#95 舞い込んだ、指名依頼 7
俺がガディの警戒してくれていたテントの中で目を覚ますとドワーフ達も起き出している気配が拾えた。
丁度いいんで俺やガディの分の朝食も食材を渡して作ってもらう。
テントを片付けている間に出来た食事を持って来てくれ、ガディと食べながらこれからの予定を考えてみた。
あと残っている用事は傭兵ギルドから賠償金を受け取りだ。
確か今日が約束の3日目でこれを済ませてしまえばパルネイラ行きの準備はほとんど終わる。
きちんと今日中に片付けてアリスの方の準備を終わるのを待とう。
考えている間に平らげた朝食の礼をドワーフ達へ言って廃坑前を出発した。
ガディと2人なのでトロスへの帰りも早く昼前には街の門へ着けた。
昼ごろには借家にも戻れてティータとティーエが作ってくれた昼食を食べギルドへ向かう前の腹ごなしに一休みしていたら来客があった。
対応に出てくれたティータとティーエが俺を呼びにきたので、玄関へ顔を出したらアリスの侍女メリエラが頭を下げてきた。
「お邪魔しています。リクさん」
「ああ、よく来てくれたな。で、ここへ顔を出してくれたって事はそっちの準備が終わったのか?」
「はい。そのご報告とお約束していた報酬に関する書面をお持ちしたのでご確認ください」
メリエラが差し出してくる書面を受け取って目を通しながら、間繋ぎの意味もあって少し疑問に思った事を聞いてみた。
「依頼を頼まれた時の話より準備が早く済んだみたいだが、理由を聞いてもいいか?」
「勿論構いません。でも難しい話は何もなく、単純に一番時間が掛かるとお嬢様や私が予想した水夫や物資の手配が簡単に済んだのです。どうやら北で起こった魔物の氾濫が大方の予想より早く終息したそうで双方とも余り気味だったようです」
今の言葉から類推すると、王都辺りから海路を使いトロス経由で伯爵家の討伐部隊や集まった傭兵達へ物資を流して儲けようと思った商人が複数いたんだろう。
でも俺達がかなり早くに氾濫を納めたんで需要が一気に減り、商人たちが損切をして物資やそれを運ぶため雇われた水夫がトロスへ取り残されたんだろうな。
そんな話をしながら確認した書面に書かれてある護衛契約やその報酬の内容にもおかしな所は無さそうだ。
「なるほどな。教えてくれて感謝する。それで今目を通して見たが、この内容で不満はないから同じ書面をもう1枚用意してくれ。俺とアリス嬢がその両方へ署名してお互い1枚ずつ保管しよう」
「承りました。トロスからの出発時にお嬢様とサインをして頂けるよう用意をさせて頂きます。出港の日時を確定させたいのでリクさん達のご準備の進み具合を伺っても宜しいですか?」
「ああ。俺達もあと一つ傭兵ギルドで簡単に片付く用事が済めば準備は終わる。今日中に片をつけるつもりだが、ギルドが俺に嘘をついて無いならどんなに遅くても明日の朝方には済ませられる。そっちも急いでるんだろうから出港は明日の朝方、遅くても昼まででどうだ?」
「お嬢様も明日の出港で異存はないと思われるので、このあとすぐに最終の準備を始めさせます。それと傭兵ギルドへ出向かれるのなら、ついでにお願いしたい事があるので聞いていてだけますか?」
「別に構わないが、何だ?」
「では傭兵ギルドに拘束をお願いしているお嬢様を襲おうとしたあの男を我々の船へ護送して頂けませんか?」
言われてみればその襲撃犯をパルネイラへ連れて行く為に俺達は雇われた訳で、護送は依頼の一部だろうしそれなら用事を一度に片付けられるな。
それに襲撃犯を護送して船に乗り込みそのまま出港してもらえば一番目立たないな。
「分かった。あの襲撃犯の護送なら依頼に含まれそうだら引き受けるよ。身柄をギルドから引き渡されたらそのまま護衛の仕事を始めて、一緒に船へ乗り込んで見張っておく。ただ身柄の受け渡しにはそっちの立会いも必要だろうから後で傭兵ギルドへ顔を出してくれ」
「承知しました。今の話をお嬢様へ報告し明日出港の手配を終えたら私が傭兵ギルドへ参ります。それではこれで失礼いたします」
優雅に一礼してメリエラ女史は出て行った。
これで明日トロスを出発するのが本決まりだろうし、あの襲撃犯を引き取った時点で俺達の仕事が始まる訳で出発の準備を終えてギルドへ向かおう。
といっても俺達の荷物は家具以外各自の格納庫か俺の格納領域へ納めてあるので依頼に出る面子が集まればそれでいい。
ティータとティーエに昨日と今日は自由行動で魔物狩りに行っているバルバスとアグリスにアデルファを呼びに行ってもらった。
楔の転移と念話による連絡で1時間かからずに3名とも借家へ戻ってきてくれる。
借家の事は引っ越してくれたミシェリさんへ頼み、なるべく転移で様子を見に戻ってくると約束して借家を出た。
ギルドの前でメリエラ女史を待つ事になると思ってたんだが彼女はもう着いていて並んで中に入る。
夕方のギルドが込む時間帯より前だったので楽にサラの前に立てた。
「これはリクさん。ようこそ当ギルドへ。お出で頂いたのは賠償金の件についてですか?」
「ああ、他にも用件はあるんだが、それを先に済ませておきたい。金の用意の状況はどうなんだ?」
「それについてならもういつでもお支払いできます。お急ぎなら今ここへお持ちしましょうか?」
「それはありがたいな。じゃ、頼めるか?」」
一礼したサラが一旦奥へ引っ込み、じゃらじゃらと硬貨の擦れる音がする袋を手に戻ってきてそれを俺の前に置いた。
「お約束した賠償金になります。お確かめ下さい」
誤魔化しなんてないと思うが一応看破眼でサラと袋を確かめ、2000万ロブロ入っているのが見えたので格納庫の方へ収納した。
「確かに受け取った。これで廃坑での揉め事についてはお互いに遺恨なしでいいよな?」
「はい、当ギルドとしても異存ありません」
「じゃあ、これで終わりだ。あと俺から報告と詫びがある。この前伝言を仲介してくれたアリス嬢から依頼を受けて彼女がここへ預けている男を俺達が護送する事になった。暫くトロスを離れるんで廃坑前に出張所を出して貰う話は俺が戻って来るまで進められない。俺から持ち込んだ話を棚上げにして悪いんだがな」
「そういう事情なら仕方ありませんし、こちらとしては建物が出来てから詳細を決めていこうと思っていたので構いません」
「そう言ってくれると助かる。しばらくここへは顔を出せないだろうが達者でな」
「リクさんも御武運を」
頷いてくれるサラに手を挙げて答え、後ろにいたメリエラ女史と立ち位置を入れ替わった。
一言二言メリエラ女史と言葉を交わしたサラがまた一礼して奥に下がり、前後をギルドの警備兵に挟まれた襲撃犯を連れて戻ってきた。
カウンターを出た所で護送をギルドの警備兵から引き継ぎ、襲撃犯の左右へアグリスとアデルファについて連行してもらいギルドを出た。
メリエラ女史の先導で人出が増え始めている飲み屋街や花街を抜け港へ出て、アリス嬢が所有する船へ乗り込んだ。
襲撃犯の監視は俺もやるつもりだったんだが、人化ゴーレム組がローテーションを組み自分達だけでやると主張するので俺が折れてバルバス達に任せた。
その襲撃犯の軟禁部屋の隣が俺達にあてがわれた船室で、やることが無くなったし大人しく格納庫へ納めてあった食事で夕食を済ませ眠りに着いた。
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