 2人とも見た目は底冷えするくらいの美人なので、より一層怖かった。



 女2人の徐々に高まるボルテージと異様なテンションに止めに入っていけず、少し収まるまでと、お爺ちゃんズとビビりながら観戦していたのだが、2人はそのまま緩めることなく突っ切ってしまっていた。



 その結果が目の前にある。

 



 今ルルさんは、原っぱの隅でうずくまり、女の子が出しちゃいけないものを口から出しています。


 そのすぐ横には、一角族の女が心配そうに背中を撫でさすり、水の入ったコップを差し出していた(注:犯人はコイツです)。



「なんちゅうか……レン殿の部下は………剛気じゃのう」

「はっきり言ってもいいですよ」


「……やりすぎじゃ」

「……ど阿呆じゃ」

「……脳筋すぎじゃ」


 おっしゃる通りで何も言えません。


「まぁ……エルフの女も似たようなもんじゃがの」

「アイツら、負けん気が強いからのぅ」

「普段上品に堅苦しくやっとる分、色々溜め込んどるんじゃろう。一気に爆発するタイプじゃな」



「一緒に酒飲むのは勘弁してもらいたい種族ナンバーワンじゃな」

「「じゃな」」



 その間ウチの阿呆な子はというと、ルルさんの介抱をしながら必死で何かを囁いている。

 怪しく思い、こっそり背後に近寄り聞き耳を立ててみた。



「あんな戦法で来られるとは思ってなかった」「貴方のような戦士に出会えて良かった」「本気を出さないと失礼だと思った」「今日立ち会えたことは財産だ」などと、思いつく限りの甘い賛辞を並べ立て自己保身に走っていた。

 

 対するルルさんは「おえっ」「うぷっ」としか返事ができていない。




 そっと離れてしばらく待っていると、回復したルルさんが無理やりな笑顔で戻ってきた。


 ただ、ガンジーやロッコと同じ顔色をしていたので、一角族にリナちゃんの所に連れて行くようにと、しっかりハッキリと命じておいた。


 犯人は驚愕を絵に描いたような表情で固まっていたが、自業自得すぎてフォローのしようがない。


 2人揃って青白い顔をひっさげて、リナちゃんのいる衛兵隊詰所へとしょんぼり向かっていった。

 思う存分怒られてきてください。

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