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大学デビューに失敗したぼっち、魔境に生息す。  作者: 睦月
二章 樹海の町の住人たち
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エルフ視点①

 魔物たちとの絶え間ない乱戦を逃げ回り、その疲労もピークに達していた。

 集中力も欠けていたため、あと少しで樹海というところで鼻の効くオークに嗅ぎつけられてしまった。

 

 あとはもう、オークやオーガのうろつくポイントを強引に突破するしかなかった。


 それにつられて周囲をうろついていた大量のゴブリンどももハイエナの如く群がってきていたが、樹海に踏み込んだ瞬間その大多数は引いていった。


 

 

 空気の密度が変わった。


 周辺でも十分に濃密な魔素が漂っていたが、樹海の中はそれを軽く上回っている。

 もはや物理的な重さを感じさせるほどの魔素濃度の高さに、一瞬息が詰まりそうになった。



 魔物どもが、なぜ樹海の周囲に集落を作り、中で暮らそうとしないのか謎がとけた。


 この魔素濃度に慣れていない弱い個体は、きっと急激な変化で魔力酔いを起こし動けなくなるのだろう。


 だから、周囲で暮らすことで徐々に慣らしているのかもしれない。

 樹海に近づけば近づくほど、魔物の頑強さが上がってきていたからほぼ間違いないだろう。

 

 さきほど引いていった魔物達は、まだ樹海に入れるようなレベルではなかったのだ。 

 そして追ってくるもの達は、そのレベルに達しているということだ。




 怪我したものに肩を貸し、背負い、必死に庇いながら仲間達共に走り続ける。

 後ろを振り返るとオーガの巨体が3体ほど目に入った。

 その後ろにもオークとゴブリンが数え切れないほど追従している。 ーー クソっ



 しかし、これだけの濃厚な魔素漂う魔境なのだ。

 その奥にはこの魔物の主、はたまた高位の精霊が存在している可能性が高い。


 樹海の奥にいくに連れてゴブリンやオーク達が少しづつ追従を諦め始めているのがその証拠かもしれない。



 ーー その存在の縄張りに駆け込むことができれば、助かる可能性はある

 

 

 その存在に捕捉されたら終わりなのだが、その目を掻い潜りさえできれば今の状況よりはまだマシになるかもしれない。

 生き残れるかもしれない。

 もしかしたら、その存在が助けてくれるかもしれない。



 地球に来て、文字を覚え読んだ本の中に、蜘蛛の糸にすがる亡者の話があったが、まさにこんな心境だったのかもしれんな。

 ふと思い、自嘲気味に笑みがこぼれた。





 「ーーあっ」



 数メートル後ろを走っていた女の声を聞き、振り返った。

 一緒にここまで逃げてきた獣人の仲間だった。


 もともと足に怪我を負っていたが、とうとう体力にも限界が来て、足をもつれさせたようだ。

 地面に倒れこみ、起き上がろうと腕に力をいれるが体が持ち上がらない。

 助けに行くため足を向けようとしたところで目があった。口が音なく動いている。


 『行って』



 瞬間、迷いが生まれた、その女を支えながら走っていた獣人の男が、助け起こしながら此方を睨みつけ「止まるなっ」と怒鳴ってくる。


 その横には短剣を構えたもう1人の獣人の仲間がいた。

 すでに魔物達の方を向いている。


 近くにいたドワーフに強引に腕を掴まれ、ひきづられるように駆け出していった。背後では興奮したような魔物達の声と、仲間の悲鳴が聞こえてきていた。



 次に倒れたのは小人族だった。

 彼らはアルニアにいた頃は町で小さな食堂を営んでいたらしい。

 配属された部隊は違ったが、陽気な性格で基地内や共同訓練で会えばよく笑わせてくれていた。


 側にいたもう1人の小人族と何やら話している。

 こちらを向いて首を横に振ってきた。



 唇を噛み、情けない顔をしてまた走り出したが、少ししてドワーフ達が騒ぎ出した。

 一緒にいたドワーフが1人いないらしい。



 まさかと、目を向ける。

 残った小人族たちの横に立つドワーフの背中が1人見えた。

 乱戦の中合流して、周囲に比べて非力な小人族達をなにかと気にかけていたドワーフだった。


 魔物達は彼らの目前に迫っている。


 そして、小人族達と戦いながら魔物の群れに飲まれていった。



 側を走るドワーフ達が彼のことを大声で罵倒している。

 言葉にならない嗚咽を交えながら。



  ……なんなんだ。何なんだ……コレ 




 いつものように森を探索していただけだった。

 急に霧が出てきたと思ったら、知らないうちに地球に飛ばされていた。

 


 言葉もわからず、人種も文化も違う、これまで辿ってきた歴史も違う。

 何一つ共有することがない世界で……私たちはなんとか受け入れられようと頑張ってきた。


  日本語を覚え、文化を覚え、礼儀を覚え、文句も言わずに言われるままに部隊にはいった。

 同じアルニア人でも、中には戦闘をしたことがない者だってたくさんいたんだ。


 地方で静かに農作物を育て生活していた者、交易で生計を立てていた者、学校で子供達に勉強を教えていた者もいた。主婦だっていた。



 それでも地球人に比べれば魔力の扱いになれている。

 ……だから、同郷の者達で必死に戦闘技術を教えあい、魔物被害で怯える地球人達のために最前線で戦ってきた。

 地球人達と同じように、ゴブリンにすら怯える者達だっていたけれど。



 それでも、アルニアから突前現れた私たちが、地球人に受け入れらる為には役に立たなければいけない。価値を認められなければいけない。


 だから、戦ってきた。地球人達の壁になって。



 それなのに……あんまりじゃないか……



 ……私たちの最期は、コレなのか? 私たちはなにか、それほどの罪を犯したのだろうか?

 


 もう、走る気力が抜けてきた。

 音を立てて自分の中の心が崩れていく気がする。


 目の前を走るドワーフが私に向かって怒鳴っている。腕を引かれている。

 それでも足が前にでようとしなくなっていた。その時ーー



 ーー私たちの側を何かの黒い大きな影が、連続で駆け抜けていった。



 続く魔物達の雄叫び。

 力なく顔を向けた。



 黒い大きな鳥のような生き物に人が乗っている。

 小柄だが子供なのだろうか? 

 

 その者たちの先頭を走る2人だけは、体が大きく額には見事な一本角が見えていた。

 よくみると口角が上がり、どちらも何処か笑っているような気がした。

 


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