#92 舞い込んだ、指名依頼 4
馬車での移動が快調で暇な時間を潰す意味もあってこれからの事を考えてみた。
パルネイラ行きに必要な準備は素早く済ませ、ついでに出発までにやっておきたい用事もさっさと片付けたい。
まず最優先はパルネイラへ向かう船の手配だが、護衛として目的地行きの船に潜り込めるかは完全に運次第だから出たとこ勝負だな。
最悪自分で船を仕立てる事になってもそこそこ金に余裕はあるしエクトールさんの添え状もある。
もしそれさえ失敗してもタリンダの背中に乗せてもらいパルネイラの近くまで運んでもらって、楔で仲間達を呼び寄せるって裏ワザも一応ある。
だから船の手配に延々と時間がかかりそうなら早々に見切りをつけてしまってもいいだろうな。
ただ船での移動中にやってみたい事を一つ思いついたんで出来るだけ交渉を頑張ってみるとしよう。
他に必要そうな物といったら移動中の水や食料に予備の武具があったら尚いいか。
まあ移動中の水や食料は護衛として船に乗れたら依頼主が手配してくれるかもしれないし、自前で用意するにしても廃坑のドワーフ達への差し入れを装えば目立たない。
ポイントがちょっと惜しいけど、どうしても目立つのが不味くなったら楔で作り出してもいい。
予備の武具は廃坑や北の砦のドワーフ達へ注文した方がいい物が手に入る筈だし、出発に間に合わなくても後で楔を使って受け取ればいいな。
後はもしパルネイラで急に何か必要な物が出てきてもエクトールさんの添え状を使わせてもらって現地で手に入れよう。
出発の準備にそう大きな問題は無さそうだが、やっておきたい用事の方はどうかな。
まずガルゴ・アルデスタ男爵が裏で糸を引いて起こったギルド職員との揉め事についてはもう関わらない。
支払いを取り付けた賠償金を受け取って最終処分を聞きとれば十分だな。
もしまだ処分が終わってないようならアルトン伯爵の護衛が終わるまで保留にしておけばいい。
それと廃坑前にギルドの出張所を置く件は戻ってくるまで確実に保留だな。
他にはミシェリさんを引き抜いた事後処理がまだ終わってないか。
まだ商売を畳んでいる途中だと思うけど、終わった頃には俺がパルネイラへ向けて出発してる可能性が高いな。
最低でも隷属刻印を打ち込んでないとクライフとは引き合わせられないが、護衛依頼が終わるまで待たせるとなんだかその後が怖い。
ミシェリさんも忙しいと思うが出発前に俺が出向いて完全に仲間へ引き込んでおこう。
そうすればトロスでの細々とした表の用事はミシェリさんに処理してもらえる。
後は隠れ里や北の砦の住人達へ転移移動の許可証代わりの首飾りや物の移動を助けるための格納庫もまだ配ってないな。
格納庫はそう急がなくてもいいが、ロックガーディアン達の負担を減らすために許可証代わりの首飾りは少しでも早い方がいい。
パルネイラへ向けて出発しても楔を使って戻ってこられるのが、不定期になるだろうからそれまでに許可証代わりの首飾りだけでも先に配ってしまおう。
トロスへ戻ったらクライフへ制作状況を要確認だな。
魔物の狩場や廃坑でのポイント集めと管理は人化出来ない眷属達がこれまで通りにやってくれるだろうけど、それでもなるべく楔で様子の確認に戻る事にしよう。
考え事をしているとすぐ時間が流れ、日が暮れる前にトロスへ着け馬車を返却しに傭兵ギルドへ向かう。
受付にいたサラへ馬車のレンタル料の後金を払い、丁度良い機会なのでついでに俺達へ喧嘩を売ってきた連中の処分が今どんな状況か聞いてみた。
「俺が引き渡した連中が今どうなってるのか、言えるところまででいいから教えてくれないか?」
「勿論構いません。リクさん方は被害を受けた当事者ですから包み隠さずお教えします。引き渡して頂いた者達ですが全員の処分がすでに決定していて、1名を除き既に実行されています。ただその1名が問題で完全な処分の実行には時間がかかると思います。具体的には首謀者である当ギルドの元職員は犯罪奴隷として売却すると決まりました。ただその証言がまだ必要なためギルドに留め置かれています。その他の雇われた傭兵達は当ギルド所有の借金奴隷と決まりもう働かせています」
「概ね異存のない処分内容だな。けど首謀者の元職員がまだ売られずにいるのってやっぱりガルゴ・アルデスタ男爵絡みなんだな?」
「その通りです。お恥ずかしい話ですがガルゴ・アルデスタ男爵様へどの程度の抗議をするか、その段階でギルド内が揉めています。実際に抗議をして謝罪や補償の話に決着がつくのは相当先になると思います」
あ〜ガルゴ・アルデスタ男爵が息のかかった職員を通じて内部工作を仕掛けてる訳だ。
どれだけの数がいるか分からないが、それ以外の職員や幹部には他の王国領への面子が掛かってるってエクトールさんは言ってたし、そりゃ揉めるし時間もかかるわな。
「そういう事情なら俺への賠償金の支払いも先延ばしになるのか?」
「いえ、首謀者の売却代金やその他の傭兵達の負債額は正式に決定しています。ですからリクさんの要求になるべく沿って賠償額の見積もりをもう済ませています。この2〜3日中に金額の詳細を詰めにお伺いしようと思っておりました」
「それならここで賠償額を決めよう。俺の仲間はみんないるし、ここで決めた方がギルドも手間が省けるだろ?」
「こちらとしても異存はありません。リクさんのご配慮に感謝します。では今回当ギルドの元職員が起こした騒動の賠償として我々はリクさんへロブロで2000万お支払しようと考えています。そちらのお考えをお聞かせください」
確かに賠償額の算定基準は俺が提案したが、正直奴隷の相場なんて全く分からない。
無駄に考えるより多少でも相場を知ってそうな仲間に念話で相談した方が正確な判断ができるだろうし話が早いな。
(ティータ、ティーエ、2人はこの金額で妥当だと思うか?)
(そうですね。成人男性十数人の奴隷の売値に5割増しなら、おかしくない額だと思います)
(わたしもティーエちゃんに同感です)
(分かった。2人とも、ありがと)
賠償額が順当なら今後のギルドとの付き合いもあるし、下手にごねずに受け入れておこう。
「その額で俺達にも異存はない。ギルドに値切るつもりが無いなら決まりでいい」
「お受け頂きありがとうございます。全額現金でお支払いしまずが、2000万ロブロとなると大金ですので用意に少しお時間を下さい。3日ほどで準備出来ると思いますが警備の問題もあるので受け取りに来て頂けますが?」
「俺達の方もそれで構わない。3日経ったらなるべく早いうちに受け取りにくる。本当ならついでに俺から持ちかけた出張所の話もするべきなんだろうけど、悪いが話を進めるのは賠償金を受け取ってからにしてくれるか?」
「分かりました。リクさんお話はこれで終わりでしょうが、今の話とは別件でリクさんへ伝言を依頼されています。お聞きいただけますか?」
「ああ、誰からだ?」
「コランタ商会のアリスさんからです。用件としては助けて頂いたお礼とご迷惑をかけたお詫びに奴隷化の首輪を融通して頂いた謝礼を払いたいそうです。アリスさんの方からお伺いしたいそうで面会して頂ける日時をリクさんから聞いて欲しいとお願いされました」
そういう理由なら面会してもいいが、明日からは船の手配や旅の準備で忙しくなり決まった自由時間をひねり出すのは難しくなる。それなら俺から会いに行った方が手早く済むな。
「話は分かったが、俺にも予定があるんでな。だから明日の昼までに俺から出向くと今日中にアリス嬢へ伝えてくれ。伝言を頼まれたんだから返事を伝えるのに向こうの宿がどこか聞いてるんだろう、それも教えてくれ」
「分かりました。確かにアリスさんへお伝えします。宿の名と大まかな場所をメモするのでお待ちください」
30秒と待たずにメモは出てきて、一礼してくるサラに手を挙げて答え受付を離れた。
ギルドを出た後は真っ直ぐ借家へ帰り、そのままクライフの研究室へ顔を出した。
留守を守ってくれたクライフの労を労い依頼の進み具合を聞いてみた。
格納庫は欲しい数までまだ出来てなかったが、許可証代わりの首飾りはもう十分な数がそろっていた。
試しにその1つへ俺の魔力を込めて、すぐそこの楔を守ってくれてるロックガーディアンへ見せてみたらきちんと俺の魔力を感じ取れていた。
問題無さそうなのでクライフへ礼を言って首飾りは全部受け取り格納領域へ納めた。
パルネイラへ出発前に済ませておきたい用事の内2つも目途が立って気分が上がり、久しぶりに冥炎山の洞窟へ眷属達を集めて楔で作った日本食をみんなで囲んだ。
お読み頂きありがとうございます。




