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第78羽 方向音痴、真・学園ダンジョンに挑む! ナギサの拳とニニのケツ

 〜学園地下ダンジョン〜




     ぎゃあっ



      ギャアッ



       ぎゃあっ



 ドローンとの通信が途絶え、異常事態が発生してから数分後。俺達は順調に学園ダンジョンを進行していた。


 といっても俺はクロネを抱えているため、あまり激しい戦闘はできない。もっとも二人の目覚ましい活躍のおかげで殆ど出番はなかっただろうけど。



「平伏しなさい! "ジャッジメント・サンダー"!!」



   ギャァアアアッ


       ギャァアアアッ



 ニニの義手から放たれた魔法の雷が、鎧を纏った狼を穿つ。

 ハラジュクダンジョンで使っていた義手は魔法の出力の調整ができず、階層ボスもダンジョンの壁もなにもかもまとめて吹っ飛ばしてしまうようなシロモノだった。そもそも、敵に仕込まれたものだったしな。


 新しい義手はそこの使いづらさを改良し、通常の出力で出せるようになっている。ただそれだけではやはりロマンが足りないため、威力を上げて魔導砲のような事もできるようになっているらしい。かっこいい。

 手脚が巨大ロボのように変形する機能といい、この義肢の制作者はなかなか良いセンスをしているようだ。


「一匹通りましたわっ!」

「ま、任せてくださいっ……! 狼さ〜ん、こ、こっちで〜すよ〜っ♪」


 ピュィーッ。

 鎧狼に向かってナギサが指笛を吹いた。すると俺を狙っていた鎧狼が進行方向を変えて、彼女に突っ込んでいく。スキル"挑発"──敵のヘイトを買う、タンク職などで活躍するスキルだ。



   グルル……グァアアオ!!



 鎧狼のタックルがナギサに命中し、続けざまに鋭い牙が襲いかかる!


「て、てぇ〜いっ! "流水落"!」


 牙が食い込む寸前、鎧狼の胴はぐるりと回転し浮き上がる。そのまま背中から地面に叩きつけられ、霧になって消滅した。


 なんともはや、達人の演舞のように鮮やかな動作だ。

 俺が感心して見惚れていると、ナギサがおろおろとし始める。しまった、流石に注目し過ぎたか。


「ごめんなさい、あの、へ、へんだったでしょうか……?」

「いや。綺麗な拳だなって」

「ふえっ!? ……あ、ありがとうございますっ……えへ、えへへぇ……」

「もしかしてナギサ、武術とか習ってるの?」

「いっ、いえいえ! そ、そんな、武術だなんて御大層なものじゃないですっ……!」

「え? じゃあいったい──?」

「あ、アニメを見て真似てみたら、できちゃって……えへへぇ……」


 なるほどねえ、アニメを見て真似てみたらできちゃったのか──って、なんだそりゃ!

 "天才"というチープな表現しか思いつかない。けどたまに居るんだよな、そうとしか形容しようのない才能の持ち主が。

 流石は中等部代表に選ばれるだけのことはある。


「自分から前衛を買って出るわけだ。俺とも遜色なく戦えそうだな」

「えへへ……ぼ、ボクも先輩方に、良いところを見せたくって……えへへぇ……」

「ああ。カッコよかったよ」

「ふ、ふへへっ」


 口元を押さえてはにかむナギサ。まさかこんな小動物みたいな子の戦闘スタイルが、近接格闘だったとは。


 近接格闘といっても、ナギサは俺の戦闘スタイルとも少し違う。

 カラスキックや発勁の拳は、威力を相手に叩き込むタイプだ。それに対してナギサの技は相手の力の流れをズラして威力を返す、カウンターや合気道の技に近い。


 スキル挑発との相性も良く、そしてなにより、小柄なナギサにあっていると思う。


「お前もチビですわ?」

「んなこたぁわかっとるわ! 心を読むな!────それよりナギサ、怪我してないか? さっき突進食らってたろ」

「う、うん。でも、ダメージは受け流したから、へ、平気ですっ!」


 受け流したとはいえ、擦り傷ひとつ負ってないとは。見かけによらず、かなり頑丈みたいだ。


「だけどナギサの負担が大きくなってもよくないし、この辺で交代しようと思うんだが、どうかなリーダー?」

「ええ。わたくしもそれが良いと思いますわ」

「わ……わかりました! クロネ先輩は、責任を持って御守りしますっ!」


 俺は頼もしい後輩の手に、相変わらずすやすやと寝息を立てている最愛の黒猫を託す。


「ふみゃあん」


 クロネは小さく欠伸すると、ナギサの腕の中で小さく丸まった。


「クロネ先輩……かわいい……」


 眼をキラキラ輝かせるナギサ。

 わかる。わかるぞ。


 そしてそれを羨ましそうに眺めるニニ。

 わかる。わかるぞ。




 ────

 ──




 〜B39、深層〜



 約1時間が経過した。

 俺とナギサは10分毎にポジションを交代しつつ、ダンジョンを進んでいた。途中で一度ニニがクロネを抱こうとしたが、手の甲を引っ掻かれた。


「────だけど、妙だな」

「……うん。これ、どんどん、下に向かってますよね……」


 鴉帰りに従って進めば、ダンジョンの出口へ最短で向かう筈だ。つまり進めば進むほど下層、中層、上層と上がっていくのが普通なのだが、何故だかさっきからどんどん階層を下っている。恐らくは既に深層だ。

 なぜかここまでフロアボスは居なかったし、敵も他のダンジョンほど強くはなかったが。本当に出口に向かっているのか少し不安になる。


「ひょっとしたらあの休憩場所が、転移魔法陣以外では深層からしかいけない場所にあるのかもしれませんわね。仮にそういう作りの場合、一度深層を経由しないと帰れないでしょう?」

「な、なるほどです……それなら最短経路が下向きというのも納得です……! さすがニニ先輩っ」

「おーっほっほっほ!」


 あーなるほどなるほど。

 二人は納得しているようだ。

 

「えっと、ごめん。つまりどういうこと?」

「まず頭の中に地図をイメージしてくださる?」

「────頭の中に────地図を────???」

「…………できないんですのね」

「うん」

「ひとまず今はバカラスのスキルを信じて進めば問題ないですわ」

「さんきゅっ」


 どの道がどこに繋がっているとか、そんな複雑なことが理解できるなら方向音痴なんてやっていない。ここは鴉帰りとリーダーの判断を信じよう。うん。


「──っと。ボスフロアの扉か」


 目の前に、見慣れた鉄扉が出現する。順番的には、深層ボスのフロアだ。これまでの流れを踏襲するなら深層ボスは居ない筈だが、万が一を想像し緊張が走る。


「「「せーのっ!」」」


 全員で扉を押してみるが、ビクともしない。


「あれ? 開かないな?」

「いけバカラス! カラスキックですわ!」

「召喚獣かよ俺は?」


 文句を言いつつ扉を蹴ってみるが、跳ね返された。


「魔導砲撃ちますか?」

「やめとこう、地盤崩れるかもしれないし。それに多分こういうのは、開け方が決まっているタイプのギミックだ」


 全員でよくよく扉を調べてみると、ナギサが上の方に小さな鍵穴を見つけた。恐らくは鍵を探して、ここに持ってこないといけないという事だろう。面倒臭い仕掛けだな、なんて愚痴をこぼしていると──


「鍵ってもしかしてコレのことですの?」


 ニニがポケットから金色に輝く一本の鍵を取り出した。


「いつの間にそんなもの拾ったんだ?」

「拾ったんじゃありませんわ。ドローンと一緒に白鷺先生から受け取ったんですの」


 あーそういえば先生が"攻略のカギ"を渡すって最初に言ってたな。なにかヒントでもあるのかと思ってたが、正真正銘の鍵だったのかよ。

 これは試してみる価値はありそうだ。


「よっ、ほっ」


 鍵を持ってぼよんぼよんとジャンプするニニ。鍵穴は2メートル半くらいの位置にあるため、手を伸ばしただけではギリギリ届かない。


「もうっ! なんでこんな高いところに鍵穴があるんですの!?」

「やめとけって。無理矢理刺して鍵が折れたり歪んだりしたら詰むだろ」

「バカラス」

「俺が届くと思うか?」

「違いますわ。踏み台になりなさい!」

「……せめて靴を脱いでくれるなら」


 俺は観念して四つん這いになり、ニニを上に乗せる。

 相変わらずクソ重いなこんにゃろう。


「は、はわわ……が、頑張ってください先輩方ぁ……っ♥」


 ナギサはクロネをぎゅうっと抱えて、真っ赤になっている。 なに? いったいなにに興奮してるの? あとなんでちょっとニヤけてんの……?


「よしっ! 背伸びすれば届きそうですわね、ん〜っ」

「おいまだか?」

「急かさないでください、不安定なんですから──────キャンっ!?」

「え、どうし────うぎゃあっ!?」


 空から巨大な尻が降って来た。

 

「痛ってえ! 危ねえだろ!?」

「すみません急にカエルが────ってどこに顔を突っ込んでるんですのエロガラス!?」

「お前が! お前が俺の上に落下してきたんだよ!」


 真っ赤になりながら腰を上げるニニ。俺だったからよかったものの、あたりどころが悪ければ死んでるぞまったく──。


「見ました?」

「は? なにを? カエル?」

「ち、ちちち、違いますわよ、その、わたくしの、なんというか、下着的な」

「────────────見てねえよ」

「嘘ですわ! 嘘ですわ! 絶対見てますわ! なんですの今の間は!?

「う、嘘じゃねえって! 急だったし!」

「じゃあ何色でしたの!?」

「黒だろ!?」

「見てるじゃありませんの! 見てるじゃありませんの!!」


「お……おおお、落ち着いてください、先輩方っ……!」


 不毛な争いを止めてくれたのはナギサだった。

 ニニのせいで後輩に気を使わせてしまった。


「ごめんナギサ。──ニニ、もっかいトライするぞ。今度はカエルくらいでビビんなよ」

「わかってますわ────って」

「今度はどうした」

「鍵がありませんわ……」

「……落としたのかよ。仕方ねえな」


 どうせその辺りに転がっているんだろうと地面を見渡す。が、ない。岩陰などを見てもない。ポケットにでも入ったのかとひっくり返してみるがない。


「鍵の匂いで探せないの?」

「不思議なことに、途切れてるんですわよね」


 ダメ元で言ってみたのに探せる可能性があるのか。

 それより匂いが途切れてるって、どういう事だ?

 転移したのか、もしくは、なにかに飲み込まれた、とか──?


「……あ! あ、あのっ!」

「ん、鍵あったナギサ?」

「鍵じゃなくて、か……カエルさんがですねっ!」

「いやいや。カエルはいいよ」


 カエルで大騒ぎするなんて二人とも女の子だなあ。田んぼに行けばそこら中に居るのに。

 そんなことを考えながら、ナギサにつられて道の奥を見ると、一匹のカエルがぴょこぴょこと跳ねながら遠ざかっていくところだった。


 あれは確か、シーフロッグ。物陰から飛び出してアイテムを盗んで逃げていく、すばしっこいモンスター。


 ──つまり──


「これさっき授業でやったやつだ!」

「言ってる場合じゃありませんわ! 追いかけますわよっ!」

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