第64羽・幕間 方向音痴、クロネといちゃいちゃラブラブ甘々デート!? 俺の彼女が可愛すぎる件 1
まずは、ハラジュクダンジョンから脱出した後の話をしよう。
ニニは、あれからひとことも言葉を発さなかった。
両脚の動かないこいつを放置するわけにもいかず困っていたが、メイドローンを帰宅モードにする事でなんとか夕方にはニニの家に辿り着く事ができた。
童話に出てくるような、白い大きな屋敷だった。
インターホンを押したが誰も出なかったため、ニニから鍵を受け取って家に入る。大きな屋敷の中には誰も居らず、机の上に一枚の手紙が置かれていた。
手紙には義手が壊れた時のために、信頼できるドクターを手配したということと、その連絡先が記されていた。それから生活に必要な最低限の指示が添えられていた。
家族は、居ないのだろうか?
これはメイが、ひとりになるニニのために遺したように見える。だとしたら、やはり彼女はここに帰ってこられないことを予期していたのかもしれない。
ドクターは事前にメイから話を聞いて、報酬も受け取っていたらしい。家に来た医療チームの方が、少しの間ニニを病院で世話してくれる事になった。
それから他の者達は、メイが寿退職して実家に戻ると聞かされていたようだ。
メイが死んだことは、誰にも伝えてない。
肩の荷が降りた気はあまりしない。
けど、俺達に出来ることもそう多くはない。
あとはニニ次第だ。
〜数日後、ネズミーランド〜
「ご主人ご主人っ! 次アレ乗りたいにゃっ!」
「ははっ、あんまり走るとポップコーンこぼすぞ」
俺とクロネは、休日を利用して近所にあるテーマパークに来ていた。ちなみに今日のクロネはほんわかした女子大生を思わせるカジュアルファッションだ。かわいい。可愛すぎる。好き。
──ハラジュクダンジョンでは色々あったが、晴れて俺達2人は、恋人同士になった。
俺も、ここに入るのは初めてだ。最初こそダンジョンに比べれば大した事ないのではと思っていたが、なかなか凝った作りで驚かされた。
なによりアトラクションにはしゃぐクロネを見られただけでも、高い入場料8000円を払ったかいはある。ネズミのキャラクターを見るとき、たまに捕食者の目になっているのは気がつかない事にしよう。
「ご主人ご主人っ♪」
「なあに、クロネ?」
「はいっ♪ ポップコーンあ〜ん♥」
「あ…………あ〜ん」
行列に待っている最中、クロネから甘ったるいポップコーンを口に放り込まれる。これ、かなり恥ずかしいんだけど大丈夫か? けど他のカップルも似たようなことやってるし、恋人ならこれくらい人前でやっちゃうのは普通なのか??
▽『見せつけてくれますなあ』
▽『幸せのお裾分けか〜?』
▽『ヒューヒュー!!』
▽『てぇてぇ』
ちなみに新しく購入したドローンで配信中だ。
俺達以外にはモザイクがかかるようAIで処理ができるらしい。電気屋の人がやり方を教えてくれた。
前回のダンジョンではリスナーのみんなにも迷惑かけたし中途半端に配信が終わってしまったりしたので、お詫びも兼ねている。
あとはテーマパークで迷子にならないようにというクロネのアドバイスだ。
なんか保護者同伴みたいで変な気分だが、こういうのも悪くはない。
「クロネ、クロネ」
「どうしたにゃ? ご主人?」
「はい、お返し。あ〜ん」
「ご主人!? にゃ……あ〜ん♥」
▽『カウンターきちゃ!』
▽『カラスくん積極的になって』
▽『クロネちゃん赤くなってるじゃん』
▽『押されると弱いタイプか?』
▽『二人とも可愛い……ずっと眺めていたい……』
俺もだよ。
クロネのこの顔を、ずっと眺めていたい。
ずっと、守ってやりたい。
そのためなら俺は────
「にゃるふふっ♪ ご主人のくれたポップコーン美味しいにゃ♥」
「味は変わんないだろ?」
「ご主人の愛情が感じられるにゃ♥」
「ポップコーン屋さんの愛情もな」
これで良かった。
クロネの向日葵のような笑みを見て、改めてそう思う。
そう。これで良かったんだ。
──良かったに決まってる。
「お〜いお待たせ〜ササキ! なに昼間から盛ってんだよ!?」「すぐ乗れるじゃん! マジ助かる〜!!」「ぎゃはははは!!」
いよいよ俺達の番というときに、ガラの悪いキッズの群れが列に割り込んできた。
ひぃふぅみぃの……20人くらい!?
20人乗りのアトラクションだからまるっと埋まってしまう。
「あ……あのっ、すみませんお客様……全員揃ってからお並びいただくようお願いしておりますので……」
「ああん!? 黙れよ陰キャが!!」「マサくんカッコいい濡れる〜」「ぎゃはははは!」
係員の人の制止も聞こうともしない。ダンジョンの外にも中にも、マナーの悪い連中は居るもんだ。
「みんなごめんな、次にするわ」
▽『カラスくんが謝ることじゃないよ〜』
▽『てかなにこいつら』
▽『せっかくの気分が台無しだわ』
これくらいの事にいちいち気を荒立てても仕方ない。
どこにでもいる普通のトラブル。
普通の空気読めないキッズだ。
命の危機もない。むしろ微笑ましさすら感じる。
「ねえなんか熱くない?」「これ終わったら酒飲もうぜ! 俺ら未成年だけど!」「ぎゃははははは!!」「つかさっきから猫の鳴き声聞こえね? マジうっせえ」「ハァ〜うっせえうっせえうっせえわ」「古ッ!!」「……え? もう古いの……?」「ぎゃはははははは!!」「なあこのコースターなんか変じゃね?」
………………。
「………………クロネ……?」
「にゃらははは♪ いくらうちでも、これくらいのことで殺したりしませんにゃ♪」
「そ、そっか。よかった。疑ってごめん」
「あんな小物の命をご主人に背負わせるわけにはいかないにゃ♥」
"クロネの罪や呪いは、俺も一緒に背負う"
俺のあの本気の言葉は、どうやらクロネの殺人スイッチへの抑止力になっているらしかった。
これもきっと、良かったことのひとつだろう。
たとえ何人殺していようと、俺はクロネが好きだ。けど殺さなくていいのなら、殺さないでいてほしいと思うのも事実だ。
「なにこのギィイイって音!?」「ほんとにうるさい!!」「黒板引っ掻く音が頭の中で鳴ってる!」「た、助けてくれえ! 俺のゆ、指が少しずつ、変な方向に曲げられてく」「うえっ……げええっ!?」「なんでお前ネズミの死骸吐いてんだよ!?」「おい止めろ!もう止めろって!」「やっぱ降りるわ俺──熱っ!」「ベルトが熱くて外せねえ!か、金具に手がくっついて離れねえ!!」
「にゃるふふっ、心臓の弱い方はご注意くださいにゃ〜♪」
悪戯っぽくアナウンスを真似るクロネ。かわいい。
キッズ達を乗せたコースターは、緩やかに地獄に向かってスタートしていった。
それから数分後。
戻ってきたキッズ達は、全員の髪が真っ白に染まっていた。誰ひとり口を開かず、よろよろと這うようにコースターから降りて、そのままテーマパークの出口に向かって逃げるように帰っていった。
「お帰りはあちらですにゃ〜♪」
▽『なんかよくわからんけどざまあ』
▽『ざまあ』
▽『ざまあ』
▽『ざまあ』
正直スカッとした。
これくらいならいつでもやってくれ、クロネ。
「勝利の舞だにゃ!」
にゃにゃにゃ〜ん♪
にゃんにゃ〜ん♪
にゃにゃにゃ〜ん♪
にゃんにゃ〜ん♪
手摺の上でダンスを踊る猫幽霊さん。
かわいい。
▽『かわいい』
▼『かわいい』2222円
▼『かわいい』2222円
▽『かわいい』
▼『かわいい』2222円
▽『かわいい』
それから俺たちは、"普通のコースター"を存分に楽しんだ。
「お客様……あっ、ありがとうございました!」
コースターから降りようとしたとき、スタッフのひとりが近寄って決てクロネに頭を下げた。
──もしかしてこの人、さっきのイタズラ、クロネがやったって気づいてるのか? ──あれ? っていうか、この人どこかで見覚えが──
「……ま、また助けられちゃいましたね……えへへ……」
「もしかしてハラジュクで会った子にゃ?」
二人の会話で思い出した。ハラジュクダンジョンの深層で、ボスの大目玉に襲われていた少女をクロネが逃したと聞いたんだった。まさにいま目の前にいる、本人から。
テーマパークの制服を着ているので、最初はわからなかった。
「ここでバイトしてるにゃ?」
「は……はいっ! えへへ、ぐーぜんですねぇ……」
「偶然にゃ!」
バイトをしながら探索もやってるのか。
立派だな。
「あ……あの、それで、ボク! クロネさんに……助けて貰ったお礼をしたくて……」
「にゃらはははっ、そんなの構わないにゃ」
「い……いえ! ボクの精一杯の気持ちですからっ」
そう言って少女はポケットから2枚の紙を取り出し、半ば押し付けるようにしてクロネに手渡した。
「こ……このテーマパークに隣接した……リゾートホテルのペアチケットですっ!」




