第74羽 方向音痴、学園ダンジョンに挑む! 新メンバーは中学生!?
〜B39教室〜
「よし、全員揃ってるな。それじゃあ実践前にあらためて説明するからな。皆、待ちきれないと思うがちゃんと聞いといてくれよ?」
2A担任兼ダンジョン学担当の白鷺先生の声が、地下施設内に響く。専攻生徒数は30名ほど、そこそこの人数だ。
「「「ヒャッハ〜待ちきれないぜえ〜!!」」」
世紀末と化した生徒達の前に、ガラガラと音を鳴らしながら移動式のホワイトボードが運ばれてきた。ナギサだ。
もしかしてナギサは先生の手伝いで呼ばれたのか? いや、それだけのためにわざわざ中等部の生徒を呼び出したりはしないよな。
「このダンジョンはクリア済みのダンジョンで、内部のモンスターも討伐済だ。しかしそれだけではただの地下通路と同じなので、先生が"ダンジョンマスター"の権限で弱いモンスターや命に危険のない罠のみ復活させている」
この学園地下にあるダンジョンは、かつて白鷺先生が攻略したものだ。ダンジョン出現時に災害のように巻き込まれ、がむしゃらに進んでいるうちに攻略したらしい。
"生まれたてのダンジョンだったのと難易度も低かったおかげで、運良く攻略できただけなんだけどな"と言っていたが、謙遜だろう。
「複数のチームにわけてダンジョン内を進みながら、罠の見分け方や注意が必要な敵なんかを紹介していく。各チームでコースが違うから、配信用のドローンを使って先生と中継を繋ごう。困った事があったら聞いてくれ」
「先生〜これ使ってダンチューブ配信するのはありですか〜?」
「こらこら。これも一応授業だからね、情報漏洩防止のために外部とは連絡できないドローンになっているよ」
「ぶ〜〜〜」「ケチ〜〜〜」
特に罠の見分け方なんてクロネに頼りっぱなしだし、自分でもできるようにならないとな。配信できないのは寂しいが、先生と連絡できるなら最悪遭難はしなくて済みそうだ。
「ただ経験者の人にとってはそんな簡単なダンジョンをただ進むだけなんて退屈かもしれないからね。チーム対抗戦として、最初にダンジョンコアまで辿り着いたチームに豪華景品を出す事にしようか」
「マジ!?」「センセー太っ腹〜!」
対抗戦に景品ときたか……そういう体育会系的なノリはあまり得意じゃないけど、折角なら頑張ってみるか。
迷子にならなければそこそこいい順位まで行けるだろう。迷子にならなければ。………………うん。なるんだろうなあ、きっと、迷子に。
「早速だがチーム分けだ。中継用ドローンの数に限りがあるから、3人組で適当にチームを組んで欲しい」
3人組かあ。
「だそうですわ。ついてきなさいバカラス」
「は? なに言ってるにゃ。ご主人がお前と組む分けないだろにゃ。乳豚はほっといて他のメンバー探すにゃ♪」
「はあ〜? なんですの腹黒猫、バカラスはわたくしの下僕なんですわよ? いわば、わたくしのものですわ♥ わたくしのものですわ♥ というわけでお前こそすっこんでなさい」
「ご主人はうちのご主人で恋人にゃ!」
「わたくしの!!」
「うちの!!」
クロネとニニはまた喧嘩を始めてしまった。なんでだよ仮に組んだとしても丁度3人だろ。なにを争ってんだよお前ら。
「わたくしのですわ……!」
「うちのにゃあぁ……!」
2人が言い争っている間に、他のクラスメイト達はすっかりチームを作り終えてしまっていた。
「ほら座れ、な?」
「にゃぁ……」「ぶぅ……」
2人を宥めて座らせる。不安はまだ目いっぱい残るが、決まった以上はこの3人で行くしかない。この2人がもうちょっと仲良くしてくれると助かるんだけどなあ。
「それじゃあ無事にチーム分けも済んだところで、最後に皆に紹介しよう。さっきから先生の後ろに隠れているこの子だが──小井戸・渚。中等部生だ」
先生に肩を押され気味にして、ナギサが前に出てくる。先生に紹介されるって事は、やっぱりなにか特別な事情でもあるのだろうか。
「小井戸には皆と一緒にダンジョン学を学んでもらう事になった」
ざわつくクラスメイト達。
無理もない。俺も少しばかり驚いた。
まだ中等部だろ?
確かにこないだ、探索者として深層に居たけど。
「実を言うと、ダンジョン学の専攻ラインを来年からは中等部まで引き下げようという話が出ていてね。小井戸は入学時の試験でダンジョン探索者の適性が非常に高いとわかったから、テストも兼ねて参加して貰うというわけさ」
「ま、まめいど、なぎさです! よ、よよよ、よろしくおねがいしまひゅっ」
あ。噛んだ。盛大に噛んだ。
そこかしこからクスクスと笑い声があがっている。
あいつ、かなり緊張してるみたいだな。
……こんなんでダンジョンなんか連れてって大丈夫だろうか?
「じゃあ小井戸は骸屍達の班に入ってくれ」
「へ?」
先生から急に名指しで指名され、素っ頓狂な声を出してしまう。てっきり先生と一緒に回るのかと思っていた。
「骸屍はこの中じゃ一番経験豊富だし、小井戸とも顔見知りのようだからな」
「それはそうですが──」
「それと、クロネは一応備品だからな。小井戸が入れば丁度3人班になるだろう?」
「そういえばうち、備品だったにゃ」
ただでさえクロネとニニのチームワークが不安なのに、後輩を連れていってもしなにかあったらと思うと、気軽には引き受けられない。俺の迷子に付き合わせる事になるかもしれないし。
「う〜ん……」
ちらりとナギサの方を見ると、潤んだ瞳で、期待が籠った視線を送ってくる。まるでペットショップで前を通り過ぎようとしているお客さんを引き止める仔犬のように。
この瞳を裏切るわけにはいかない。
「わかりました、出来る限りサポートします」
「そうか、助かる!」
折れてしまった。
だけどこれで良かったんだ。ナギサには、中等部棟で迷子になっていた俺をここまで案内してもらった恩もある。
ナギサはとてとてと俺達の方に小走りで寄ってきた。
「ご、ごめんなさい先輩方っ! ご迷惑をおかけしますっ!」
そう言って頭を下げるナギサ。
こちらこそよろしくと言って、俺の隣に座らせた。
「ふーん、ちっこいですわね。バカラスと同じくらいですわ」
「いま遠回しに俺のことチビって言った?」
「せいぜい足を引っ張らないでくださいね? わたくし、脚ありませんけど」
「反応しづらい自虐ネタやめてくれるか?」
こいつちょっとメイに似てきてないか? ニニのウザ絡みに困っているナギサの後ろからクロネが飛びつき、肩に腕を回す。
「また会えて嬉しいにゃっ、ナギサちゃん」
「ひゃい! え、えへへ……ボクもです。クロネ先輩も、相変わらず可愛らしいですねぇ……」
「にゃらはははっ、それにしても中等部代表なんてすごいにゃ、立派だにゃ〜」
「ひええっ、ぼ、ボクなんかがごめんなさいぃ」
「いやいや自信持つにゃ!」
「えへっ……えへへぇ……」
クロネとナギサは久々の再会を喜び、和やかに会話しているようだ。
──そういえばナギサを助けるときに、クロネがあいつの知り合いのイジメっ子を殺したって聞いたけど──
ナギサはクロネに頭を撫でられてへにゃへにゃになっている。あんまり気にしてないみたいだな。あれで案外、肝が据わってるのか?
「よし、これで10チームが完成だな。ドローンと"攻略のカギ"を渡すから、各チームでリーダーを決めて取りに来てくれ」
リーダーか、それはまた面倒臭そうな……。
「は〜い♪ わたくし! 当ッ然わたくしがリーダーですわ〜!」
「どうぞどうぞ」「どうぞにゃ」
どうやらニニが引き受けてくれるらしい。やりたいならやらせてやるか。モチベは高い方がいいしな。
ニニは先生からドローンを受け取ると、ふふんと得意気に帰ってくる。……なんだろうこの顔。もしかして褒めてほしいのかな?
「いよいよダンジョン実践の開始だ! 先生はダンジョンコアのところに行っているから、チーム毎にドローンの指示に従って進むように!」
「「「は〜〜〜い」」」
「ちゃんとドローンで見てるから、危ないことはするんじゃないぞ?」
そう言って先生は奥の扉へ姿を消した。恐らくダンジョンマスターの権限を使って、扉の先をダンジョンコアのフロアに繋げているのだろう。便利だな。
それからすぐに、各チームに配布されたドローンが順に開始の合図を告げる。
どうやら俺たちのチームは、最後の出発らしい。他のチームが施設内の扉や通路に消えていくのを見守っていくと、最後に残ったのは俺達4人だけになった。
『そろそろいいか、二二のチームも出発してくれ』
ドローンから先生の声が聞こえる。
「いきますわよっ、目指すは優勝あるのみですわ! えいっ、えいっ、お〜!」
「応!」
「お、お〜……!」
「…………………お〜、にゃ」
ニニの音頭で、俺達は揃って右手を高く掲げた。
「声が小さいですわよ腹黒猫?」
「ノッてやっただけありがたく思えにゃ乳豚!」
…………大丈夫だよな? うん。




