アルニアの冒険者
アルメニア人 → アルニア人
ホビット → 小人族 に修正しています。
先日、近所の民家から手に入れた『ボクササイズ入門』をロッコにあげた所、かなりストイックにハマっている。拳の風の切り方に凄みが出てきた。
ルルさんの話相手にと、ウチによく遊びにきているリナちゃんも興味を持ったようで、2人で練習している姿を見かけるようになった。
そして、ルルさんはそれを縁側から長閑に眺めていることが多いが、たまに形ばかりの参加もして楽しそうに話している。ガールズトークというやつだろうか。
大変な目にあったせいで、元気がない時期が続いてはいたが、最近は少しづつ笑うようになってきて安心している。きっとリナちゃんのおかげだろうね。
そこで、俺も何かしてあげれないかと思い考えていると、ボクササイズがもっと楽しくなるようにサンドバックを作ってあげようと思い至った。
ボクササイズはダイエットだけでなく、ストレス発散としてジムに通っているOLも多いというしね。きっと気晴らしになりスカッとできることだろう。
そこで色々材料を探してみたのだが、サンドバックほどの重い物を詰めれて程よく柔らかいものといっても中々見つからない。
ボクササイズ入門を手に入れた民家に行っても、せいぜいグローブがある位だった。
んーーー、困った。
仕方がないから代わりになる物を作ろう思い、庭のイチョウトレントに布団を巻きつけてみた。
その日の内に家出していた。
緑小人の捜索網をフルに生かした結果、町の隅に布団を巻きつけている怪しい樹があると目撃情報が入ったので、急いで駆けつける。
俺とロッコの姿を見つけた瞬間また逃げ出しそうになったので、一角族とガンジーにも協力してもらいしっかりと四方を包囲して、心の底から謝って帰ってきてもらった。
自分でやっといてなんだが、サンドバック代わりはあんまりだったと思う。
家に連れ帰り安堵していると、緑小人達から散々怒られてしまった。みんなから蔓でペチペチされてしまう。
イチョウのトレント爺さんがいないと寂しがる子が多いからね。
優しさも方向性を間違えたら暴力になるんだなーとこの日胸に刻んでおいた。
そんな日々を送っていると、ルルさんに話しがあるので時間を作って欲しいと言われる。
かなり改まっていたので、ルルさんとちゃぶ台を挟んで身構えている。
なんてことない、このまま樹海の町に住まわせてほしいという話だった。
彼らには最初少し警戒もしていたが、それなりに一緒に生活していれば人となりもわかる。
何より、リナちゃんやモンテがかなり懐いているしね。
もちろん大歓迎だと伝えると、縁側で聞き耳を立てていたお爺ちゃんズも「ワシらも頼むぞい」と便乗してきた。
町に住むに当たって、何かしら仕事を割り振って欲しいという話になった。
できる事を聞いていくと、さすがエルフという特技で、弓の扱いに長けているらしい。
ならば、小鬼族や一角族たちの弓の指導員兼製作をしてくれないかと提案し、快く了承してもらった。
今では小鬼族の担当となっている狩りの方も、故郷では冒険者をやっていた事もあるので手伝えるらしい。ザ・森の民ですね。
さて、ここまでの話で何か可笑しな部分があっただろうか?
なぜか、そばに控えている一角族の口角が吊りあがっている……。
いや、ちょっとマジで怖い……そろそろ全力で謝ろうと思い、
「ご、ごめーー」
「ーー上申いたすっ!」
無駄に美しい土下座を決めて、畳の一部に穴を開けていた。
ーー 出たわ、コレ出たわー
彼らは何か頼みごとがあるときは決まってコレをやる。変な癖を付けさせてしまったと後悔している。
その勢いにはルルさんもびっくりしてるね。
大体想像はできていたけど、一応話を聞いてみよう。
なんでも、アルニア人冒険者の戦い方に興味があるらしい。
以前の戦闘ではほぼ観れていなかったし、ルルさんも満身創痍だったろうから、改めて自分と手合わせをして欲しいとのこと。
「嫌なら断ってもいいですよ」と万感の想いを込めて笑顔に力を入れて言ってみたのだが、「怪我も完治したし軽くなら」と穏やかに笑って答えてくれていた。
やや顔を上げて、期待の籠った目で俺の顔を見上げてくる一角族の女。
「じゃあ……本当にかるーー」
「ーーかたじけないっ!!」
「……ちょっ聞いてる? 本当に軽ーー」
「ーーかたじけのうござるっ!!!」
ワクワクが止まらない子供のような目と笑顔で一角族に押し切られ、小鬼族達が訓練に使っている原っぱに訪れていた。
お爺ちゃんズも興味があるらしく同行している。




