エルフ視点②
目の前にいるオーガに向けて、少しも速度を落とさず突っ込んでいく。
後ろに追従する小柄な者達も同様だった。
オーガがさらに雄叫びをあげ、拳を振り抜いてくるが、先頭の者は軽く体を傾け首を横に反らしただけで避けていく。
もう1人の男が通り過ぎざまに、剣をオーガの体に滑らしていった。
2人ともそのまま進み、先にいたオークへ剣を振り抜きあっさりと両断し、さらに他のオーガへと別れて向かっていく。
胸元を切られたたらを踏むオーガを、追従していた小柄な者達は流水のように滑らかに避けていき、手に持つ杖を叩きつけていく。
たまらず、そのオーガは膝をついた。
それぞれが流れるように魔物の間を縫い、時に飛び交い、それまで私たちを追い詰めていた群れをかき乱している。
ーー 助かった……のか?
状況を飲み込めずに、ただ呆然とその戦いを眺めていた。
周囲にいたドワーフ達も同じだったのだろう。
ーー ボグリ という鈍い音と何かが叩きつけられたような音を聞くまで、時間が停止してしまっていた。
ハッと気がつき見上げると、先ほどまで視界の隅で膝をついていた、胸から血を流すオーガが側に立って我々を見下ろしていた。
殴り飛ばされたドワーフの名を呼ぶ声を皮切りに、やっと武器を構えオーガに備えた。
巨大な拳を叩きつけてくる。
残るドワーフ達と共に、的を絞らせないように動き回る。
隙を見つけては武器を叩きつけるが、もはや体力の限界と枯渇しかかっている魔力ではまともにオーガに傷を負わせることができていない。
それがわかっているのか、オーガはなぶるように我々を追い詰めていく。
盾を構えたドワーフが吹き飛ばされた。
それをかばうように立ちふさがる他のドワーフを見て、とっさにオーガへと飛びかかるが蝿を振り払うように地面に叩きつけられた。
どこかの骨が折れた音がした。
声にならない呻き声をあげ、地面に手をつき起き上がろうとする。
口に溜まった血を吐き出し顔を上げると、愉悦に歪んだオーガの顔があった。
直後、オーガの横っ腹に凄まじい速度で何かがめり込んできた。肉の潰れるような音と共に。
そしてそれに続くように、黒い風が音もなく通り抜けていった。
オーガの首が、ニヤけ面のまま宙を舞っている。
ボーン、ボン、ボン……とボールのように落ちて弾むオーガの首を見て、通り過ぎていった者の方へと視線を向けた。
先に来ていた者達と同様の大型の鳥に乗った、若い男だった。
黒髪にあの顔立ち、日本人だろうか。
周囲を軽く見渡し、自身の武器を一匹のオーガへと差し向けると、即座に側にいた者達が飛び出していく。
彼らに襲いかかろうとしていた一匹のオークは、側に控える一本角の女に斬り伏せられていた。
戦闘を始めていた者達も、後続の戦力と阿吽の呼吸で合わせ動いていく。
一本角の者達と一緒に、驚くほどの働きを見せる小さな少年、少女も混じっていた。
残るオーガも、周囲に散らばる無数のゴブリン達も、すでにただの獲物と成り下がっている。
そして、別の方角から新たに現れた小柄な者達が止めとなり、戦闘はあっけなく終わっていった。
魔物達は狩り尽くされ、今は目の前にいる小柄な女性に手当てを受けている。
最初にオーガの一撃をもらったドワーフは残念ながら首を折られていた。
あの日本人が連れている者達の種族は判明してない。ドワーフに聞いてみてもわからんとの事だった。
アルニアにも地球にも見たことのない種族たちだ。
ただ、わかっていることは ーー とにかく強い
身体能力、戦闘技術はもとより、どの者も纏う魔力量が圧倒的に多いのだ。
小さな角がある小柄な者達でも十分に多いのだが、先の一本角の戦士達は溢れんばかりに漲っている。
日本人の側にいる、額に美しい鉱石の埋まった少年と少女はまた桁が違った。
人種というよりは精霊種に近い存在のようだ。
そして、指揮官の日本人。
あんな量の魔力を纏い内包する人種は、エルフの大長老さま達ですら見たことがない。
魔物達が樹海の奥に近づきだがらない理由はこれなのだろう。
状況が好転したことに安堵していたが、今は別の緊張感に張り詰めていた。




