#98 儲かった、海路 3
案内役に指名した男の先導でボボス村を出て海岸沿いを30分以上歩くと隠れて前方をうかがう2人の男がいて案内役の男が声をかけた。
どうやらこの二人は問題の魔物の巣を監視していたみたいだ。
巣の場所を聞いてみると監視役の男の一人が指を指した。
その先へ視線を向けてみると岩場に大きな洞窟が口を開けていて、その周りに成人男性を上回る体高をした2匹の海蜥蜴がたむろしていた。
ここからの見立てだがあの海蜥蜴2匹位は楽に潰せそうだし、時間も限られているんだからさっさとあの洞窟へ踏み込もう。
足手纏いになるからここで待っているよう村の男達には告げたんだが明らかに不服そうで、俺達についてくれば命はないと念押ししておいた。
村の男達はまだ不服そうだったがちゃんと命は惜しいみたいで、洞窟へ向けて歩き出す俺達については来なかった。
一応大型の魔物が相手なんで魔力を纏って力を底上げした俺が先を行き、ティータとティーエには精霊術や魔術を準備して後に続いてもらう。
掃討が目的な以上隠れてやり過ごす意味はない訳で堂々と洞窟に近づいていったら、ただうろうろしていた海蜥蜴たちも俺達に気づきためらう事無く襲い掛かってきた。
先に俺へ食いつこうと口を開けて突っ込んでくる海蜥蜴の下あごを踏み込んで蹴り上げ、無防備にさらされた首を居合抜きの一刀で両断する。
斬り飛ばしたその海蜥蜴の頭が地面へ落ちる前にもう一頭が横から回り込んで爪を振り下ろしてきた。
勿論もう一頭の動きも気配探知で感じ取れていたんでその一撃を飛び上がって躱し、上から隙だらけな首筋へ刀を振るって魔力の刃を飛ばし頭を落として仕留めやった。
驚愕してこっちを見ている村の男達が余計な欲になられないよう、2頭の海蜥蜴が魔石と素材に変わるのを待って回収し洞窟へ足を踏み入れた。
中に入ってみると洞窟内はマドラやタリンダでも十分に動けるほど広く、床の一部は窪んで海水が流れ込む水路になっており奥へと続いている。
その水路を伝って早速洞窟の奥から近づいて来る魔物の気配を気配探知で捉えた。
ここを監視している村の男達の視線はもう切れているし、良い機会だから水中戦を試しておこうか。
となると瞬時に水を沸騰させる熱気を纏う溶岩体や金属の装備を身に付ける超人体だと水中は不向きだろうから、体を精霊石体へ換装する。
ティータとティーエには水上で警戒しながらもしもの時の援護を頼んで、念のためウォルトも召喚して一緒に水路へ飛び込んだ。
溶岩体や精霊石体だと呼吸が必要ないと分かっていたんだが、水中で息をしなくても苦しくないのはちょっと不思議で、まあ溺れる心配がないのはありがたい。
普通に泳ぐよりウォルトとティータやティーエに倣って魔術や精霊術で移動した方が水中では自由に動けそうだ。
色々試していたら捕らえていた魔物の気配が一気に加速して、かなりの速さで突っ込んできた大きな海蛇が俺に噛みついていた。
流石に水中では避けられず、魔力を纏わせた腕を差し込んで盾にし首へ噛みつかれるのはなんとか防げた。
それでも体当たりの衝撃までは殺せず、海蛇に水路の底へ押し付けられてしまった。
(ご無事ですか?リク様)
(大丈夫だ、心配ない。こいつじゃ俺には傷をつけられないみたいだ。俺の方より自分達の安全に注意してくれ)
(分かりました。援護が必要でしたらその時は命じてください)
了解と返事を返して念話を切った。
念話でティータに答えた通り海蛇の牙は俺の体に歯が立たず、毒を纏っていそうなその牙は魔力を纏わせた俺の体表を滑っている。
代わりに俺の手を噛み砕こうと顎に力を込めてきたが、それもすぐに無理だと思ったようで体を俺に巻き付け締め上げてきた。
けどそれも俺の精霊石の体には大した効果は無く、これ以上この海蛇に構っているとティータやティーエにいらない心配をさせそうだ。
単純な力も俺の方が強そうなんで強引に海蛇の拘束を振りほどき、噛みつかれていない手に魔力を纏わせた手刀で首をはね海蛇の頭を落として仕留めた。
水中でも最低限の戦闘は出来るみたいだし試しはここまでにしておこう。
倒した海蛇の死体を持って水路から上がりティータやティーエに無事な姿を見せて心配してくれたのを感謝した。
水中戦の試しも済んだし時間も十分にはない訳でここからは手間を省いた効率重視でこの魔物の巣を制圧していこう。
まず瘴気泉を確保し楔を打ち込んでから船が出港する時間一杯まで魔物を掃討して、後は楔の転移で呼び寄せた眷属達にここを管理してもらえばいいな。
ウォルトには水路に残って水中の警戒をしてもらい、瘴気泉を探すため新しい楔を作り出した。
次はその瘴気泉へ着くまでの魔物対策に水中の敵にも対応できるよう相性の悪くない土精霊のラザを召喚し精霊武装で威力を重視した精霊機関銃になってもらった。
今やっておける準備はこれ位だし、あとは行動あるのみだ。
楔のナビゲーション機能を起動してラザの精霊機関銃を手に移動を再開した。
洞窟を奥に進むにつれ鉢合う魔物は増えていくが、水中にいようと関係なく射線が通った瞬間から土の精霊弾を絶え間なく撃ち込んで近づかれる前にハチの巣にした。
洞窟を進む途中で幾つか分岐にも当たり、一度だけ奥へ続く道が酷く曲がっていて先に魔物がたむろしている行き止まりに続く方を選んでしまったが、後は迷わず瘴気泉があると思われる場所へ大分近づいて来た。
ここまでほぼ迷わず魔物の排除も楽に済み、無自覚の内に気が緩んでいたんだと思う。
瘴気泉があると思われる方向に大物の魔物がいる気配を掴んでいたのに、相手に遠距離攻撃手段がある可能性を考えもせず無造作にその大物と向き合ってしまった。
射線が通ったと同時に俺はラザの精霊機関銃を構えたが、捕らえていた気配の主であるこれまで仕留めたやつの数倍はある大海蛇も俺に向けて口を開いていて、土の精霊弾を撃ち始めると同時に向こうも水のブレスを撃ち出してきた。
威力では負けていないと思うが質量差が圧倒的だったみたいで、正面からぶつかり合った土の精霊弾を飲みこんで大海蛇の水ブレスが迫ってくる。
咄嗟にティータとティーエを水ブレスの射線外へ押し出し精霊石体に纏う魔力を多少は底上げ出来たがまともに水ブレスを食らってしまった。
俺の防御力が水ブレスの威力を上回ったみたいでダメージはほとんどないが、水の勢いに押され姿勢を維持しラザの精霊機関銃を手放さないのが精一杯で身動きできない。
5〜6秒程水ブレスに耐えて勢いが弱まり途切れた瞬間反撃に出ようとしたが、もう大海蛇が口を開けたまま目の前に迫っていた。
恐らく水ブレスを吐きながら突撃してきたんだろうその大海蛇が体当たりしてくるスピードに避ける間もなく両腕を抑え込まれるように上半身へ噛みつかれ、勢いも殺し切れず押し込まれる形で水路へ引き込まれてしまった。
水の中に落ちた瞬間から俺の体を噛み砕こうと大海蛇は顎に力を加えてくるが同時に俺を咥えたまま水路を物凄いスピードで移動していく。
どこへ行くつもりか分からないが大人しく連れて行かれるつもりはない。
どうやら大海蛇の顎の力より俺の体の硬さと腕力の方が少しは上回っていたみたいで、ゆっくりとだがラザの精霊機関銃の銃口を動かし大海蛇の喉の奥へ向けた瞬間、大海蛇は頭を振って咥えていた俺の体を放した。
狙いを外され舌打ちしたくなるが、そんな間も無く大海蛇に運ばれていたスピードのまま何か硬いものに叩きつけられてしまう。
衝撃を抑え込みすぐに泳ぎ去っていく大海蛇を目で追いながら周囲の様子を確認すると狭い水路の底じゃなく開けた海底だった。
どうやら狭い洞窟の奥から広い海中へ引っ張り出されたみたいだ。
となるとボボス村のあの男達の視界に入る可能性が出てくるな。
もう日は暮れているみたいだが、海上や海面近くで戦闘は避けた方が良さそうだ。
(ご無事ですか?リク様)
(ティーエか、俺は大丈夫だがまだ戦闘中だ。あの大海蛇を仕留めて戻るからお前達は瘴気泉を確保しておいてくれ)
(分かりました。十分気をつけてくださいね)
そう念話をしている間に俺から距離を取った大海蛇が槍や斬撃のような水魔術を撃ち込んでくる。
だが水路を運ばれている時から追いかけてくれていたウォルトが間に入って無害化してくれ、俺はラザの精霊機関銃を大海蛇へ向け精霊弾を撃ち込んでいく。
水中で弾速が上がらず簡単に避けられてしまうが連射している内に大海蛇の回避が予想出来てきて狙いが絞れてきた。
大海蛇の方も自身の魔術に効果がなく俺の狙いが正確になってきていると敏感に感じ取ったようで手を変えてきた。
連続して俺が撃ち込む精霊弾を紙一重でかわしながら大海蛇が突っ込んで来て、口の上についてる角かヒレのような突起を立てて体当たりしてきた。
空いている腕でブロックは出来たが勢いや体重差に加えて不慣れな水中戦でもあり踏ん張れず弾き飛ばされてしまう。
一方大海蛇の方は俺に体当たりした反動を利用して方向転換しながら再加速し、ラザの精霊機関銃の死角に回りこんで再度体当たりしてきた。
その体当たりも身に纏う魔力を増してほとんどダメージを受けなかったが、最初の体当たりの後とほぼ同じ行動を大海蛇が取り、ラザの精霊機関銃で狙うより早く動き続ける大海蛇から一方的な体当たりを受け続ける状況に陥ってしまった。
弾き飛ばされてはいるがこの程度の体当たりなら10や20食らおうと大したダメージにはならない。
けどこれが100,200となると馬鹿にならないだろう。
それに大海蛇の方から近づいて来るなら水中で高速移動がまだ出来ない俺にとっても都合がいいし、やりようはある。
何度目かの体当たりを腕でブロックし弾き飛ばさせはしたが体勢は崩されず大海蛇が一旦離れていった瞬間を狙ってラザに精霊機関銃から全身鎧へ変わってもらう。
同時に霊気を貯めて準備していた霊気具装を発動してラザの精霊鎧をさらに強化した。
その状態でウォルトの補助も受け再度体当たりを仕掛けてくる大海蛇へ瞬時に正対し、激突した瞬間に合わせ突起を握り込み大海蛇へ取りついてやった。
すぐに大海蛇も俺を引きはがそうと首を振ったり海底へぶつけたり擦りつけたりしてきたが、逆に海底へ押し付けられ密着度が増したのを利用して体勢を変え首へ取りついて締め上げてやる。
大海蛇はさらに暴れて俺を引きはがそうとするが、ラザの鎧の手甲部分を伸ばしながら拡大してより力を込めて締め上げてやると手応え的にもう少しで首を圧し折れるという所で大海蛇から念話が飛んできた。
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