#99 儲かった、海路 4
(待ってくれ!あんたのいう事を何でも聞く。命だけは助けてくれ)
この大海蛇は先制攻撃を仕掛けてきたり機転が良かったりしたんで知能は高いと思っていたが念話が出来る程の自我もあったんだな。
これまでも自我のある魔物から何回か命乞いをされて止めを刺さなかったし、この海蛇が特に憎いという訳でもない。
これから海運に関わるんなら海に強い眷属がいれば使役している魔物という形で役に立ちそうだし、大人しく俺に従うんなら止めを刺すのは止めようか。
(分かった。助けてやってもいいが、条件がある。俺の眷属になって配下には入れ)
一旦力を加えるのをやめて答えてやったら、即大海蛇から念話が返ってきた。
(助けてくれるんなら文句はねえ。あんたの配下になるよ)
(いいだろう。これからお前を眷属化する。少しでも抵抗するようならこの話はなしにするからな)
念話を閉じ眷属創操のアビリティを起動して眷属化のため魔力を流し込んでいく
大海蛇は抵抗せずに受けいれ問題なく眷属化を終えられたんで、締め上げていた腕を離しついでに首につけた傷も魔術で直してやった。
(助けてくれて感謝しますよ。魔人様)
(そういやまだ名乗ってなかったな。俺はリクっていう。まあ、ちゃんと俺を敬うならどう呼んでくれてもいいんだがな。で、お前にも名前はあるか?)
(俺はザシルトっていいます)
(ザシルトだな。じゃあ、最初の命令だ。お前の方が俺より泳ぎが上手いかな、さっきお前がいた所まで俺を運んでくれ。ただし洞窟に入るまで海上に出るなよ)
(了解。好きな場所に乗って下さい。飛ばしますからしっかりつかまっていて下さいよ)
ザシルトの勧めに従い掴み易そうな突起がある顔の上に乗って、その突起を掴むと同時に全力で泳ぎ始めた。
ザシルトの速さは戦闘時にも感じた通りかなりのものであっという間に洞窟の水路へ飛び込み分岐でも迷う事無く瞬く間に奥へ進んで行く。
すぐにティータとティーエの気配も近づいてきてザシルトの乗ったまま二人の近くで水路から上がるとその二人がとっさに構えを取ったんで手を挙げて制止した。
「大丈夫だ。こいつはもう敵じゃない。命乞いをしてきたんで許して眷属にした。仲良くしてやってくれ」
(ザシルトだ。これからよろしくな、お二人さん)
「私はティータといいます。」
「ティーエです。こちらこそよろしくね」
3名が挨拶を交わしている間にザシルトから飛び降り、格納領域へ仕舞っていた楔を取り出して最適な場所を確認し地面へ差し込んだ。
新しい楔も機能し始めたしこれで最低限やるべき事は終わった。
だがもう外は日が暮れていたし朝までにはアリス嬢の船へ帰らないといけない訳で、追加してやれる事は限られているな。
魔物もまだ残っている筈だが、あとは眷属を転移で呼びよせて掃討してもらおう。
水に強いネイミにマドラや洞窟という狭所なんで足の速くないハックやロックガーディアン達の狩場に丁度いいはずだ。
となるとボボス村の連中がここに近づかないようにしておかないといけないな。
まず必要になればまた開ければいいんで出入り口は塞いでしまおう。
あと魔物はもう湧いてこないと思わせる話を付け加えやればいい。
話に説得力を持たせる材料もあるし、余程の物好きでもここへ近づかないだろう。
残り時間もあんまりないし、早速楔の転移機能でギャルドにハックとロックガーディアン達を連れてきた。
ついでにトロスの借家にも転移してみたら深夜近くだというのにクライフとミシェリさんは喜々と研究をしていて、近況を聞いてみたが特に問題は無さそうだった。
俺が洞窟へ戻るとザシルトとの挨拶は終わっていて、ロックガーディアン達には一団で洞窟内に残る魔物の掃討を始めてもらう。
俺達はギャルドとハックを加えて出入り口へ向かって歩きだした。
ギャルドにはあとでマドラが来て暴れても崩れないよう移動しながら俺達と一緒に洞窟を補強してもらう。
ハックには俺達が洞窟を出た後でギャルドが単独行動にならないようついて来てもらった。
魔術で補強工事をしながらの移動だったんで結構時間が掛かったが、まだ外が暗いうちに出入り口付近まで戻ってこられた。
正体がばれないように魔術を使い易かった精霊石体から超人体へ体を換装する。
ギャルドには崩す部分以外の出入り口付近を入念に魔術で補強してもらい、俺はティータとティーエにザシルトを連れ洞窟を出た。
出入り口の天井部分に魔術を撃ち込んで埋め、大丈夫だと気配で分かるがそれでも念話でギャルドとハックの無事を確かめてから洞窟を離れた。
まだいるか少し心配だったがボボス村の男達は夜番を立てて律儀に洞窟を見張っていたようで、ザシルトも連れて近づき驚いている彼らに声をかけた。
「見ての通り魔物の巣になってた洞窟は潰してきた。これでもう魔物に漁を邪魔される事は無いぞ」
「それは見てたから分かるが、そのデカい魔物は何だ。それに洞窟の中に魔物が残っているんじゃないのか」
「こいつは使役すれば使えそうだったんで叩きのめして服従させた。あと魔物の残留も心配ない。どうやらあの洞窟にいた魔物達はこいつが率いてたみたいでな。俺達を仕留めようとこいつが襲わせてきた魔物は全部仕留めたし、こいつを服従させたあと手下だった魔物達へ洞窟から出るよう指示させたからな」
こんな説明はしたが実をいうと事実とは違ってる。
洞窟を移動中に補強工事の片手間に聞いてみたんだが、ザシルトはこことは違う海底の巨大な瘴気泉で生まれたそうだ。
その頃から今と変わらぬ自我や力があったようで、生まれた瘴気泉にはもう強大な魔物が君臨していたんで他の瘴気泉を探して旅に出たそうだ。
喧嘩を売ってくる他の魔物を蹴散らしながら海原を彷徨いっていたが、しばらく前にあの洞窟の瘴気泉に気づいて住み着いたらしい。
他の海蛇や海蜥蜴達はザシルトが瘴気泉を制圧してから生まれ始めたようで、最低限の集団行動が出来ていたのもザシルトの影響みたいだ。
まあこの話はボボス村の連中が知らなくていい事だ。
「これで俺達の仕事は終わったんで引き上げる。その目で見た事や俺の話を村の他の連中へちゃんと伝えてくれよ」
最低限の説明もしたし俺達は先に帰ろうとしたら、村人の一人が食ってかかってきた。
「ちょっと待て!あいつらは元からあんたが使役していて俺達の村を襲ったんじゃないだろうな!」
「冗談にしても聞き捨てならないな。じゃあなんで洞窟から出ていた蜥蜴は問答無用で俺達に襲い掛かってきた。元から俺達が使役してたんなら在りえないだろうが。それにお前達から報酬なんてもらってないんだから、倒した魔物をどうしようと俺達の勝手だろう。言い掛かりをつけられる覚えなんてない。俺達に喧嘩を売ってるのか」
流石に少しカチンときて魔力を纏って一歩踏み出したら、文句をつけてきたのとは別の奴が慌てて前に出てきた。
「待ってくれ。あんたの言い分の方が正しい。ただこいつは漁師の兄弟をここの魔物達にやられていてな。その親玉が目の前に現れて且つ無事なのが許せなくて頭に血が上ってあんたに突っかかったんだと思う。冷静になれば自分が馬鹿な事を言ったと分かるだろうし、きちんと言い聞かせておく。手前勝手だと思うがさっきのこいつの言葉は水に流してくれないか?」
確かにさっきの言葉に腹は立ったがここでこいつ等と揉めて得になる事は何もないか。
けど同じ話を繰り返させないよう釘は刺しておくべきだな。
「いいだろう。さっきそいつが言った言葉は聞かなかった事にしてやる。ただし2度目は無いからな」
「こっちもそれ位は分かってる。あんた達と揉めるつもりはないし、あとここで見た事やあんたの話もきちんと村へ伝えておくよ」
一応最低限の言質は取ったし、これ以上ここにいる必要はないな。
また言い合いになっても面倒だしさっさとここを離れよう。
海岸沿いを歩くとボボス村連中と同じ道を行く事になりそうなんで、ティータにティーエと一緒にザシルトの上に乗って海へ出た。
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今週の投稿はこの1本です。




