#96 儲かった、海路 1
結構数が多い人の気配を気配探知スキルが無意識の内に拾って来る反応でゆっくり目が覚めてきた。
意識がハッキリした所でもう一度周囲の気配を探ってみたらかなりの数の人員が船内を行き交い、断続的に新たに乗り込んでもいるみたいだ。
昨日の夜は警備位しか船に人は乗り込んではいなかったんで、朝になって出港の準備が始まったんだろう。
となるとアリス嬢も既に乗船しているかもうすぐ乗り込んでくるだろうから、俺から出向いて報酬に関する契約書の件を出港前に片付けておこう。
格納領域へ納めていた食事をティータやティーエにも振舞って朝食を済ませて、あてがわれた部屋を出た。
一応アリス嬢を探しに行く前に襲撃犯の様子の確認に隣の部屋へ顔を出してみたが、無言で大人しくしていたとバルバス達が報告してくれた。
監視をしてくれていたバルバス達を労って軟禁部屋を出た後は看破眼で船内を行き交う水夫の内コランタ商会所属の者へ声をかけアリス嬢の居場所を聞いてみる。
俺達の話はきちんと周知されてたみたいで嫌な顔をせず教えてくれたその水夫によると、どうやらアリス嬢はもう乗船し上甲板で最後の荷の積み込みを監督しているそうだ。
教えてくれた水夫に礼を言って俺も上甲板へ出てみるとメリエラ女史を従え水夫の働きに目を光らせているアリス嬢がいた。
「朝から精が出るな。アリスさん」
「おはようございます、リクさん。メリエラから聞いています、昨晩からあの男の護送を始めて下さっているそうですね。ご配慮感謝します。それであの男はどんな様子ですか?」
「さっきも確認してきたが取り敢えずは大人しくしているな。あと最低でも常時2人俺の仲間が軟禁部屋にいる予定だから安心してくれ」
「そうですか。引き続きよろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ。で、出港の準備はどれ位進んでるんだ?」
「そうですね、乗員の乗り込みと荷の積み込みは今終わりましたから、荷の固定を済ませたら出港しようと思っています」
「順調そうだな、だったら予定通りに出港できそうだ。じゃあ、その前に昨日見せてもらった書類にお互いサインしておこうと思うんだが、どうかな?」
「こちらも異存はありません。メリエラお願いね」
振り向いたアリス嬢に頷き返したメリエラ女史が近くの船室へ俺達を先導して、そこにあったテーブルに2枚の書類を拡げてくれた。
念のため内容も確認してみたが2枚とも昨日と変わらず、メリエラ女史から手渡されたペンで両方ともにサインをしておいた。
おれが手渡したペンでアリス嬢も双方へサインするのを見届けて様式美だろうと思い一応握手もしておいた。
「これで正式に護衛契約成立だな。改めてパルネイラまでよろしく」
「こちらこそ宜しくお願いします」
書面の1枚を格納領域へ納め出港の準備に戻るアリス嬢達とはそこで一旦別れた。
あてがわれた船室に戻っても暇なので甲板の邪魔にならない場所から出港の準備を眺める事にした。
といってももう準備はほとんど終わっていたみたいで甲板に残っていた幾つかの荷を船倉に運び終えたら水夫たちが操船の配置に着き始めた。
暫くするとアリス嬢と一緒に甲板へ出てきた船長を任されていると思われる男が声を張って配置の最終確認をしていく。
それも終わると船長の男が上げた出港の掛け声と共に帆を張り、俺達も乗り込んだコランタ商会の船はゆっくりトロスの港から離れ始めた。
港を出た所で帆を調節し速度を上げた船はまず沖に出てそこから半島に沿うように進路を南へ変えた。
その間俺が何をしていたかというと、船首付近に移動して海の様子や半島の景色を見物している。
今後の海運へ関わるための知識として海路の地形情報は結構重要なんじゃないかと思ったからだ。
船首からの風景は直に見て完全記憶領域へ記録出来ているが、どうせなら岩礁の位置なんかの海中の様子も知っておきたい。
そう思って出港時から色々水魔術を試いているんだがここまではあんまり上手くいってない。
そこで目線を変えてみようと思いダメ元で水の精霊であるウォルトを海中で実体化してみたらこれが当たりだった。
どうやらウォルトは方法は違うがイルカやクジラみたいに海中の様子が手に取るように分かるみたいで念話を応用し俺もそれを感じ取れた。
おかげで海中の様子だけじゃなく海底の地形に岩礁の位置なんかも分かるようになったが、恩恵は他にもあった。
かなり広範囲の海中の様子が分かるようになったんで、昼を少し過ぎた頃に船へ近づいて来た魔物にいち早く気づけた。
大マグロよりも一回り以上大きく回遊魚のような魔物で船目掛けて突っ込んで来たが、水面へ浮き上がって来た所を気付いた段階から準備を始めた風魔術で仕留めてやった。
後で見張りについていた船員へ聞いたんだが、いつもは近づいて来るのに中々気づけず船体に穴をあけられたり甲板いる水夫を海中へ引きずり込む厄介なヤツだったらしくかなり感謝された。
他にも蛇のような魔物とイカのような魔物も襲ってきたが、幸い船の真下からは仕掛けてこなかったのでこいつ等も水面近く上がってきた所で仕留めてやった。
あと気になったのは沖に出てから風向きにそう変化がないのに帆の開きを変え頻繁に進路を変えていて不思議だったんだが、これは海中の様子が分かるようになると意味が分かった。
海面に出るかでないかギリギリの所まで海底から突き出ている海山もどきが進路上に幾つもあるようで、多分これらの場所が分かっていて避けていたんだろう。
そういえば以前ミシェリさんから同じような事を聞いた。
初日の航海中特別気になったのはそれらくらいで夕方になると帆をたたみ錨を下ろして停泊し魔物を警戒しながら一夜を明かした。
そんな風に船は日に2〜3度魔物の襲撃を撃退し細かく進路を変えながら5日程進み、その後半島に沿うように進路を西へ変えて1日ほど経った昼頃小さな漁村が見えてきた。
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